改訂新版 世界大百科事典 「総百姓共有漁場」の意味・わかりやすい解説
総百姓共有漁場 (そうびゃくしょうきょうゆうぎょじょう)
江戸時代の漁場占有利用権は一般に総百姓の共有であった。総百姓共有漁場(村中入会漁場,総百姓入会漁場,村持漁場)は,幕藩体制のもとで広範に成立したとみられる。太閤検地を画期として成立した幕藩体制は広範な直接生産者層の独立を推し進め,それを支配の基礎とした。それがいわゆる本百姓である(漁師の場合も,身分上は百姓であり,当時は耕地を保持していない漁師は例外的にしか考えられない)。本百姓は耕地を占有して正租を上納するばかりでなく,一人前の百姓として領主のための夫役をつとめる者でなければならなかった。その反対給付として本百姓は,耕地ばかりでなく漁場の占有利用権を与えられ,また漁業年貢も納めたとみられる。漁場占有利用権は明確に本百姓に限って与えられたのではなく,領主支配のための地域的集団でもある村にまかせる形がとられたが,村の主要な構成員は本百姓であり,その本百姓が正租と夫役の義務を果たしていたから,当然その対価としての漁場占有利用権は本百姓層の共有となったものと思われる。本百姓層の広範な独立のなかった辺境後進地域では,総百姓共有漁場の成立がみられなかった。
現実の総百姓共有漁場には大別して次の3形態がみられた。(1)漁場占有利用権が百姓株と結合し,1人前の百姓が占有利用権を平等に分有する形。百姓株が1人前から半人前,1/4人前と分化するにつれて,漁場占有利用権の所有もそれに応じた分化をとげた。(2)漁場占有利用権が総百姓の間でそれぞれの持高に比例して分有される形。(3)漁場占有利用権を総百姓間で分有することなく,村が持っている形。以上3形態のいずれの場合も,江戸時代を通じて主要漁場はすべて本百姓層の独占形態が一般的であり,階層分化によって析出された水呑百姓層が権利をもちえたのは,経済的価値が低く排他独占性の少ない漁場のみであったとみられる。
執筆者:二野瓶 徳夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報