日本大百科全書(ニッポニカ) 「素木得一」の意味・わかりやすい解説
素木得一
しらきとくいち
(1882―1970)
昆虫学者。函館(はこだて)市生まれ。札幌農学校本科を1906年(明治39)に卒業し、台湾総督府農事試験場(のち中央研究所)昆虫部長兼総督府技師となり、1928年(昭和3)より台北帝国大学教授を兼任し、1938年理農学部長、1942年退官して名誉教授となった。第二次世界大戦後は台湾大学教授などを務め、1947年(昭和22)帰国し、連合国最高司令部(GHQ)技術顧問となり、日本の害虫目録を完成した。直翅(ちょくし)類・双翅類分類の権威であるとともに、応用昆虫学にも深い知識をもち、台湾の農作害虫の調査、ベダリヤテントウほか天敵の導入などに貢献した。台湾在職中は多くの報告・論文を発表したが、晩年も『昆虫の分類』『衛生昆虫』『昆虫学辞典』その他の大著を出版し、昆虫学の発展に寄与するところ大であった。なお、明治の女流作家素木しづ(1895―1918)は妹にあたり、工学博士素木洋一(1914―1998)は長男である。素木博士米寿祝賀事業会発行の『思い出すまま』は生涯の懐古であるとともに、日本の昆虫学の歴史の一面を語る貴重な記録である。
[中根猛彦]