仁義(読み)ジンギ

デジタル大辞泉 「仁義」の意味・読み・例文・類語

じん‐ぎ【仁義】

仁と義。儒教道徳の根本理念。
道徳上守るべき筋道。「仁義にもとる行為」「仁義を重んじる」
他人に対して欠かせない礼儀上の務め。義理。
《「辞宜じんぎ」からか》ばくち打ち・香具師やしなどの仲間の道徳・おきて。また、その仲間内で行われる初対面のあいさつ。
[類語]道徳倫理道義徳義人倫人道世道公道公徳正義規範大義みちモラルモラリティー

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精選版 日本国語大辞典 「仁義」の意味・読み・例文・類語

じん‐ぎ【仁義】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仁と義。「仁」はひろく人や物を愛すること。「義」は物事のよろしきを得て正しい筋道にかなうこと。孟子の主要な思想で、儒教で最も重んじる徳目。
    1. [初出の実例]「道徳仁義、因礼乃弘。教訓正俗、待礼而成」(出典:続日本紀‐慶雲三年(706)三月丁巳)
    2. 「仁義は大道の廃れたる処に出で」(出典:太平記(14C後)一)
    3. [その他の文献]〔孟子‐梁恵王・上〕
  3. 世間一般の道徳。社会生活を送るうえで必要な良識や義理。
    1. [初出の実例]「ことにほかには王法をもておもてとし、内心には他力の信心をふかくたくはへて、世間の仁義をもて本とすべし」(出典:蓮如御文章(1461‐98)二)
  4. ( 「じんぎ(辞宜)」からか ) 博徒、香具師(やし)、ある種の職人など特殊な仲間のあいだの道徳。また、その間で行なわれる初対面の挨拶(あいさつ)
    1. [初出の実例]「香具師仲間で取り交はす挨拶、即ち遊人や土方仲間ではジンギと云ふものを稽古する」(出典:香具師奥義書(1929)〈和田信義〉香具師細見)

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改訂新版 世界大百科事典 「仁義」の意味・わかりやすい解説

仁義 (じんぎ)
rén yì

中国,古代,孟子の中心思想。孔子は人間の最上の徳として,もっぱらを説いた。孔子をつぐ孟子は,人は生まれながら善なる性の端緒を備えもつと考え,また,君主が仁政を行って民に恩沢をもたらすことこそ政治であると考えた。そこで仁義礼智の四徳から,博愛をいう仁と,正義をいうとを並べて道徳の基本理念とし,仁義を説くことによって,人が自己の人間性を完成させることを期待した。
執筆者: 日本でも,戦国時代の武将にとっては政治規範として,江戸時代の士道論においては社会的秩序の規範として仁義がとらえられた。博徒の仁義は武士道徳の変形として親分子分の関係を律し,同時に〈仁義を切る〉という挨拶の型も生み出した。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「仁義」の意味・わかりやすい解説

仁義(儒教)
じんぎ

儒教思想のもっとも中心的な徳目である仁(他者への親愛)と義(道徳的規範意識)を並称したことばである。もとは中国、戦国時代の儒者である孟子(もうし)の説。彼は先達の孔子(こうし)が強調した仁の思想を継承し、さらにそれに義を加えることにより、仁の思想のもつ情意性と規範性を明確化した。また彼は仁義に礼、智(ち)を加えて四徳を説き、この四徳を成就(じょうじゅ)する可能性が万人に内在しているとした。君主はこの仁義によってこそ天下を治めることができるというのが彼の王道論である。仁義は、以後ながく儒家の根本的な主張となった。またのちに、これに礼、智、信を加えて五常という。

[土田健次郎]


仁義(博徒・香具師)
じんぎ

博徒・香具師(やし)などの初対面の挨拶(あいさつ)をさす。その挨拶を互いに行うことを「仁義を切る」という。口上(こうじょう)として、いろいろな文句がみられるが「お控えなさい」ということばをしばしば述べることは共通している。前口上をいったあと、たとえば「手前生国(しょうこく)と発しまするは江戸にござんす。江戸と申しても広うござんす」といって、江戸の具体的な出生地を述べる。そのあと、自分の属する親分の一家名をいってから、「手前姓名を発しまするは失礼にござんす。何の何々」と本人の名前を相手に告げ、「面体(めんてい)お見知りおきのうえ、向後万端(きょうこうばんたん)よろしくおたのもうしやす」とひととおりの口上をいう。相手も「申し遅れまして失礼さんにござんす」と断り、同じように生国、名前などを順次述べていく。

 口上をいうのには、体を斜めに構え、頭をすこし下げ、右手を前に出し、相手の顔を見る、という独特のポーズで行う。一気に述べるようにし、ことばの詰まることや、言い間違えは本人の恥となり、相手に軽くみられる。熟練した者は、美辞麗句形容を上手に入れ、耳ざわりのよい口上を述べて相手を負かすことがある。口上のあと、お互いは仲間となる。

[芳井敬郎]

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普及版 字通 「仁義」の読み・字形・画数・意味

【仁義】じんぎ

仁と義。〔孟子、梁恵王上〕未だ仁にして其の親を(わす)るるらざるなり。未だ義にして其の君を後にするらざるなり。王も亦た仁義と曰はんのみ。何ぞ必ずしも利と曰はん。

字通「仁」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「仁義」の意味・わかりやすい解説

仁義【じんぎ】

古代中国,孟子の中心思想。仁は博愛の徳,義は悪を恥じ事の理非を区別する徳であり,いずれも人間に生得的と説く(性善説)。日本にもこの意味で伝わるが,江戸時代以後,転じて博徒(ばくと),職人らの集団内での親分・子分間の掟,および初対面のあいさつの意味ももった。
→関連項目仁(哲学)

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デジタル大辞泉プラス 「仁義」の解説

仁義

日本のポピュラー音楽。歌は男性演歌歌手、北島三郎。1969年発売。作詞:星野哲郎、作曲:中村千里。

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世界大百科事典(旧版)内の仁義の言及

【挨拶】より

コミュニケーション作法【野村 雅一】
[日本]
 挨拶は〈一挨一拶〉というように,中世の禅僧によって応答,問答するという意味で使用された語がしだいに一般化したものであり,それに相当する古くからの言葉ははっきりしないが,〈いや(礼)〉はそれに近い語であろう。各地の日常語ではジンギ(仁義)が挨拶の同義語として使用されてきたし,また単にモノイイ(物言い)ともいった。日本人の挨拶行為は,他人と身体を接触させることなく,一定の距離をおいて向かいあい,互いに上体を曲げ,頭を下げることを基本にしており,その曲げ方や下げ方は相手や場面によって異なる。…

【義】より

…ことがらの妥当性をいう。儒教では五常(仁義礼智信)のひとつとして重視され,しばしば〈仁義〉〈礼義〉と熟して使われるが,対他的,社会的行為がある一定の準則にかなっていることをいう。《礼記(らいき)》礼運篇では人の義として,父の慈,子の孝,兄の良,弟の弟(てい)(目上の者に対する従順さ),夫の義,婦の聴(聴き従う),長の恵,幼の順,君の仁,臣の忠の十義を列挙する。…

【仁斎学】より

…この原理論を気一元論という。天道(自然界)と天(世界の支配的存在)と人道(人間社会)を区分して,天道の展開は気の運動法則を通じて認識可能,天の意思は不可知でひたすら受容すべきもの,人道の法則は自然的な気の運動傾向によって説明すべきでなく,人間固有の仁義(道徳)としてとらえよと主張する。仁義は,人がもっている自然の本性を拡充して社会の習慣や人情と合一させることによって達成されるが,その際,個人的な生活条件を尊重することが必要で,至公(一律の普遍性)を強調するだけでは弊害があるという。…

【やくざ】より

…〈やくざ〉の語源は〈八九三のブタ〉といい,賭博(とばく)のいちばん悪い目から出たというのが通説である。たとえば,喜多村信節《嬉遊笑覧》(1830)には,〈亡父語りしは,我覚えてより新言葉三あり。やくざ,べらぼう,今一つは何とやらいひしが,是もと博徒のことばにして,十とつまるは数にならず,八九三,二十とつまる故,悪きことの隠語を八九三といひ始めたるなり〉とあり,また同様の文言は他書にも見られる。つまり〈役に立たぬもの〉〈つまらぬ人間〉,そして〈遊び人〉を指して〈やくざ〉というにいたったものであろう。…

※「仁義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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