磁気圏嵐(読み)じきけんあらし(その他表記)magnetospheric substorms

改訂新版 世界大百科事典 「磁気圏嵐」の意味・わかりやすい解説

磁気圏嵐 (じきけんあらし)
magnetospheric substorms

単にサブストームsubstormsともいう。磁気圏あらしは,太陽風と地球磁場の相互作用で磁気圏内に流入したエネルギーが,オーロラ・オバル領域で爆発的に消費される過程であり,地球磁気圏全体にわたる大規模な電磁じょう乱現象の基本形態を指す。サブストームという概念は,最初はオーロラや極域磁場変動の時間的発達過程をまとめた結果,1964年に赤祖父俊一により導入されたものである。その後,衛星観測が進み,オーロラ現象と磁気圏じょう乱とのつながりが明らかにされる過程で,磁気圏現象を統一的に理解しようとする立場から一般的概念として使われるようになった。

 太陽風から磁気圏へのエネルギーの流入の効率は,惑星間磁場南北成分Bzに著しく依存する。磁気圏の基底状態ともいうべき,オーロラや地磁気の活動が静かな状態は,Bzが数時間以上北を向いているとき起こる。このようなときは,極冠地域の一部を除いてまったく静穏な状態になる。サブストームは,Bzが南向きに変化してから1時間ほど遅れて始まる。このサブストームの開始に至るまでの時期にも,特徴的な変動がみられる。極域においては,アーク状のオーロラが徐々に明るさを強めながら赤道側に移動し,磁気圏対流の発達に対応して地磁気変動が成長する。磁気圏尾部のテールローブでは磁場の増加がみられ,プラズマシートの地球側境界に近い静止衛星軌道(6.6REREは地球半径6370km)付近では,磁場が双極子型から尾部のような形になる。以上のような変化はゆるやかであるため始まりははっきりしないので,一般にサブストームの開始は,アーク状のオーロラが真夜中付近で爆発的に輝きはじめ,西向きや極方向に急速に動きだすことで定義する。同時に,極磁気あらしの開始を示すものとして,朝方から真夜中前までのオーロラ・オバル領域で西向きのジェット電流が発達しはじめる。この爆発的なオーロラ活動の開始は,磁気圏尾部に蓄えられた磁場のエネルギーが急激に粒子のエネルギーとして解放される結果と考えられている。この過程は磁気再結合と呼ばれている。プラズマシートの中心で南北の反平行の磁力線結合が起こり,それまで長く伸びていた磁力線がX型に交叉して磁気中性線が形成される。プラズマシートの中心へ向かってきたプラズマはこの中性線を境として地球側と反地球側へ加速されることになる。地球側に加速された粒子の一部はオーロラ粒子として極域に降り込み,一部は放射線帯を形成する粒子となる。放射線帯への粒子流入は,静止衛星軌道付近では,磁場が双極子型に戻る変化とともに高エネルギー粒子の急激な増加として観測される。これらオーロラ活動の活発化に伴う一連の磁気圏じょう乱は,30分程度で発達を終える。この時期を拡大期expansion phaseという。磁気圏あらしの継続時間は,この30分程度の拡大期と引き続く回復期recovery phaseを含め,1~3時間である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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