双翅目Dipteraに属する昆虫の総称。名のとおり2枚の翅をもっている。dipteraもラテン語で2枚の翅の意で,アリストテレスの用法のラテン訳にもとづき,リンネが二名法を提唱して以来,この目の名称として用いられている。一般に,昆虫類は4枚の翅をもっているが,双翅類では前翅のみが発達し,後翅は萎縮して平均棍と呼ばれる突起となっている。双翅類をわかりやすくいうと,われわれの生活と密接な関係のあるカ,アブ,ハエの類のことである。日本語では,蚊,虻,蠅と区別しているが,英名では例外的に小型のユスリカやヌカカをgnatというが,一般にはすべてをまとめてflyという。世界で五十数科,10万種以上,日本でも約30科,数千種の記録があるが,まだそのほとんどが研究されていないのが現状である。
双翅目は長角亜目,短角亜目,環縫亜目の3亜目に分類される。長角亜目Nematoceraは,触角が胸部より長く,8節以上あり,そのほとんどがほぼ等しい形状をした環節からなるグループで,カやガガンボの類である。長角亜目の幼虫の頭部はよく発達し,水平にそしゃくできる大あごをもっている。さなぎは裸出し,いわゆるカのオニボウフラのように可動である。羽化の際には,さなぎの殻が縦に割れて成虫が脱出してくる直縫型である。短角亜目と環縫亜目の成虫の触角は胸部より短い。短角亜目Brachyceraでは,第3節までが明りょうで,その先は分節が不明りょうな突起や触角刺毛になっている。短角亜目の幼虫の頭部は,不完全で通常体内に出し入れできる。さなぎは裸出するか,まれに終齢幼虫の殻に囲まれる囲蛹(いよう)とがある。羽化の際には,蛹殻が縦に割れる直縫型であるため,長角亜目といっしょにして直縫亜目とする学者もいる。環縫亜目Cyclorrhaphaの幼虫は,無頭で口器は上下に動く1対の口鉤(こうこう)となっている。蛹化は終齢幼虫(3齢)の殻中で行い,殻は脱ぎ捨てられずそのまま残る。このようなさなぎを囲蛹という。羽化の際には囲蛹殻の前部を環状に割って成虫が脱出してくる。このようなグループを直縫亜目に対し環縫亜目という。環縫亜目は,成虫が羽化する際,蛹殻を押し開いたり,土中から若成虫が脱出する際に,膨張を繰り返して土を押しながら地上に出る額囊(がくのう)を頭部前面にもつ有額囊群とそれをもたない無額囊群(ノミバエ科,ショクガバエ科)に分ける。
双翅類成虫の頭部の大部分は複眼で占められる。複眼は大きく,ふつう左右離れているが,雄で左右接近しているか,相接している場合もある。個眼の大きさは均一か,上半部が大きい場合があり,単眼は通常3個であるが,退化し,消失している種もある。口器は吸収口型で,それぞれの食物と密接な関係がある。とくに吸血性の種では,口器が特殊化し,吸血に適した刺す器官,または傷をつけて流血をなめるのに適した機能が発達している。カやアブのように雌が吸血する場合が多いが,サシバエ,ツェツェバエは雌雄とも吸血する。吸血性の種は,双翅類では少なく,一般にはなめ型である。
胸部は前・中・後胸よりなるが,中胸が大部分を占め,前胸と後胸はわずかである。翅は前翅のみが発達している。翅脈は双翅類の分類上重要な特徴である。環縫亜目のうち高等な双翅目では,翅と胸部の間に鱗弁と呼ばれる膜状の突起を備えており,これらをもつものを有弁類,欠くものを無弁類という。平均棍は後翅の変化したもので,感覚毛を生ずるほか,内部の弦音器官を備える。脚には,剛毛や棘歯(しし)などを有する種も多く,一般に雄のほうが顕著な長毛やとげをもっている。脚の先端には,つめと爪間板(そうかんばん),褥盤(じよくばん)がある。腹部は12節からなるが,見かけ上は4~8節で,第6節より後方は外部生殖器となる。腹部背板と腹板の間は側膜でつながっている。
双翅類の卵は,一般に楕円形で白色または黄白色である。表面には網目状の模様があるほか,糸状の突起(ショウジョウバエ),空気囊(ハマダラカ),溝(サシバエ)などをもつものがある。幼虫は長角亜目では6~7齢である。カ科では4齢,環縫亜目では3齢である。
双翅類昆虫は,あらゆる環境に適応して生活している。とくに幼虫の生息環境は広く,水生のものでは,河川,渓流,池沼はもとより,海水,温度のかなり高い温泉にも生息する。陸生の種では,倒木,朽木の中,土中,落葉や腐葉土の中などに生息するほか,腐肉,腐植質,動物糞中で育つなど多様である。寄生性の種も多く,植物,他の昆虫や節足動物に内部寄生するもの,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類など脊椎動物にも内部・外部寄生する。蛹生群では,成虫の体内で幼虫時代を過ごす。このように生息環境が広範なこと,動植物に寄生して吸血したり,組織を食べて成長する,農作物を加害するなど人間の生活と関係の深い種が多い。とくに吸血性の双翅類には,カのように,マラリア,フィラリア症,日本脳炎,デング熱,黄熱などの感染症の媒介をするもの,サシバエ,ブユ,ヌカカなどのように吸血により害を与えるもの,キモグリバエ,ミバエ,ハモグリバエのように農作物の害虫となるものなどがある。
逆に有益なものとしては,キンバエやユスリカの幼虫が釣餌として用いられている。害虫の天敵としては,寄生性のヤドリバエ,捕食者としてムシヒキアブなどがある。ショウジョウバエは遺伝学の研究材料として欠くことのできないもので今日までの遺伝学の発展に大きく貢献してきた。このほか,イエバエとカは生理学の分野で広く用いられている。
執筆者:篠永 哲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
昆虫綱のもっとも大きな目の一つである双翅目Dipteraのことで、カ、アブ、ハエなど人類に関係の深い昆虫を含んでいる。世界中で10万近い種類が知られるが、なお多くの未知種が残されている。この類の特徴は、前ばねがよく発達し膜状であるのに、後ろばねが縮小して先の膨れた棒状の平均棍(へいきんこん)になっていることで、昆虫としてもっとも高度に発達した一群であって、系統的にはトビケラ、チョウ、ガ、ノミとともに長翅群系に属する。
体長は1ミリメートルから5センチメートル前後で、小形から中形のものが多く、外皮はハチなどより軟弱で、毛や剛毛、棘(とげ)、ときには鱗片(りんぺん)を備えることが多い。頭は細い頸(くび)で大きな胸部に連なり、複眼がその大部分を占めることが多く、雄では両眼が背部で相接することも多い。発生は完全変態で、卵は長い楕円(だえん)形かバナナ形が普通である。幼虫は一般にボウフラ形かウジ形で肢(あし)がなく、円筒形から紡錘形が多いが、卵形から円形のものもある。頭はカなど長角類では発達するが、ほかの類では退化し、イエバエなど高等な類では外から見えない。幼虫期は3~8齢で、蛹(さなぎ)になるとき脱皮し、羽化に際し蛹皮(ようひ)が縦に裂けるものと、3齢幼虫の外皮が硬化して卵形からビヤ樽(だる)形の蛹殻となり(囲蛹という)、羽化のとき環節に沿って横に裂ける環縫類とがある。
成虫は昼間に活動し、花にきて蜜(みつ)を吸ったり、発酵したものや腐敗したものなどに集まるものが多いが、ムシヒキアブなどのように他の虫を捕食するものや、カ、ブユ、ウシアブ、サシバエなど吸血性のものなどがある。これら吸血性の種は同時に病原の媒介者として、汚物や食物に集まるハエ類とともに重要な衛生害虫である。幼虫は水生も陸生もあり、泥中や汚物中にすむもの、植物の葉や茎などの組織に潜入するもの、ほかの昆虫や動物に寄生するもの、自由生活のものでは植物・小動物・腐敗物を食べるもの、雑食のものがある。したがって、農林業上の害虫も多い反面、害虫の天敵として有益な種類もある。
双翅類は普通次の3亜目に分けられ、100前後の科を含んでいる。
(1)糸角(長角)類 触角が多節で細長い。キノコバエ、ガガンボ、カ、ブユなど。
(2)短角類 触角第3節は大きく、ほかは小さく少数。幼虫の頭は不完全。ミズアブ、アブ、ツリアブ、ムシヒキアブ、コガシラアブなど。
(3)環縫類 触角は3節で刺毛が1本ある。幼虫は無頭、3齢で終わり、蛹は囲蛹。ハナアブ、ミバエ、ショウジョウバエ、イエバエ、ニクバエなどが含まれる。
[中根猛彦]
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