独立採算制(読み)ドクリツサイサンセイ

デジタル大辞泉 「独立採算制」の意味・読み・例文・類語

どくりつさいさん‐せい【独立採算制】

私企業で、各部門がそれぞれ独立に自己の収支で採算をとるように経営させる方式。
公企業で、その経費を事業経営による収入で賄う方式。

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精選版 日本国語大辞典 「独立採算制」の意味・読み・例文・類語

どくりつさいさん‐せい【独立採算制】

  1. 〘 名詞 〙 工場・事業部などの企業内経営単位が、独立に自己の収支で経営を行なうこと。企業経営の独自性と能率化をはかる。
    1. [初出の実例]「市当局が経営している水道事業について、なにゆえ独立採算制が求められるのか」(出典:現代経済を考える(1973)〈伊東光晴〉IV )

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改訂新版 世界大百科事典 「独立採算制」の意味・わかりやすい解説

独立採算制 (どくりつさいさんせい)

同一の大組織に属するあるまとまった組織体における収入と支出を,他の組織体と切り離して管理し,収支均衡の維持や収益の確保を図る経営管理制度のこと。組織が大規模化すると,計画や方針の不徹底,経費削減や販売促進の意識鈍化,運営や管理の非効率化等が生じてくる。この対策として,巨大な組織を小規模な組織に分割するとともに各組織体に広範な自主制を与える代りに,収支の責任を負わせるのが独立採算制である。

 独立採算制がとられているのは,ソ連など社会主義国における企業と日本など資本主義国における公共企業体および大企業である。たとえばソ連では,1917年の革命直後はすべての企業が中央の国家機関(最高経済会議)に直接管理され,費用は国家予算で与えられる代りに収入は国家に吸収された。このため収入増加の意欲や費用節約の努力に対する刺激が失われた結果,著しい生産の非効率が生じた。これを是正すべく,20年代のネップ期にソ連の企業管理制度は一大転換が行われて独立採算制(ホズラスチョート)が導入された。22年にはその単位は〈トラスト〉(数企業の合同体)とされたが,29年末には企業が単位とされた。しかし中央集権的な計画経済の下では,独立採算制は名目的なものとならざるをえず,80年代後半のペレストロイカの中では〈完全ホズラスチョート〉が追求された。

 また独立採算制は日本や欧米諸国の国鉄や地方公共団体が経営する水道,運輸事業等に共通した料金決定に関する原則になっている。ここでの独立採算制は,具体的には料金収入によって生産に要した費用を償うことを意味する。独立採算制の意義は,一つは費用の節約等,経営の効率化の誘因となる点にあるが,いま一つは料金改定が議会の承認等を要するために難しく,その結果,一般財源からの損失補塡ほてん)が膨らむことに対する歯止めの役割である。

 次に,大企業における独立採算制とは,製品別,地域別などに事業部として組織単位を設け,各事業部には全体としての企業の見地から割り出した利益目標のみを与え,それをいかに達成するかは各事業部にまかせて,独立採算単位とすることをいう。企業内に半独立的な組織単位を設け,企業内競争と企業外競争を直結して,大企業のもつ硬直化の宿命を打破しようとするねらいがある。日本で独立採算制の採用が早かったのは松下電器産業である。1933年に事業部制をとり,独立採算の経営組織とした。35年に株式会社に改組したとき,各事業部を分離独立させ,松下電器産業は統轄会社となった。各事業部とも各所属工場におかれ,そこに営業課をそれぞれ設けて,さらにその下に出張所代理店を設けて需要者に至る販売制度がつくられた。このように事業部ごとに生産から販売まで管理させるとともに,収益確保の責任を負わせる独立採算制の考え方が導入された。今日では,事業部による独立採算制はほとんどの大企業において広く普及している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「独立採算制」の意味・わかりやすい解説

独立採算制
どくりつさいさんせい

単一企業または事業部・工場などの企業内経営単位が、自己の収支によって財務的に自立することを目ざす経営管理制度。自由主義経済では、単一企業が独立採算単位になるのは自明であるので、企業内経営単位についてのみ独立採算制をとるか否かが問題になる。独立採算制という用語自体は、社会主義国であったソ連のホズラスチョットхозрасчёт/hozraschyotからきている。それは、国有企業に赤字を出さず、しかも計画の限度内で一定の自主性ある経営を行わせ、能率向上を図る制度として採用されたものである。

 このような独立採算制は、本質的条件は異なるが、自由主義経済でも別途に構想され、公企業に適用されるようになっていた。そこでは、損失を税金等の一般財源によって安易に埋め合わせるのではなく、経営の自主的努力による収支適合の実現を基本原則とする公企業の能率化が意図されていた。たとえば、第一次世界大戦後のドイツをはじめとするヨーロッパ諸国の国有企業の自主化運動にみられる公企業の国家財政からの自主化をはじめ、イギリスの国有産業における公共企業体の出現、アメリカのTVAなどの公共企業体は、すべて独立採算制の公企業であった。日本の公企業でも、独立公企業はもとより、事業特別会計に属する国有林野事業、地方公営企業は、独立採算制をとっている。なお、大規模・多角化した私企業では、事業部制によって各事業部を独立採算単位にしている。

[森本三男]

『松尾憲橘・中村美智夫・松尾光芳著『計画経済と独立採算制』(1978・中央経済社)』『大坂健著『地方公営企業の独立採算制』(1992・昭和堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「独立採算制」の意味・わかりやすい解説

独立採算制
どくりつさいさんせい
Khozraschët; autonomous accounting system

社会主義企業の基本的経営方針で,企業経営を自主的かつ計画的に管理する制度。社会主義国では企業は国有または組合有であるが,この制度を採用するにあたって,国家は企業に国家計画の遂行に対する義務と責任を付与し,同時に一定の経営上の自主性を与え,計画達成については報奨制度をとった。旧ソ連では 1921年初めてこの制度を採用し,第2次世界大戦後,確立された。この制度は資本主義社会の経営方針としても採用されている。日本におけるそれは政府自身が経営する郵便・国有林野・印刷・造幣事業や,地方公共企業などの公企業において経営管理,財政上の自主性を強化するため,その事業活動の費用は一般会計からの税財源に依存することなく,事業の経営に伴う収入 (料金収入など) によってまかなうことが原則として定められている。また私企業においても事業部制として採用されている。

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百科事典マイペディア 「独立採算制」の意味・わかりやすい解説

独立採算制【どくりつさいさんせい】

企業の各部門があたかも独立企業のように,それぞれの責任で収支を償う管理方式。また公企業においては,一般会計からの赤字補填(ほてん)を打ち切り,能率向上を図るため導入する制度。社会主義企業では企業単位および企業内部で実施され,経済計算制ともいう。→事業部制分権的組織

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世界大百科事典(旧版)内の独立採算制の言及

【価格形成】より


[公益企業などの価格形成]
 民間公益企業や公共法人の価格形成は,一般企業のそれとは異なった特徴がある。日本道路公団などの公共法人の多くに共通した原則は独立採算制である。これは,財・サービスの供給に要した費用をちょうど償うように価格を決めるというもので,平均費用価格形成原理と基本的には同じである。…

※「独立採算制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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