経済計算制(読み)けいざいけいさんせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済計算制」の意味・わかりやすい解説

経済計算制
けいざいけいさんせい

経済的な計算もしくは経営上の計算を意味するロシア語хозяйственный расчёт/hozyaystvennïy raschyotの訳語で、社会主義経済における企業や企業合同の経営方式のこと。独立採算制あるいは経営計算制とも訳され、また原語の略語をそのまま生かしてホズラスチョートхозрасчёт/hozraschyotという場合もある。そのおもな特徴は、社会主義企業の経営活動の能率向上を図るため、生産手段の国有と経済の国家的計画の枠内で各企業に資産上・経営上の一定自主性が与えられていること、各企業は貨幣的収支計算を行い、自己の収入でその支出補填(ほてん)し収益性を確保すること、得られた利潤の一部が当該企業に残されてその自己投資や従業員への物質的報奨に利用されること、などである。

 ソ連ではネップ(新経済政策)への移行が開始された1921年に適用されたのが始まり(当時は商業計算制とよばれた)で、29年にはすべての国有工業企業に経済計算制が普及され、以後この方式が定着した。しかし、ソ連の集権的計画経済制度のもとでは企業の自主性がきわめて局限され、その経済計算制も名ばかりのものでしかなかった。事実、ソ連の多くの重工業企業や国営農場は独立採算ではけっしてなく、赤字経営で、国家補助金により維持されていたのである。ソ連では65年の経済改革以後、「完全な経済計算制」という用語が用いられるようになり、87年の経済改革でもこの用語が多用された。この用語は、企業の自主性を拡大し、従来の形式的で不十分な経済計算制を実質的で十全なものに改めてゆくという改革の理念の一つを表現したものにほかならないが、結局、ソ連の経済改革が不徹底なものに終始したため、ソ連企業の経済計算制は数次にわたる改革により若干の改善をみたとはいえ、その内実は「完全なもの」からほど遠かった。

[宮鍋 幟]

『森章編著『社会主義企業論』(1977・日本評論社)』『佐藤経明編『ソ連経済の改革に関する研究』(1988・総合研究開発機構)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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