改訂新版 世界大百科事典 「第九交響曲」の意味・わかりやすい解説
第九交響曲 (だいくこうきょうきょく)
ベートーベンの最後の《交響曲第9番》,ニ短調,作品125(合唱付)をさす。作曲の直接の契機は1817年6月ロンドンのフィルハーモニー協会から交響曲を2曲依頼されたことで,彼は18年冬に第1楽章の草稿を書き始めた。しかし甥カールの後見に関する裁判やルドルフ大公の大司教就任を祝う《荘厳ミサ曲》のために,作曲の仕事は22年冬まで中断され,24年2月にようやく完成した。初演は同年5月7日にウィーンのケルントナートル劇場で行われ,当時ロッシーニに傾倒していた聴衆に深い感動を与えた。出版に際しては,時のプロイセン国王フリードリヒ・ウィルヘルム3世に献呈された。この交響曲の特徴は先例のない規模の大きさと,終楽章にJ.C.F.シラーの詩《歓喜に寄せてAn die Freude》による独唱と合唱を用いたことである。〈全人類が同胞になる〉というヒューマニズムの理想を歌い上げた終楽章は,今日なお聴衆に深い感激を喚起せずにはおかない。日本における昨今の〈第九ブーム〉もその一つの表れである。
執筆者:児島 新
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