日本大百科全書(ニッポニカ) 「粗忽長屋」の意味・わかりやすい解説
粗忽長屋
そこつながや
落語。文化(ぶんか)年間(1804~1818)から口演されてきた古い落語で、原話は寛政(かんせい)(1789~1801)ごろの『絵本噺山科(えほんばなしやましな)』のなかの「水の月」。同じ長屋に住む八つぁんと熊さんは、ともにたいへんそそっかしい。ある日、八が浅草の観音さまにお参りしたとき、行き倒れに出会い、てっきり熊だと思い込む。この人は昨夜から倒れているのだといわれても「とにかく、ここへ当人を連れてきて死骸(しがい)を引き取らせます」と長屋へ帰り、熊を連行する。なんだか変だと思った熊も、生来の粗忽者なのでその気になって八について行く。死骸に接した熊は、抱き上げて眺めていたが「抱かれているのは確かに俺(おれ)なんだが、抱いてる俺は一体誰(いってえだれ)だろう」。このサゲは間(ま)ぬけ落ちとよばれるもののなかでも卓越したもので、多数の粗忽もののなかの代表作であるが、演出は非常にむずかしい。
[関山和夫]