翻訳|entomology
昆虫類を対象とする生物学ないしは動物学の一分野をいい、しばしばダニ類を便宜上対象に含めることがある。昆虫は分類学上では節足動物門の一綱にすぎないが、種類数が全動物の大半を占めるほど多く、生態などもきわめて多様なため、それらを対象とする昆虫学は動物学と対比されるほどに内容の広がりをもっている。この背景には、昆虫類が人類の生活と深いかかわりをもち続けてきたことがあげられよう。それゆえ、分類学、形態学、発生学、生態学、生理学、生化学などの基礎的分野の発達と並んで、応用昆虫学諸分野の著しい発達がみられるのは大きな特徴ということができる。養蚕、養蜂(ようほう)もその一部であるが、農林業や牧畜、医学や衛生上の多数の害虫の存在はそれぞれに研究を進展させただけでなく、基礎的分野の研究を促進した。第二次世界大戦後の農薬の開発に続く天敵利用など生物防除の進展から、昆虫の生活や行動を制御するフェロモンなどの研究や、社会性昆虫学、生存のための戦略など昆虫行動学の著しい進歩など、近年の昆虫学の発展はまことに目覚ましいものがある。分類学においても系統の解析が盛んに行われるようになってきた。
近代生物学としての昆虫学の始まりは、たぶん、1667年にイタリアのレーディが、ハエは肉からわくのでなく、卵から生じることを実証し、またその翌年マルピーギがカイコの詳しい解剖図を発表したころであったろう。18世紀に入ると、フランスのレオミュール、ドイツのレーゼルA. J. Roesel、オランダのリオネP. Lyonet、スウェーデンのイェールC. de Geerらが昆虫とその生活に関する著書を出版し、リンネの始めた種の二名法はデンマークのファブリキウスの著書『昆虫の体系』に採用され、昆虫分類の基礎となった。19世紀には海外への渡航や探検が盛んになり、多くの資料が蓄積され分類など大いに進んだ。20世紀になると、諸科学の進歩発達に伴って急速に発展を遂げた。昆虫が実験動物として生物学の進歩に寄与してきたことは、遺伝学へのショウジョウバエの貢献でも明らかであるが、かなりの種類が現在においても研究に利用されている。
日本では、古くは本草(ほんぞう)学の一部で昆虫が扱われていたが、近代的な昆虫学が導入されたのは明治以後のことである。まず、来日したイギリスのフェントンM. A. Fenton、プライヤーH. J. S. Pryer、リーチJ. H. Leech、ルイスG. Lewisらに指導を受けた人たち、東京帝国大学の石川千代松(ちよまつ)や佐々木忠次郎(ちゅうじろう)らが中心となって、とくに応用昆虫学の研究者養成に努めた。他方、札幌農学校(後の北海道大学農学部)の松村松年(しょうねん)は、主として分類学を専攻して多数の書を著し、素木得一(しらきとくいち)ら門下の人たちとともに昆虫学の発展に貢献した。民間では名和靖(なわやすし)が名和昆虫研究所を岐阜市に設立して一般への普及に努めた。ついで三宅恒方(みやけつねかた)は名著『昆虫学汎論(はんろん)』によって知られているが惜しくも41歳で没した。このあと江崎悌三(ていぞう)は九州大学農学部の設立に際し東京帝国大学から移り、昆虫学教室の基礎を固め、安松京三(やすまつきょうぞう)はじめ多くの研究者を養成し、昆虫学の発展に寄与した。第二次世界大戦後は多くの新制大学ができ、各地の生物学あるいは昆虫学の研究室で昆虫の研究が行われるようになり、アマチュアの同好者も著しく増加し、多くの雑誌、報告が出版されつつある。
[中根猛彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…やがて19世紀のC.ダーウィンの登場によって,動物学は新しい局面を迎え,現代生物学の一分野として統合されるに至った。 なお動物学を,その研究対象に応じて,昆虫学entomology,鳥学(鳥類学)ornithology,哺乳類学mammalogy,魚類学ichthyology,貝類学conchology,霊長類学primatologyなどと呼ぶことも多い。生物学【日高 敏隆】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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