ある語の意味を,もとの語形を簡略にした形で表す習慣ができたとき,新しい語形をその語の略語という。話したり書いたり,また印刷や機械による通信を行ったりする際に,語形の長さからくるわずらわしさを避けるために,略語が作られることが多いが,隠語(いんご)として,仲間以外に知られないようにするために作る特殊な略語もある。電報に用いる電信略号(電略)などは,もとの語形と直接関係のないものもあり,一種の略語であるとともに暗号にも連なるものであると言ってよかろう。なお,固有名詞については略語とは言わずに略称という。種々の組織には長い名称のものも多いので,略称が生じやすい。
略語の語形はどのように作られるのだろうか。もとの語形のある部分が切りすてられることが多いのは言うまでもないが,それをさらに分類すれば,(1)語の後部をすてる--百科(事典),西荻(窪),アナ(ウンサー),センチ(メンタル),マス・コミ(ュニケーション)など,(2)語の前部をすてる--(アル)バイト,(ストレプト)マイシン,(有)ラクチョウなど,の二つに大別される。なお,弁(才)天,(卒)塔(婆)のような例もある。
複合した語の各要素について部分的に切りすてるものも例が多い。例えば,安(全)保(障),プロ(フェッショナル)レス(リング),百(メートル)バタ(フライ),外(国通)信,高(等学)校などである。菩(提)薩(埵)もこの例に属する。漢語では長い複合ができやすく,その他の外来語も日本語のリズムをこえた長さのものが多く,略語が好まれる。それらは4拍以内になるのがふつうである。
また文字を媒介として,もとの語形とは異なった新しい読み方によって略語の作られることも少なくない。漢字を用いるものは,もとの訓読を音読に変えるのが多く(例:阪神(はんしん)--大阪神戸),また,もと熟字訓でよまれていたのを字音で読んだり(例:早大(そうだい)--早稲田大学),ふつうの訓でよんだり(例:外為(がいため)--外国為替)する。ローマ字を用いるものについては,頭字の1字読みにしたり(例:IQ(アイキユー)--Intelligence Quotient,N.G.(エヌジー)--No Good),頭字の連続をつづり読みにしたり(例:GATT(ガツト)--General Agreement on Tariffs and Trade)する。
外国語から略語の形で借用したものは,もとの語形が意識されないのが当然であるが,漢語その他の場合でも略語の使用が一般化すると,もとの語形は忘れられて,略語であることが気づかれなくなる。略語は,自然に用い出されることが多く,過勤・超勤のように略し方がまちまちになることもある。
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
語の一部を省いて短くしたもの。普通は、長い語を簡潔によぶためにつくる。たとえば「近畿日本鉄道」を「近鉄」というたぐいである。また、仲間内だけのことばとして、つまり隠語として、省略して用いることもある。「新宿」を「ジュク」というのはその例である。固有名詞のときは略称ともいう。
語を省略する際、「早稲田(わせだ)大学」を「早大」、「Parent-Teacher Association」を「PTA」と称するように、もとの語と発音の変わる場合もある。また、「プロ」のように、もとの形は「プログラム」「プロパガンダ」「プロダクション」「プロフェッショナル」などさまざまであるのに、省略した形は同じになるという場合もある。省略の仕方は、上を省くもの(「(宝)ヅカ」「(横)ハマ」)、下を省くもの(「アジ(テーション)」)、飛び飛びに抜き出してつなぎ合わせるもの(「高(等学)校」「経(済)団(体)連(合会)」)などがある。
[鈴木英夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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