立つ鳥跡を濁さず(読み)タツトリアトヲニゴサズ

デジタル大辞泉 「立つ鳥跡を濁さず」の意味・読み・例文・類語

とりあとにごさず

立ち去る者は、あとが見苦しくないようにすべきであるということ。退きぎわのいさぎよいことのたとえ。飛ぶ鳥跡を濁さず。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

ことわざを知る辞典 「立つ鳥跡を濁さず」の解説

立つ鳥跡を濁さず

去っていく者は、跡が見苦しくないように始末してから出立しなくてはならないというたとえ。また、引き際がいさぎよく、さわやかなたとえ。

[使用例] 立つ鳥は跡を濁さないという、来た時よりも去る時がむつかしい(生れるよりも死ぬる方がむつかしいように)、幸にして、私は跡を濁さなかったつもりだ、むしろ、来た時の濁りを澄ませて去ったようだ[種田山頭火*行乞記|1932]

[使用例] 各ロケ地で、いろいろとお世話になる方々がいるが、父は〈略〉車に乗っていても必ず降りて、帽子を取って丁寧に挨拶をする。お借りした場所をお返しするときも、掃除して元の状態に戻し、「立つ鳥跡を濁さず」だと、口を酸っぱくスタッフに言い聞かせていた[黒澤和子*回想 黒澤明|2004]

[解説] 鳥が飛び去った後も水は澄んだまま変わらない、という情景描写です。ことわざには、どんな鳥か明示されていませんが、末尾の「濁さず」から水鳥とほぼ推測することができます。安土桃山時代には、「鷺は立ちての跡濁さぬ」といいましたから、サギをイメージしてもよいでしょう。水鳥が飛び去っていった情景を簡潔なことばで描写し、言外に人のあるべき姿を示唆しています。訪れた地に別れを告げるときや従事していた職務を離れる際は、いさぎよく跡を片づけ、きれいにしていくことが昔から大切な心得とされてきました。素朴な表現ですが、俳句などの短詩型文学の伝統に連なる、なかなか印象的なメタファー隠喩)といえます。
 日常的にも比較的よく使われる表現で、ふだんは特に意識せずに使っていますが、あらためて見直すと、日本人の美意識倫理観一端を象徴する表現といってよいでしょう。

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