改訂新版 世界大百科事典 「社会保険審査制度」の意味・わかりやすい解説
社会保険審査制度 (しゃかいほけんしんさせいど)
社会保険諸法に関する紛争を審査する制度。国民の生活と福祉に深くかかわる社会保険の性質上,紛争に関して迅速かつ公正な処理が経費を要することなく行われる制度によって,侵害された権利の救済が行われなければならない。そのための機関として,特別裁判所を設けるドイツ(旧,西ドイツ)の例もあるが,日本では行政審査機関を社会保険審査に当たらせている。日本の制度は,労働保険に関するもの,一般社会保険に関するもの,国民健康保険に関するもの,各種共済組合に関するものが別建てになっている。最初の二つは二審制,他は一審制である。一般社会保険に関する審査機関は,第一審機関である独任制の社会保険審査官が各都道府県に配置されている(一般職の公務員)。第二審機関である合議制の社会保険審査会は中央に置かれ,委員は内閣総理大臣が国会の同意をえて任命する。これらの審査機関に対して,被保険者資格,標準報酬,保険給付,保険料または徴収金,通算年金の通算対象期間などの事項に関する処分について不服申立てをすることができる。社会保険審査会の裁決に不服がある場合には,裁判所に訴えることができる。社会保険審査官・審査会における審査・再審査受付件数は,1978年以後増加してきている。原処分の変更による審査請求の取下げ件数もふえているが,決定・裁判件数に対する容認率はかえって低下傾向にある。
執筆者:保坂 哲哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報