日本大百科全書(ニッポニカ) 「白糸刺しゅう」の意味・わかりやすい解説
白糸刺しゅう
しろいとししゅう
概説
白い布に白糸で刺しゅうしたものをいう。一般にはニードルレースの母体といわれるカットワーク、ドロンワーク、アジュール刺しゅう、チュール刺しゅう、汕頭(スワトウ)刺しゅうなどの総称である。
[木村鞠子]
由来
古くはアラブ民族が、厚い重い木綿地に白糸で刺して衣服として着用していた。ヨーロッパでは15世紀にローマを中心とした修道院の仕事として始められ、のちにドイツやスイスで、白い麻地に白糸で刺すなど、国によってそれぞれ特徴を出した。そして教会でも多く使われるようになり、ヨーロッパ各地に広まったが、この刺しゅうはアラブ民族の影響を強く受けているといわれている。また、ヨーロッパのキリスト教普及のため、中国に派遣された宣教師が難民や孤児救済のため、この技法を教えたものが、現在、世界各国に輸出されている汕頭刺しゅうとして発展した。日本には1889年(明治22)、横浜の外国商館や宣教師によって一般に伝えられた。
[木村鞠子]
糸
アブローダー、25番刺しゅう糸、麻糸など。
[木村鞠子]
使われるステッチ
ストレートオーバーキャストステッチ、レイズドサテンステッチ(芯(しん)を入れたサテンステッチ)、オーバーキャストアイレットステッチ、オーバーキャストスパイダースステッチ、ボタンホールドバー、オーバーキャストバー、ランニングステッチ、ピコットなど。
[木村鞠子]
用途
衣服、小物類、室内装飾品など。
[木村鞠子]
カットワーク
もともと白糸刺しゅうとして発達したが、現在は色糸も多く使われている。ルネサンスカットワーク、リシュリューワークともいわれている。図案の輪郭線をボタンホールステッチやロールステッチで刺してから、不用の布地をカットしたり、刺しながら穴をあけていくレース風の刺しゅうである。
[木村鞠子]
糸
アブローダー(カットワーク用刺しゅう糸)、25番・5番の刺しゅう糸など。
[木村鞠子]
用途
衣服、小物類、室内装飾品など。
[木村鞠子]
ドロンワーク
布地の縦糸や横糸を抜いて、残った織り糸をかがりながら模様を入れていく透かしレース風の刺しゅうで、本来は白糸刺しゅうであるが、現代では美しい色糸も使われる。
[木村鞠子]
布地
織り糸が抜きよいように、糊(のり)気のない、縦・横の布目のそろった生地を選ぶ。麻、木綿、絹、薄手ウール地、化合繊地。
[木村鞠子]
かがり方
片ヘムかがり、柱かがり(巻き縫い柱かがり、ボタンホール柱かがり)、山路かがり、千鳥かがり、巻き縫い、ボタンホールステッチ(ほつれ止め)、波かがり、鎖目結び、くもの巣かがり、ダーニングかがり、七宝(しっぽう)かがり、三つ割かがり、メキシコかがり、イタリアかがり、ドイツかがりなど。
[木村鞠子]
用途
衣服、ショール、小物類、室内装飾品など。
[木村鞠子]
アジュール刺しゅう
アジュール刺しゅうはドロンワークに属する技法であるが、ドロンワークのように織り糸を抜かずに、織り目の粗い布地を使って刺しゅう糸で刺しながら糸を引き締めて、ドロンワークのように布地に穴をあけていく。またこの刺しゅうは、織り目を数えて刺すので区限刺しゅうの部にも入る。
[木村鞠子]
由来
デンマークなど北欧で18世紀ごろから始められ、それが各国に伝わった。また、トルコ、イラクなどでも多く見受けられる。
[木村鞠子]
布地
アジュールクロスや、織り目が粗く織り糸の引きやすい布地が適する。ラフな感じのものにはドンゴロスなどを使うこともある。
[木村鞠子]
糸
25番刺しゅう糸、アブローダー、麻糸など。
[木村鞠子]
使われるステッチ
両面アジュールステッチ(表・裏とも同じで、どちらを表にしてもよい)、オープンワークシームの縦・横・斜めの刺し方、市松模様、菱(ひし)形模様、星かがり、四角かがりなど。また、図案をかき、その周りをアウトラインステッチ、コーチングステッチ、チェーンステッチ、オーバーキャストステッチ、ボタンホールステッチなどで刺し、その中にいろいろのかがり方を使って模様を入れていく。
[木村鞠子]
用途
室内装飾品に多く使われるが、布地の選び方によっては衣服、小物類にも使われる。
[木村鞠子]