改訂新版 世界大百科事典 「総長賭博」の意味・わかりやすい解説
総長賭博 (そうちょうとばく)
1960年代に隆盛を誇った東映やくざ映画の頂点をなす傑作の1本で,正式題名は《博奕打ち・総長賭博》(1968)。のちに《仁義なき戦い》シリーズ(1973-74)の脚本を書く笠原和夫の脚本の緻密(ちみつ)な構成,山下耕作監督の流麗な画面づくり,主役の鶴田浩二の名演によって,博徒一家総長の跡目相続をめぐる人間関係のドラマが,昭和初期の東京を舞台に,荘重に美しく描き出され,三島由紀夫をして〈何という絶対的肯定の中にぎりぎりに仕組まれた悲劇であろう。しかも,その悲劇は何とすみずみまで,あたかも古典劇のように,人間的真実にかなっていることだろう〉といわしめた。筋立てからいえば,かいらいの二代目を立てて一家を支配しようとする大幹部の卑劣な策謀により,すべての惨劇が起こると見えるが,惨劇の真の核心は1人の悪玉とは別のところにあって,やくざ渡世のおきてをかたくなに貫こうとする主人公の言動が,そして,同じように渡世の筋目を通そうとして大幹部の決定に反逆し,主人公と対立する彼の兄弟分の執念が,次々に死者を生み出していく。ドラマの進展とともに,やくざ渡世のおきてのはらみもつ死の要素がいわば析出されていって,惨劇が相次ぐのである。ラスト近く,主人公が渡世のおきてに従って兄弟分(若山富三郎)を刺殺し,妹でもある兄弟分の妻(藤純子)から〈人殺し!〉とののしられるくだりは,すべてのやくざ映画の底流にある,いわばおきてと心情の相克を彼らに強いたもの,すなわち死の力を,みごとに表現する。なお,この作品は《博奕打ち》シリーズ全10作の第4作にあたるが,主演・鶴田浩二ということ以外,各作品に何の連続性もない。
→やくざ映画
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報