遠慮(読み)エンリョ

デジタル大辞泉 「遠慮」の意味・読み・例文・類語

えん‐りょ〔ヱン‐〕【遠慮】

[名](スル)3原義
人に対して、言葉や行動を慎み控えること。「遠慮なくいただきます」「年長者への遠慮がある」「この部屋ではタバコ遠慮してください」
辞退すること。また、ある場所から引き下がること。「せっかくですが出席遠慮します」「君は遠慮してくれ」
遠い将来のことを思慮に入れて、考えをめぐらすこと。遠謀。「深謀遠慮
江戸時代武士や僧に科した刑罰の一。軽い謹慎刑で、自宅での籠居ろうきょを命じたもの夜間のひそかな外出は黙認された。
[類語](1気兼ね心置きはばか控え目斟酌しんしゃく忌憚きたん謹慎内輪(―する)憚る控える差し控える慎む断る/(2不承知不同意異議異論異存批判抵抗辞退固辞難色辞する否む難色を示す異を唱える異を立てる首を振る首を横に振るかぶりを振る如何なものか

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精選版 日本国語大辞典 「遠慮」の意味・読み・例文・類語

えん‐りょヱン‥【遠慮】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 遠い将来まで見通して、深く考えること。→深謀遠慮
    1. [初出の実例]「応似謙光君子徳、延齢遠慮是為媒」(出典:江吏部集(1010‐11頃)下・暮秋陪左相府書閣)
    2. 「遠慮(エンリョ)賢くして、角(かく)用意有けるか」(出典:源平盛衰記(14C前)二六)
  3. ( ━する ) 他人に対して、言葉や行動を控え目にすること。気がねして出しゃばらないこと。
    1. [初出の実例]「夫は一段と能らう。遠慮なしにいふて見よ」(出典:虎寛本狂言・鬮罪人(室町末‐近世初))
  4. ( ━する ) ある物事をするのを断わること。また、ある場所から退くこと。辞すること。
    1. [初出の実例]「先以用水を一円に小宅へ三个日分令遠慮、可遣之由」(出典:鵤荘引付‐永正一一年(1514))
    2. 「其座をゑんりょし立にけり」(出典:浄瑠璃・堀川波鼓(1706頃か)上)
  5. 弔意を表わし、悲しみをともにするなどの理由で、祝いごとをさし控えること。
  6. 江戸時代、武士や僧侶に科した軽い謹慎刑。居宅での蟄居(ちっきょ)を命ぜられるもので、門は閉じなければならないが、くぐり戸は引き寄せておけばよく、夜中の目立たない時の出入は許された。
    1. [初出の実例]「遠慮 門を立、くぐりは引寄置、夜中不目立様に 通路は不苦」(出典:徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・一〇三(1704))
  7. 江戸時代、武士で、親族に不幸があったり、伝染性の病人や罪人が出たりした場合、その出勤、または、謁見をさし控えること。
    1. [初出の実例]「疱瘡痳疹水痘遠慮之事」(出典:徳川禁令考‐前集・第三・巻二一・延宝八年(1680)一一月二八日)

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改訂新版 世界大百科事典 「遠慮」の意味・わかりやすい解説

遠慮 (えんりょ)

江戸幕府の下における刑罰ないし自発的謹慎。刑罰としては,武士,僧侶に科され,受刑者は屋敷に籠居して門を閉じるが,潜門(くぐりもん)は引き寄せておくだけでよく,夜間他の者が目だたぬように出入りしてもよかった。また武士は一定範囲の近親,もしくは家来が処罰されたときには,自発的に謹慎すべきであった。通常上司に差控伺(さしひかえうかがい)といういわば進退伺を出し,その指揮によって御番遠慮,御目見(おめみえ)遠慮などが命ぜられた。御番遠慮は勤務の禁止で,他行せず,月代(さかやき)もそらず籠居するもの,御目見遠慮は将軍の拝顔を遠慮するもので,御目見の儀式,および御成(おなり)の場合,勤仕から除かれるが,その他の出勤は許された。
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普及版 字通 「遠慮」の読み・字形・画数・意味

【遠慮】えん(ゑん)りよ

遠い先までのことを考える。〔論語、衛霊公〕子曰く、人、き慮(おもんぱか)り無ければ、必ずき憂ひり。

字通「遠」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遠慮」の意味・わかりやすい解説

遠慮
えんりょ

江戸時代の刑罰の一つ。武士や僧尼に科せられ,『公事方御定書』には,「門を閉ざし,くぐり戸は引寄せおき,夜目立たないように出入りすることはさしつかえない」とあり,また病気とか火事の場合は閉門のときと同様この限りではなかった。この種の刑罰のなかでは最も軽いものである。なお明治政府も,仮刑律において,公家,武士の閏刑の一つとしてこれを採用している。次いで制定された新律綱領では不採用。

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世界大百科事典(旧版)内の遠慮の言及

【謹慎】より

…言動を控え,みずからを戒めることで,刑罰・制裁としても科せられた。江戸時代,慎(つつしみ)と称した公家・武士の閏刑(じゆんけい)(特定の身分の者や幼老・婦女に対し本刑の代りに科す刑)は,《公事方御定書》が規定する塞(ひつそく),遠慮に類似の自由刑で,他出・接見などの社会的活動を制限することに実質的意義があったが,また名誉刑的な性格ももつ。幕末には大名処罰に隠居と併科された例が多くみられる。…

【閉門】より

…江戸幕府法では武士と僧に科せられる刑で,屋敷の門を閉じ,昼夜とも当人および内外の者の出入りを禁じ,ただ病気のときには夜中に医師を招き,また出火,類焼にあたっては消防,避難することは許されていた。自由刑と名誉刑との性質をもつ刑罰で,これより軽いものとして〈塞(ひつそく)〉〈遠慮〉〈戸〆(とじめ)〉〈押込(おしこめ)〉があった。前2者は武士と僧に科するもの。…

※「遠慮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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