精選版 日本国語大辞典 「挨拶」の意味・読み・例文・類語
あい‐さつ【挨拶】
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日常の人間関係を円滑に取り運ぶための、一定の形式をもった、なかば儀礼的な相互行為。一方、人間関係を疎遠にするために交わすこともある。
挨拶の方法は、互いに声をかけあったり、または特定の顔の表情や身ぶり手ぶりで示すなどさまざまであり、これらのことばや動作は、それぞれの社会において幼いころからしつけられる。また挨拶には、社会的空間において互いの関係を位置づけまたは確認するという目的も含まれているため、性、年齢、地位、身分、宗教、親族関係の有無あるいは差違、生活集団の内にあるか外にあるかなどの諸条件に応じて挨拶の仕方も違ってくる。
たとえば、サウジアラビアの砂漠に住むベドウィンのある部族は、他部族のテントを訪れたとき、彼らのうちの男たちとだけ握手を交わす。訪問先が同一部族であって、相手が30歳くらいまでの同じリネージ(単系出自集団の一つ)であれば、軽い口づけを挨拶とする。中年以上、または別のリネージの者に対しては、相手の鼻に2~3回指を触れる。また相手が老人の場合は、リネージが異なれば単に指を鼻に触れるだけだが、リネージが同じなら鼻に接吻(せっぷん)をする。一方、女たちに対しては、リネージが異なり姻戚(いんせき)でもなければ、テント内の仕切り越しにことばをかけるだけである。しかし同リネージの場合は、女の区画へ入って行き、リネージの差異により握手あるいはベールを上げて頬(ほお)に接吻をする。
このほか、変わった挨拶として、マサイなど東アフリカの牛牧民は地面に槍(やり)を逆さまにして突き刺すし、ニューギニア高地のモニなどは「アマカネ」といいながら指切りのようなことをして互いに引っ張って離し、パチンと音をたてることで親しみを表現する。またエスキモーによる満面笑みをたたえた特別の応対ぶりなど、個々の事例は旅行記や民族誌で多く紹介されている。
しかし、諸民族とりわけ非西欧的社会における挨拶については、風変わりな部分だけが取り上げられ、ことさら話題にされる傾向が強い。だが、日本人が腰を折り身をかがめておじぎをし、欧米人が抱擁し接吻するのも、みる立場によっては、それぞれ変わった挨拶として受け止められよう。挨拶を考える場合、その背景にある社会的状況と文化的前提とを対比、関連させながら掘り下げる必要があろう。
[小川正恭]
日本人の挨拶も対面交渉の前後に行われる応対方式であって、通例伝統的に形式化した「ことば遣い」に特定の「身ぶり」を伴う。挨拶の「挨」は押す、「拶」は押し返すの意で、本来は禅僧の「知識考案」における「受け答え」をさす語で、それが一般にも通用するに至ったもの。国語では古くから「物言い」あるいは「ことばをかける」「声をかける」などと言い習わし、狂言において応対文句に「何と」「物と」とあるのも同趣である。こうした応対方式は有職(ゆうそく)故実の「礼式」などに定型化されて伝存するが、むしろ民間一般の習俗が重視されるべきで、地方性と職業に従ってその様式は多様を極め、また時代による変遷も顕著である。
挨拶の方式は「仲間内」と「仲間外」の別があり、また日常時(ケ)と特定の改まった場合(ハレ)とでは大きな違いが生ずる。日常の挨拶ことばは、天候や仕事の進度など共通の関心にかかわる「形式的用語」であり、季節や時刻で異なる。早朝のオハヨウは一般的であるが、このほかオヒンナリ、タダイマというような地方的用例もいろいろある。日中のコンニチハにも、オセンドサン、ゴショウダシなど、相手の働きぶりを褒める意味の挨拶ことばを用いる地方もある。また、オアガリ、ノマンシタカなど休息、食事にかかわるものや、オツカレ、オバンデ、オシマイナなど夕刻の挨拶には労働のねぎらいを示すことばが多い。夜のオヤスミも同義で、オイザト、ダッチョ、ザットヤーなどの方言には「目ざとくあれ」という古意が残っている。
他家訪問や初対面の応対にも定型の用語があり、これらもまた地方的、職業的に特殊化した例が少なくない。ウチナ、イラシンスケなど家人の在否を尋ねる形から、オユルシナ、ゴヨウシャなど、今日のゴメンクダサイと同意の語が多く用いられ、さらに形式化してハイット、ヨイト、オイロンといった簡略語も生まれた。「物申(も)う」も簡略語の旧形で、現在は電話応対のモシモシに名残(なごり)をとどめている。サヨナラ、ソンナラという「別れことば」も多岐にわたり、マタナ、オミョウニチ、コンドメヤ、ソンデハマタなど再会を約す意味のものが多い。仲間内の日常挨拶ことばは簡略化が進み、まったくの符丁と化したものも珍しくはないが、それでも仲間関係の確認には足りるのである。
正月礼、盆礼、節供礼や吉凶の訪問には、改まった慣習的挨拶ことばがあり、所によっては「口上書(こうじょうがき)」を伴う古形式さえ残っている。また、「仲間入り」の挨拶は職業によって違うが、おおむね重々しく、いわゆる「披露」の挨拶ともなると多分に様式化されるのを常とした。歌舞伎(かぶき)役者の「披露口上」などはその典型であり、また「やくざ仲間」の「披露」もものものしく、別に仲間外挨拶として「仁義をきる」という作法様式も生じた。
一般に挨拶には呪術(じゅじゅつ)的祝福の意を伴うことが多いとされているが、日本の場合はそれが希薄で、わずかにトウデヤ、アリガトウなどの「礼ことば」に神仏をたたえる意が若干残る程度である。
挨拶の「身ぶり」は多様で、日常の場合は簡略化されたものの、特定の席ではさまざまに様式化した。『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』によれば、下戸(げこ)が大人(たいじん)に会うと退いてうずくまり、両手をついてかしこまり、「噫(あい)」と返答するとか、あるいは公の場にあって大人の礼拝に両手を打って応ずる、とある。これは古形を伝えるものだが、少なくとも日本においては「頭を下げる」ことが伝統的様式であり、立礼と座礼ではその様式も異なる。とくに「ハレ」の席の座礼にあっては、扇の使用によってさまざまの形を生み出すことにもなった。
[竹内利美]
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…そもそもの起源が唱和問答にあったから,時節,場所がらなどの状況を巧みにとらえて相手に問いかけるのが発句本来の性格である。したがって,〈当季眼前〉の景物をよみこんで挨拶することが,長連歌においてもならいとなった。当然ながら一座の主賓格の人を立てることが多く,〈客発句とて昔は必ず客より挨拶第一に発句をなす〉といわれ,常連のみの集いでも発句をよむ者にはその気持が大切とされた。…
※「挨拶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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