日本大百科全書(ニッポニカ)「双翅類」の解説
双翅類
そうしるい
昆虫綱のもっとも大きな目の一つである双翅目Dipteraのことで、カ、アブ、ハエなど人類に関係の深い昆虫を含んでいる。世界中で10万近い種類が知られるが、なお多くの未知種が残されている。この類の特徴は、前ばねがよく発達し膜状であるのに、後ろばねが縮小して先の膨れた棒状の平均棍(へいきんこん)になっていることで、昆虫としてもっとも高度に発達した一群であって、系統的にはトビケラ、チョウ、ガ、ノミとともに長翅群系に属する。
体長は1ミリメートルから5センチメートル前後で、小形から中形のものが多く、外皮はハチなどより軟弱で、毛や剛毛、棘(とげ)、ときには鱗片(りんぺん)を備えることが多い。頭は細い頸(くび)で大きな胸部に連なり、複眼がその大部分を占めることが多く、雄では両眼が背部で相接することも多い。発生は完全変態で、卵は長い楕円(だえん)形かバナナ形が普通である。幼虫は一般にボウフラ形かウジ形で肢(あし)がなく、円筒形から紡錘形が多いが、卵形から円形のものもある。頭はカなど長角類では発達するが、ほかの類では退化し、イエバエなど高等な類では外から見えない。幼虫期は3~8齢で、蛹(さなぎ)になるとき脱皮し、羽化に際し蛹皮(ようひ)が縦に裂けるものと、3齢幼虫の外皮が硬化して卵形からビヤ樽(だる)形の蛹殻となり(囲蛹という)、羽化のとき環節に沿って横に裂ける環縫類とがある。
成虫は昼間に活動し、花にきて蜜(みつ)を吸ったり、発酵したものや腐敗したものなどに集まるものが多いが、ムシヒキアブなどのように他の虫を捕食するものや、カ、ブユ、ウシアブ、サシバエなど吸血性のものなどがある。これら吸血性の種は同時に病原の媒介者として、汚物や食物に集まるハエ類とともに重要な衛生害虫である。幼虫は水生も陸生もあり、泥中や汚物中にすむもの、植物の葉や茎などの組織に潜入するもの、ほかの昆虫や動物に寄生するもの、自由生活のものでは植物・小動物・腐敗物を食べるもの、雑食のものがある。したがって、農林業上の害虫も多い反面、害虫の天敵として有益な種類もある。
双翅類は普通次の3亜目に分けられ、100前後の科を含んでいる。
(1)糸角(長角)類 触角が多節で細長い。キノコバエ、ガガンボ、カ、ブユなど。
(2)短角類 触角第3節は大きく、ほかは小さく少数。幼虫の頭は不完全。ミズアブ、アブ、ツリアブ、ムシヒキアブ、コガシラアブなど。
(3)環縫類 触角は3節で刺毛が1本ある。幼虫は無頭、3齢で終わり、蛹は囲蛹。ハナアブ、ミバエ、ショウジョウバエ、イエバエ、ニクバエなどが含まれる。
[中根猛彦]