日本大百科全書(ニッポニカ) 「緑のハインリヒ」の意味・わかりやすい解説
緑のハインリヒ
みどりのはいんりひ
Der grüne Heinrich
スイスのドイツ系作家ケラーの長編小説。全四巻。初版(1854~55)と、全面的に加筆した再版(1879~80)がある。想像力が旺盛(おうせい)なため、観念と現実の葛藤(かっとう)に苦しみ、現実への対応に悩む主人公ハインリヒの、幼年期から青年期までの多彩な人生体験と人間的成長の過程を描く、自伝的要素の色濃い代表作。主人公は初め画家を志し、ドイツに留学するが、やがて学資も尽き、苦労を重ねたすえ志望を断念。それまでに得た広い知識と経験を生かし、祖国スイスの政治活動に参画する決意を抱いて帰郷する。初版では、母の孤独な死に自責の念に駆られる主人公の絶望と死の悲劇に終わるが、再版では、国家への責務を自覚し、社会福祉に献身する公務員の道を選ぶ結末に改めた。ドイツ教養小説の代表作と評価される。
[杉本正哉]
『伊藤武雄訳『緑のハインリヒ』全四冊(岩波文庫)』