肺リンパ脈管筋腫症(読み)はいリンパみゃくかんきんしゅしょう(英語表記)Pulmonary lymphangioleiomyomatosis

六訂版 家庭医学大全科 「肺リンパ脈管筋腫症」の解説

肺リンパ脈管筋腫症
はいリンパみゃくかんきんしゅしょう
Pulmonary lymphangioleiomyomatosis
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 妊娠可能な年齢の女性にのみみられます。肺に壁が薄い「嚢胞(のうほう)」が多発し、進行して閉塞(へいそく)性換気障害のために呼吸不全になります。10年生存率は70~80%程度です。女性にみられる自然気胸(しぜんききょう)(肺に(あな)があき、空気がもれる)の原因として重要です。

原因は何か

 病変部の平滑筋(へいかつきん)細胞に遺伝子異常があるため、平滑筋細胞が腫瘍性に増殖してきたものです。がん抑制遺伝子であるTSC遺伝子機能が失われたために増殖します。散発性のものもあります。

症状の現れ方

 自然気胸労作時(ろうさじ)呼吸困難をきっかけに受診することが多く、気胸は繰り返すのが特徴です。労作時呼吸困難はゆっくり進行します。(せき)喀痰(かくたん)血痰(けったん)がみられるようになります。

検査と診断

 妊娠可能な年齢の女性に自然気胸をみたら考慮されるべき疾患です。胸部CT写真では、薄壁「嚢胞」が多発しているのが確認されます。

 多くは胸腔鏡下(きょうくうきょうか)肺生検(胸腔鏡を利用して肺から組織を採取)を行い、得られた病理組織で平滑筋細胞が結節性に増殖しているかどうかを確認します。平滑筋の増生は、肺のみならず、いろいろな部位のリンパ節群にも認められることがあります。

治療の方法

 症例ごとに進行速度が異なることが知られています。長期にわたり比較的安定した群と、早期に呼吸不全に至る群とがあります。

 病態の進行には女性ホルモンとの関連が推定されています。そこで後者ではホルモン治療が試みられることがありますが、有効性についての比較対照試験は行われていません。血中エストロゲンを減少させるため、卵巣摘出術が行われることもあります。

 自然気胸を繰り返す場合には、外科的に胸膜癒着術(きょうまくゆちゃくじゅつ)が行われます。

病気に気づいたらどうする

 進行した呼吸不全例やホルモン療法が無効な場合は、肺移植が考慮されます。日本でもこれまで4例が施行されています。

千田 金吾

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「肺リンパ脈管筋腫症」の解説

はいりんぱみゃくかんきんしゅしょう【肺リンパ脈管筋腫症 Pulmonary Lymphangiomyomatosis】

[どんな病気か]
 月経(げっけい)がなくなる前(閉経前(へいけいまえ)の妊娠可能な年齢)の女性だけに発症する肺の病気で、まれにしかみられないものです。
 肺の中のいたるところで平滑筋(へいかつきん)という筋肉組織が増殖し、いろいろな症状をひきおこします。
 肺の気管支の壁にある平滑筋が増殖した場合は、気管支の内腔(ないくう)が細くなり、吸った空気をはき出しにくくなります。その結果、多くの肺胞(はいほう)がゴム風船を膨(ふく)らませたような状態になり、気腫性嚢胞(きしゅせいのうほう)が肺のいたるところにできて、運動時の呼吸困難、せき、気胸(ききょう)が生じます。
 肺の静脈の壁にある平滑筋が増殖すると、静脈の内腔が細くなって血液の流れがとだえます。その結果、肺胞の壁の毛細血管網(もうさいけっかんもう)から流出する血液が行き場を失い、充血がおこります。その血液が肺胞内にしみ出すと、血(けっ)たんや、肺が柔軟性を失う肺血鉄症(はいけつてつしょう)の原因となります(二次性肺血鉄症(にじせいはいけつてつしょう))。
 また、リンパ管の平滑筋が増えると、同様にして、リンパ液の流れが障害されます。
[原因]
 なぜ、肺の平滑筋が異常な増殖をするのか、その原因の詳しいことはわかっていません。
 しかしながら、ほとんどが妊娠可能な年齢の女性に発病すること、妊娠したり経口避妊薬(けいこうひにんやく)の服用で悪化することがわかっています。
 さらに、閉経後の女性に発病した例では、治療のためにエストロゲンという女性ホルモンが使用されていたという報告があります。
 これらのことから、発病には、女性ホルモンがかかわっていると考えられています。
[検査と診断]
 妊娠が可能な年齢の女性で、原因のわからない呼吸困難がおこったり、気腫性嚢胞が破れて気胸がおこった場合、この病気の発見や診断のきっかけになることがあります。
 また、胸部CT検査をすると、この病気に特徴的なカメのこうら(亀甲(きっこう))のような像がみられ、参考になります。
 診断は、肺の組織を少し採取し(肺生検(はいせいけん))、その組織の変化を顕微鏡で調べる病理組織学的検査の結果によって確定します。
[治療]
 確実な治療法はありません。症状をみて、それを抑える対症療法が行なわれます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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