改訂新版 世界大百科事典 「社会扶助」の意味・わかりやすい解説
社会扶助 (しゃかいふじょ)
social assistance
ILOの《社会保障への道Approaches to Social Security》(1942)は,社会保障の技術面での二つの柱として,社会扶助と社会保険とをあげている。ここでいう社会扶助とは,1891年のデンマーク無拠出年金制度に範をとっている。これは旧来の救貧関係法とは区別され,市(公)民権の喪失をともなわず,資力調査means testより狭い所得調査income test等を要件として,所得が一定限度を上回らないかぎり,すべての者が等しくほぼ定形の給付を受ける,という画期的なものであった。これが先例となって多くの国で無拠出年金制度その他が生まれた。とくに世界恐慌下に多くの先進諸国において,失業保険給付を使い果たした失業者に対する救済方法の主要な一つとして,公費による失業扶助(たとえばイギリスで1935年開始)が制定され,それらの進展とともに社会扶助が注目を受けるようになった。そしてイギリスでは現在でも,日本の生活保護に匹敵する国民扶助national assistanceやそれを引き継いだ補足給付supplementary benefitなどを総括して社会扶助と呼んでいる。
前掲ILO書は,社会保険と社会扶助の関係を,社会保障の一つの発展方向として理解しようとしている。社会扶助は救貧関係法から社会保険の方向への一つの前進であり,他方社会保険は私的保険から社会扶助への方向での進展である,というのである。現実には,社会扶助と社会保険とは相互に接近・浸透しあっている場合が多い。日本では,社会扶助という語は,まだ一般的であるとはいえず,人によって異なった意味で使われている。第1は,公的扶助(いわば広義のそれ)と同義に使われる場合である。その場合は慈恵的性格を払拭したとされる生活保護その他の扶助立法を中軸として,これに上述のいわば狭義の社会扶助が含まれる。第2は,上述のいわば狭義の社会扶助だけを,公的扶助から社会保険への中間の形態であり,それによって屈辱心を軽減できるものであるとして,とくに限定して社会扶助とか社会手当と呼ぶ場合であり,この用法もかなり見られる。
執筆者:小沼 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報