改訂新版 世界大百科事典 「短期費用長期費用」の意味・わかりやすい解説
短期費用・長期費用 (たんきひようちょうきひよう)
short-run cost, long-run cost
経済学における時間の概念のうち,最も重要なものが短期・長期の概念である。短期とは,工場の規模や数のように,その期間内では変更することができない生産要素が存在するような期間のことであり,この期間内に企業が自由に変更できるのは原材料,労働などに限られる。長期とは,工場の新増設も可能で,すべての生産要素が可変的となるような長さの期間のことである。短期においては長期と比べ,企業の政策変数,意思決定の範囲が限られたものとなるのである。そこで,短期費用は,その期間内では変更することができず,生産量を変化させてもつねに一定額かかる固定費用(機械・設備の償却費,土地の賃借料など)と,企業が自由に変化させることができ,生産量の増減にともなって変化する可変費用とから構成される。これに対し,長期においては,すべての生産要素を変化させることができるため,固定的な費用は存在せず,すべてが可変的となる。長期においては,すべての生産要素を変化させることが可能で,その結果,各生産量水準に対して最も低い費用が選ばれるのに対し,短期では固定要素の存在のゆえに選択の幅が限られているため,長期費用は短期費用より高くなることはない。
執筆者:後藤 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報