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教養小説 きょうようしょうせつBildungsroman

翻訳|Bildungsroman

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

教養小説
きょうようしょうせつ
Bildungsroman

主人公がその時代環境のなかで種々の体験を重ねながら,人間としての調和的自己形成を目指して成長発展していく過程に力点をおいた小説。特にドイツ文学に顕著な傾向で,長編小説の主流をなす。源泉は遠く中世にまでさかのぼり,ウォルフラム・フォン・エシェンバハの叙事詩『パルツィファル』 (1200~10頃) をはじめ,グリンメルスハウゼンの『ジンプリチシムス』 (1669) ,ウィーラントの『アーガトン物語』 (1766~67) などがある。このジャンルの規準になったのは,ゲーテの『ウィルヘルム・マイスター』 (2部,95~1829) で,ケラー緑のハインリヒ』 (初稿 53~55) ,シュティフター晩夏』 (57) ,T.マン『魔の山』 (1924) ,ヘッセ『ガラス玉演戯』 (43) などが代表的な作品。

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知恵蔵の解説

教養小説

ドイツで成立した、若者である主人公が、様々な体験を積み重ねながら成長し、自己形成し、人格を発展させていく過程を描く、小説の1ジャンル。ヨハン・ヴォルフガンク・ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの徒弟時代』(1795年)、『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』(1821〜29年)をその源流とする。代表的な教養小説には、トマス・マン『トニオ・クレーゲル』(1903年)、ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』(1904〜12年)、ジェームズ・ジョイス『若き日の芸術家の肖像』(1916年)、ヘルマン・ヘッセ『デミアン』(1919年)などがある。日本の教養小説には、下村湖人次郎物語』(1941〜54年)、山本有三『真実一路』(1936年)、『路傍の石』(1941年)など、大正教養主義の理想にその基礎を置くものが多い。現代日本で教養小説という形式は、宗教家の自伝の類において最も有効に機能している。なお、『ジャン・クリストフ』や『若き日の芸術家の肖像』のような、芸術家の自己実現への道をたどった教養小説を、特に芸術家小説(K(u)nstlerroman)と呼ぶ。西欧では主流を占めるとさえいえるこのタイプの教養小説は、なぜか日本では、極めて少ない。

(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

デジタル大辞泉の解説

きょうよう‐しょうせつ〔ケウヤウセウセツ〕【教養小説】

伝記の形式をとりながら、主人公の人間形成の過程を描き、人間的価値を肯定する小説。ドイツに主流があり、ゲーテの「ウィルヘルム=マイスター」、ケラーの「緑のハインリヒ」、フランスではロマン=ロランの「ジャン=クリストフ」などが代表作。ビルドゥングスロマン

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百科事典マイペディアの解説

教養小説【きょうようしょうせつ】

Bildungsroman(ドイツ語)の訳語。教養Bildungは〈自己形成〉の意。ある人間の成長,遍歴を,主として人格形成の角度から描き出した小説。19世紀初頭ドイツに興り,ドイツ文学の伝統的ジャンルとなった。
→関連項目ウィーラントウォルフラム(エッシェンバハの)ゲーテ次郎物語芹沢光治良ハントケ路傍の石

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世界大百科事典 第2版の解説

きょうようしょうせつ【教養小説 Bildungsroman[ドイツ]】

主人公が幼年期の幸福な眠りからしだいしだいに自我に目覚め,友情や恋愛を経験し,社会の現実と闘って傷つきながら,自己形成をしていく過程を描いた長編小説。教養Bildungという語は,形成するbildenという動詞の名詞化であり,自己形成を意味する。したがって教養とは単に知識や技術を身につけることではなく,また既成社会秩序規範を習得することでもなく,みずからを人間としてあるべき姿に形成することである。

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大辞林 第三版の解説

きょうようしょうせつ【教養小説】

主人公のさまざまな体験による自己形成の過程を描いた小説。ドイツ文学の伝統の一。ゲーテの「ウィルヘルム=マイスター」など。発展小説。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

教養小説
きょうようしょうせつ
Bildungsromanドイツ語

本来はドイツ語で、主人公の内的教養形成の過程を描く小説のこと。一般にこの語の創始者は哲学者W・ディルタイとされている。19世紀末、彼はゲーテの「ウィルヘルム・マイスターの一派をなす小説群を教養小説と名づけたい」と提案、その理由を「これらの本では、純粋に人間的な教養、個人のさまざまの段階における形式のみが問題とされている」と述べている。彼によれば、かかる文学傾向は「当時のドイツ人の精神の内面文化への志向」から生じたものであった。しかし、実際にはこの語の発生はもっと古くて、その当初は、18世紀啓蒙(けいもう)主義の哲学的、宗教的教養形成理念に基づく、人間の魂の漸進的な発展物語をさしていたのである。その場合に、従前の叙事詩が外的事件の描写を目的とするのに反して、小説の真髄は人間の内部の動き、生成発展、完成を描くところにあるとされた。「人格の調和的完成」を目ざすゲーテの『ウィルヘルム・マイスター』は、その代表的作品であるが、それ以前にはウィーラントの『アガトン』にその草分けの姿が認められる。
 ところが、ディルタイの提言後、一般にドイツ精神の内面性が強調されるにつれて、教養小説は典型的にドイツ的な小説形態を意味するものと考えられるようになり、はるか中世や近世にまでさかのぼってその前身が求められたが、これは正しいとはいいがたい。ゲーテ以後、19世紀の数多くの小説群がこの系譜に属し、20世紀に入っては、トーマス・マンの『魔の山』、ヘルマン・ヘッセの『ガラス玉演戯』などがその偉大な子孫である。このように、元来はドイツ文学理論の枠内で発生し、したがってドイツ文学に限って有効な語であろうが、いまでは普遍化され、小説類型を示す語として、広く世界各国の同じような性質の作品に適用されている。なお、これに近い用語に、同じくドイツ語に由来する発展小説Entwicklungsromanがある。[義則孝夫]
『登張正実著『ドイツ教養小説の成立』(1964・弘文堂)』

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