一定間隔をもって周期的に反復する子宮体内膜からの出血をいう。脳の視床下部や下垂体と卵巣から分泌されるホルモンによって互いに作用しあい調節されておこるもので、一般には女性が性成熟期にあることを示す生理現象とみられ、俗にメンスまたは「生理」ともよばれる。
[新井正夫]
月経周期は、月経出血開始の初日から次回月経出血開始の前日までの日数をいい、月経出血が終わってから数えるのではない。正常範囲は25~38日と考えてよく、基礎体温の低温相に相当する卵胞期がだいたい13~24日、高温相に相当する黄体期はだいたい11~15日を正常とみてよい。また、月経持続日数は3~6日であり、大部分が7日以内に自然止血する。
月経が正常か異常かを判定する基準として、(1)その月経出血の開始が正常の月経周期に一致していたかどうか、(2)月経出血の量と持続日数が正常かどうか、(3)その月経に先行して排卵があったかどうか、以上の3点があげられる。したがって、その月経が前回月経の初日から数えて24~39日目の間に開始しており、前回排卵後10~18日目に出血がみられ、7日以内に自然止血した場合、その月経は正常というわけである。ただし、排卵の有無は基礎体温でも測定していなければ一般にはわからないので、月経周期と出血持続日数の二つを目標に判断してよい。無排卵性月経の場合は、出血持続日数が8日以上になることが多い。なお、現象的あるいは外観的に排卵性と無排卵性を区別することは困難であり、しかも無排卵性月経を正常というわけにもいかないところから、月経の定義では生理的出血であると強調するのを避けている。実際には無排卵性月経も含めて月経とよんでいるわけで、無排卵性の場合は不妊症の原因となるほかは日常生活には支障がなく、必要に応じて排卵誘発法が行われる。
卵巣には排卵作用があり、だいたい毎月1回1個の卵子をつくりだすが、これがないと普通月経はおこらない。また、子宮体内膜は月経前になると肥厚して柔軟になるが、これは受精卵を着床(妊娠)しやすくするための準備であり、これには卵胞ホルモンが関係している。すなわち、月経周期の前半にまず視床下部に支配される下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され、これが卵巣に達すると、卵巣内の卵胞が発育し、卵胞ホルモンを分泌する。これによって子宮体内膜が増殖する一方、卵胞ホルモンの血中濃度がピークに達すると、下垂体からのFSHが抑制され、今度は黄体形成ホルモン(LH)の分泌が促されるようになる。これが卵巣に達すると、卵胞が成熟して卵巣を飛び出し、いわゆる排卵がおこったあとの卵巣内に黄体とよばれる黄色の組織ができ、黄体ホルモンを分泌するようになる。これは月経周期の後半に相当し、黄体ホルモンは子宮体内膜を肥厚させ、血管の発育を促進して柔軟さを加え、妊娠しやすい状態をつくらせる。しかし、受精がおこらない場合は、黄体が衰えて黄体ホルモンを分泌しなくなり、増殖した子宮体内膜が剥離(はくり)して出血をおこす。これが月経である。もしも受精卵が子宮体内膜に着床すると、黄体は妊娠黄体となって、妊娠状態が順調に続くように黄体ホルモンを継続して分泌する。したがって、妊娠すると月経が止まるわけであり、月経があれば妊娠していないことになる。
なお、妊娠のほか、産褥(さんじょく)や授乳期にも月経はみられないが、これを生理的無月経という。要するに月経とは、卵巣機能によっておこる子宮体内膜の変化の一兆候なのである。
[新井正夫]
初めての月経を初経または初潮という。そのおこる年齢は、気候、文化、社会環境、体格、栄養などによって異なる。日本人では第二次世界大戦後だんだん早まり、だいたい12~13歳においてである。10歳未満、とくに8歳以前にみられる場合は、早発月経、早発思春期あるいは思春期早発症、性早熟症などとよばれ、異常とされる。逆に16~18歳になっても初経のみられない場合も異常とされ、思春期遅発症あるいは晩発月経とよばれる。
[新井正夫]
普通は出血が徐々に現れ、徐々に止血するが、第2日目の出血量がもっとも多く、しだいに減少する。中休みするなど個人差もある。月経前には帯下(たいげ)(おりもの)が増加し、月経に近づくにつれて赤色を帯び、ついに血液様となる。月経血は俗に経血ともよばれ、その性状は静脈血よりさらに暗赤色を呈し、乾燥すると褐色にみえる。鮮紅色の場合は異常である。また凝固性に乏しく流動性で、長時間放置しても凝固しない。これは、子宮腟(ちつ)内でいったん凝血したのち、血中にあらかじめ存在したプラスミノーゲンが活性型のプラスミンになり、線維素フィブリンを溶解して血液が流動性になったものであり、凝血が混じる場合は病的に多量なときである。さらに経血は弱アルカリ性を示し、一種の臭気がある。このにおいは血液の分解物、外陰部の皮脂腺(せん)分泌物などによる。なお、出血量は個人差が大きく、普通は100cc前後である。
[新井正夫]
月経に伴う症状にも個人差があり、健康な人でも多少の症状がみられる。下腹部が張ってきて重苦しいとか、腰痛や頭痛、下肢がひきつる、全身がだるい、乳房が張って痛むなどのほか、まれに発疹(ほっしん)(月経疹)を生じたり、神経過敏で興奮しやすくなり、情緒の安定を欠くこともある。これらをまったく感じない人もあるが、また程度の激しいものは異常とみなければならない。月経前7~10日ごろからおこるものを月経前症候群という。
[新井正夫]
月経時には、細菌が感染して繁殖しやすく、精神的、肉体的にも抵抗力が弱まっていて、過労や不摂生で病気をおこしやすい。とくに淋疾(りんしつ)をはじめ、肺結核や喘息(ぜんそく)のほか、胃潰瘍(かいよう)、胆石症、皮膚病、リウマチ、てんかんなどの人も病状が悪化しやすいので、注意する必要がある。
[新井正夫]
経血はつねに流れ出すので、これを受けるものを外陰部にあてがう必要がある。これが月経帯で、生理用品としてタンポンやナプキンが市販されている。腟の洗浄などはする必要がなく、むしろしてはならない。入浴も好ましくなく、性交は衛生的にもよくない。行水やシャワーで体を清潔にするのはよい。なお、初経の近い娘には母親から体験を交えて話し、十分に理解させておく。小学校でも適期の女子を集めて指導している。
[新井正夫]
月経周期の後半に黄体ホルモン剤を毎日連用すると予定の月経が延び、服用中止後2~3日で月経がおこる。早める場合は月経周期の前半5日目ころから約5日間連用し、中止後2~3日で無排卵性月経をおこす。これは、だれでも成功するとは限らないばかりか、乱用すると異常をきたすので、医師に相談するのが望ましい。
[新井正夫]
月経周期や出血持続日数の長さをはじめ、初経と閉経の時期、出血量の多少、随伴症状の激しさなど、正常範囲外にあるものを総称して月経異常とよぶ。おもなものを次に列挙する。
(1)無月経 成熟女性で月経のみられないものをいい、生理的なものと病的なものがある。満18歳を過ぎても初経をみないもの(それまでに1、2回しか月経様出血のなかったものも含む)をはじめ、以前あった月経が2か月以上みられない場合などがある。
(2)希発月経 月経周期が正常よりも長いものをいい、39日以上から8週以内に延長した状態である。
(3)頻発月経 月経周期が正常よりも短いものをいい、24日以内に次の月経がみられる状態である。
(4)不整周期 月経周期が毎回8日以上変動する場合で、やはり月経周期の異常である。
(5)過多月経 月経の出血量が多すぎるもので、月経過剰ともいう。毎回出血量が多すぎる場合は過多月経症とよばれる。月経持続日数も長くなりがちで、7日以上になる過長月経や頻発月経としばしば同時にみられる。なお、過多月経の経血には凝血の混じることが多く、貧血を引き起こすこともある。
(6)過少月経 月経の出血量が少なすぎるものをいい、月経持続日数が2日以内という過短月経や希発月経と同時にみられることが多い。血性帯下だけで終わることもある。
(7)月経困難症 月経随伴症状が日常生活に支障をきたすほど異常に強いものをいう。随伴症状のうち、とくに下腹痛や腰痛など痛みについてのみ注目する場合は月経痛とよぶ。また、月経前7~10日から症状が現れ、月経開始とともに消失する場合は月経前症候群とよんでいる。
(8)代償性月経 鼻出血など子宮以外の部位に周期的な出血が毎月みられるもので、無月経の女性にまれにおこる。このような出血が月経時にみられるものは、補充月経という。
(9)早発閉経 月経が消失することを閉経というが、正常よりその時期が異常に早いものを早発閉経または早期閉経とよぶ。一般に40歳以前の閉経をさす。病態としては原発性無月経と同じものである。
(10)晩発閉経 56歳以後に閉経したもので、遅発閉経ともいう。閉経年齢は時代とともに多少延長しており、晩発閉経は卵巣機能の低下というよりも亢進(こうしん)を意味するわけで、かならずしも病態とはいえない面もある。
[新井正夫]
少女に初経があると、親が赤飯を炊いて家族で祝ったり、餅(もち)を搗(つ)いて近隣に配る風習が広く行われる。少女が一人前の女性に成長し、結婚可能な状態に達したことを祝福し、社会的にも認めてもらうためである。ところが一方、出産や月経は血忌み、赤不浄(あかふじょう)などといって、古来、穢(けがれ)と考えられてきた。神社の鳥居をくぐらず、神棚の前を通ったり井戸に近づくこともしなかった。神事に際しては、本人が参加できないばかりか、夫が神役にあたっていると、月経中の家族を親戚(しんせき)に預ける所もあった。漁師や山仕事をする人たちの間では、血忌みに対して敏感で、家族に月経の者があると獲物(えもの)がないといって休むことがあった。その期間の女性は、台所や土間などで家族と別に食事をしたり、別の竈(かまど)や鍋(なべ)で煮炊きしたものを食べたりした。瀬戸内海の島々や伊豆諸島などには、月小屋、他火(たび)小屋、不浄小屋などといって、その期間の女性が隔離生活を送る小屋が第二次世界大戦前まであった。産小屋(さんごや)(産屋(うぶや))と共通の場合もある。
自然の摂理である月経を、なぜ不浄視したのかについては諸説がある。血液神聖観の裏返しであるとか、男性原理による差別であるとか、仏説に基づくなどが考えられてきた。民族差も認められるようである。生命力の源である血液が、外傷や吐血によって失われて衰弱するのになぞらえて、出血をすべて穢とみたのが始まりではないか。それが社会観や宗教観と結び付いたものと思われる。
[井之口章次]
月経や出産を穢(けが)れたもの、不浄なものと考え、それゆえ危険をもたらすものとみなして、月経中の女性の行動に規制を加えたり、物理的に隔離したりする社会は世界中に数多く存在する。その傾向がもっとも顕著な例は、男女の対立が明確に認識され、居住空間も厳密に区別されているニューギニア高地諸部族であって、マエ・エンガ人の場合、男性は月経血や月経中の女性に触れると重い病気になり、月経血が男性の血液中に入るとたちまち死ぬと信じられ、月経血は邪術にも使われる。それゆえ、月経中の女性は月経小屋に隔離され、自分で食物を集め、調理しなければならない。また月経中の食物は女性が栽培するものに限られており、男性の栽培する畑に入ると作物が枯れるといわれている。一方で北アメリカの先住民ユーロクのように、女性が月経小屋にこもる間、夫はサウナ小屋にこもって力の増大を図るといった、男性側の隔離をも伴う社会もある。初経に際してなんらかの儀礼が行われる社会も数多くみいだされ、いずれも少女から妊娠可能な女性への地位の移行を本人と集団の成員に認知させる機能をもつ通過儀礼である。月経がなぜ穢とされるかは各民族により異なっているが、人類学的視点からみた場合、月経のもつ両義性が注目される。
まず月経血は、他の排泄(はいせつ)物、切られた髪、爪(つめ)などと同様、身体に属するようで属さないという両義性をもつ。それに加えて、月経は女性のもつ両義性の象徴でもある。すなわち、女性はある文化に属する「文化的」な存在であると同時に、自然の豊饒(ほうじょう)性、多産性をもった「自然的」な存在でもあって、出産あるいは月経中の女性においてその両義性がとくに顕著に現れることになる。異なるカテゴリーの間で両義性・あいまい性をもつものが不浄視されタブーとされることでカテゴリー間の差異が明白にされる、という現象は、多くの文化で普遍的にみられるが、月経が穢とされるのも、月経のもつ両義的な性格によるところが大きいと考えられる。
[上田紀行]
メンスまたは単に〈生理〉ともいう。女性の性成熟期を通じ,妊娠,産褥(さんじよく)期を除いて,一定の周期をもって規則正しく発来する,子宮内膜からの生理的出血のことで,女性にみられる性周期現象の一部である。性周期は,間脳・脳下垂体-卵巣系における神経系と内分泌系との間の,一種の生体自動調節機構によってもたらされるもので,脳の視床下部・脳下垂体前葉と卵巣とが相互に作用しあい,それぞれからのホルモン分泌が巧妙に調節されて起こる。
間脳・視床下部の支配のもとに,脳下垂体前葉から,月経周期に応じて,2種類の性腺(または生殖腺)刺激ホルモン(ゴナドトロピン),すなわち卵胞(または濾胞)刺激ホルモンfollicle-stimulating hormone(FSHと略記)と黄体形成ホルモンluteinizing hormone(LHと略記)が規則正しく周期的に血中に分泌される。卵胞刺激ホルモンは卵胞を刺激して卵胞を成熟させる。卵胞からは卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されるが,排卵直前にピークとなる。この多量のエストロゲンが間脳・脳下垂体にポジティブフィードバックし,黄体形成ホルモンが急に多量分泌される。このLHの多量放出が卵巣に作用して排卵が起こる。ついで黄体が形成されると,黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるようになる。子宮体腔の内面をおおっている子宮内膜ことに機能層(表層部)は,これらの卵巣ホルモンに鋭敏に反応する標的組織で,エストロゲンは子宮内膜の厚くなる増殖期(月経終了直後から排卵直前まで)変化を起こさせ,プロゲステロンは子宮内膜の分泌活動が盛んになる分泌期(排卵直後から月経開始直前まで)をもたらす。排卵された卵が受精しなかった場合には,黄体は萎縮し,卵巣ホルモンの分泌が急減する。このホルモンレベルの消退によって,子宮内膜が剝離(はくり)出血して月経が発来する。
月経時の子宮内膜の剝離出血発来のメカニズムには,子宮内膜にみられる特異な血管系が関与する。月経出血時に剝離する子宮内膜の機能層には,らせん動脈,特異な筋繊維細胞をもつ動静脈吻合(ふんごう)や静脈洞が存在する。動静脈吻合の筋細胞は,血中の卵胞ホルモンや黄体ホルモン値が高いときは収縮しており,吻合は閉鎖しているが,月経出血の直前になって,血中のこれらのホルモンのレベルが低下すると,筋細胞が弛緩して動静脈吻合が開き,らせん動脈の血流が静脈洞に流れ込み,子宮内膜表層の鬱血(うつけつ)と血管拡張が起こるとともに,らせん動脈支配下領域の子宮内膜が貧血に陥る。その結果,子宮内膜表層で血管壁の破綻(はたん)が起こり,多数の出血巣ができて,結局,壊死に陥った子宮内膜機能層が剝脱して,子宮体より子宮口をへて腟中へ流出してくる。子宮内膜のうち,深層部の基底層(機能層に比べてごく薄い)は,このような特定の血管構造をもたず,ホルモンに反応しないので剝脱せず,機能層が卵巣からの性ホルモンの減少に反応して剝脱する。
妊娠時に無月経になるのは,妊娠すると,黄体が妊娠黄体になり,黄体ホルモンなどが盛んに分泌されつづけ,血中の性ホルモンレベルが維持されるので,子宮内膜は剝脱することなく,月経出血が発来しない。これを生理的無月経という。生理的無月経は産褥や授乳期でもみられる。
月経の開始を月経初潮menarcheという。女子での初潮年齢は,人種,気候,文化,生活環境,栄養,遺伝等で多少異なるが,日本では12~13歳である。
月経周期は,月経の始まった日(これを月経第1日という)から次回月経の前日までの日数のことで,月経の終了した日から数えるのではない。日本の成熟女性における月経周期日数は平均30.4日,標準偏差は6.54日,10~90百分位範囲は25~36日で,28~30日が最も多い。思春期では,月経周期が正常なものは30~50%にすぎず,初潮後,月経周期が順調になるまでの期間は3ヵ月が45%,7ヵ月以上が41%である(松本清,1981)。また更年期でも周期が乱れる。月経の持続日数は,月経開始から終了までの日数のことで,その日数の平均と標準偏差は4.6±1.27日,正常範囲は3~6日くらいで,6日,4日が最も多い。年齢により差がみられ,35歳以上では月経持続日数が短縮する(松本清,1962)。
月経血量は個人差が強いが,全体として50~250gとされ,普通は100g内外である。このうち真の血液量は66ml(範囲18~135ml)という外国人での報告があるが,日本の女子では53.3g(範囲9.6~142g),あるいは81±49gと報告されている。月経血(俗称は経血)の性状は,暗赤色で,凝固性が乏しく流動性であり,弱アルカリ性である。正常では凝血を混ずることはなく,凝血の存在は病的とみなしうる。月経血は,子宮内膜の機能層(子宮内膜は表層部の機能層と深層部の基底層に分かれる。機能層はとくに卵巣ホルモンに敏感で,月経周期に伴って周期性変化を示す)が剝脱し,子宮内膜に含まれるトリプシン様消化酵素の作用によってフィブリノーゲンが破壊されるために凝固性が乏しい液状となっているのであるから,血液成分以外に,子宮内膜創面からの滲出液,内膜上皮細胞,頸管粘液,外陰皮膚脂腺分泌物や細菌等からなっている。
月経時には次のような種々の局所および全身症状を訴えることがある。これは,月経が全身的な性周期現象の一部であるから当然といえる。症状は,程度の差はあるが,全成熟女性の40~60%にみられる。月経の直前や月経時には,骨盤内神経の圧迫,臓器の充血が著しく,子宮体の肥大,柔軟,子宮腟部や腟も軟化して藍紫色を呈し,分泌も増加する。局所症状としては,下腹部の重圧感や膨満感,下腹痛,腰部の牽引感や腰痛,尿意頻数,性器搔痒(そうよう)感がみられる。全身症状として,軽度の精神障害(いらいらする,気分のむら,憂うつなど),消化器障害(下痢,便秘,吐き気,食欲不振など),疲労感,倦怠,頭痛,めまい,不眠,嗜眠,仕事能率の低下,まれに発疹などがみられる。また,乳房もホルモンの標的器官であるので,その軽度腫張や軽い痛み,乳頭の過敏がみられる。
これらの月経時の随伴症状の出現は,個人差がきわめて大きい。まったくみられない場合や,かえって気分爽快な場合もある。これらの症状は生理的なものであるが,症状が異常に強く,臥床を必要とし,日常生活が妨げられる場合には,病的で,月経困難症と考えられるべきである。また月経前にみられる病的なものを月経前症候群という。
月経周期の中間のころにみられる排卵期に,比較的規則正しく下腹痛を自覚することがある。これを中間痛intermenstrual painという。数時間から,ときには数日に及ぶ。中間痛の原因は排卵前の卵巣の緊張および排卵に伴う疼痛である。また排卵期には,卵胞ホルモンの血中レベルの一過性の急減少に基づいて,軽度の子宮消退出血がみられることがある。これが中間出血である。分泌期になり,血中のホルモン値が増加すると止血する。普通はとくに治療は必要としない。
外陰部を清潔に保ち,細菌が内部に侵入しないようにすることがたいせつである。また,流出する月経血を受け止める生理用品(タンポンまたはナプキン)を正しく着用し,腟内洗浄は好ましくない。不適な内装用生理用具(タンポン)挿入で,ときにタンポン・ショックを起こすことがある。月経中の入浴は,充血を強化し,出血増と細菌感染の可能性を増すおそれがあるので,公衆浴場などで汚れた湯に入ることを避ける。新湯や1回ずつ湯をかえる洋式の風呂ならさしつかえないが,熱い風呂に長時間入るのは避けなければならない。入浴よりは行水やシャワーがよく,体を清潔にするのでむしろよい。スポーツは軽度のものであればさしつかえないが,激しい運動や労働は避けるほうがよい。また月経中は,精神的にも不安定であることが多いので,つとめて平静心を保つようにし,強い刺激を避ける。
ヒト以外の各種霊長類(サル)での月経は,旧世界ザル以上の高等霊長類(ニホンザル,カニクイザル,アカゲザル,ヒヒ,テナガザル,オランウータン,チンパンジー,ゴリラ)の雌でみられ,月経周期日数や血中ホルモンの分泌動態が,ヒトのそれとほぼ同じであることは興味深い。新世界ザルでは月経はみられないが,血中ホルモンの周期的変動がみられる。
執筆者:加藤 順三
月経は女性の出産能力を示す現象として,多くの社会で望ましいもの,重要なものと考えられている。また月経はその周期が月の満ち欠けの周期に近いことから,人の誕生や死と同じく月の影響を受けて起こる現象として神秘化される場合もあり,女性が男性以上に自然の摂理に支配される存在と考えられる根拠ともなっている。月経をめぐる文化のなかでとくに注目されるのは,月経が妊娠や出産とともにしばしば不浄視され,危険視されることである。月経にかかわるさまざまなタブーや,月経時に女性がこもる月経小屋の存在は,月経や月経中の女性が不浄であり,それに接することは,とくに男性にとっては危険をもたらすという考え方から生じている。タブーの内容や程度は多様であるが,月経を不浄視する社会で多く見いだせるタブーには次のようなものがある。(1)男性との性交,(2)男性のカテゴリーに属するもの,たとえば武器,狩猟具,漁具などに触れること,(3)男性の食事を準備すること,(4)男性のカテゴリーに属する空間,たとえば男小屋や,狩猟地である森林,あるいは男性のみが栽培することになっている作物畑に入ること,などである。月経を不浄視する傾向が強い社会ではさらに,月経中の女性が男性の目に触れることや,男性が栽培する作物を食べることさえ,男性に危険を及ぼし,不作をもたらすと信じられている。月経中およびその数日あとまで月経小屋にこもることを義務づけている社会もある。
ニューギニア高地の諸部族は他の地域と比べて月経を不浄視する傾向がはなはだしく,月経中,女性は自分で自分の食事を採集しなければならないが,そのなかに男性のカテゴリーに属する食物が含まれてはならないし,また初潮のときにはとくにその穢(けがれ)がひどいため,少女は自分で食事をとることや自分の身体に触れることさえ許されない。経血に触れると男性は回復不可能なひどい病気になるとも信じられており,女性は自分の夫に邪術をかけるのに経血を使うともいわれる。この地域では月経の不浄性が強調される反面,月経がもつ豊穣性も認められていて,竹筒に経血を入れて畑に埋め,豊作を祈ったりもする。また女性は月経のたびにその生命力を増すとも考えられている。北アメリカ西海岸のインディアンも,月経を不浄とし,月経小屋ないし,月経中の女性がこもる部屋が用意されているが,他方,月経は女性に力をもたらすと信じられている。経血が強い力をもつという信仰は,たとえばアイヌが痘瘡(とうそう)の上にそれを塗る治療法などにもみられる。
執筆者:波平 恵美子
日本では〈月のもの〉〈月やく〉〈よごれ〉〈赤不浄〉〈血忌み〉〈ベッカ〉などともいう。初潮は女の子の性的変化の大きなもので,それをハツハナ(初花)といって,赤飯を炊き,赤い腰巻をおくって祝う風があった。初潮を女の一人前のしるしとみなし,初花の祝は成女式を意味した。一方で月経は出産や死などとともに,血の穢としてその間は忌に服さねばならなかった。月事の忌をヒノカカリといい,月事の者の煮炊きの火と,家族のための煮炊きの火を別火とせねばならなかった。そのためにタヤ,ヒマヤ,ツキゴヤ,ベツヤ,ヨゴラヤ,アサゴヤなどと呼ぶ共同の別小屋を部落内に設けて,月事の間はそこで暮らした。これは海岸地帯に広く分布し産小屋と共用しているものと,別々の小屋をもつものがある。ベツヤのないところでは,母屋の一部であるゲヤ(下屋)などに寝起きして,鍋・釜を別にしていた。月事の終りには海や川で身を浄めてから家に入った。月事の小屋生活は産小屋の風習に比べると,ずっと早く消滅している。月事の忌は神事にはとくに厳しかったので,月事に関係のない少女や老女が神事をつとめる例が多いが,沖縄では月事の女でも神役をつとめている場合もある。月事はその他,狩猟や漁業などを職とする人々にも忌まれた。
執筆者:大藤 ゆき
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…LHは,FSHとともに卵胞の発育を促進するだけでなく,女性(雌性)ホルモン(エストロゲン)の産生と分泌を刺激する。FSH,LHによって完成された卵巣の成熟卵胞は,月経中間期におこる脳下垂体前葉からの急激なLHの分泌に反応して排卵をおこし,黄体が形成される。他方,男子では,FSHは睾丸の精子形成をうながし,LHは睾丸の間質細胞における男性(雄性)ホルモン(テストステロン)の合成と分泌を促進する。…
…筋層と内膜を構成する細胞は,卵巣ホルモンおよび一部の下垂体ホルモンの支配下にあり,性周期や生殖活動に伴い,著しい形態学的・生理学的変化を遂げる。霊長目では月経現象があり,子宮内膜が定期的に脱落し排除される。霊長目以外に,真の月経周期をもつ動物はない。…
…最初の月経。初経ともいう。…
…血が流れて草花や土を染めた,という類の伝説は世界各地にあり,たとえば南方熊楠《十二支考》の〈虎〉の項に詳しい。月経を忌む迷信も日本を含む世界各地にある。大プリニウスによれば,経血が触れると新しいブドウ酒は酸っぱくなり,果実は木から落ち,鏡は輝きを失い,鋼鉄の刃は鈍くなり,ブロンズや鉄は直ちにさびるなどとある(《博物誌》第7巻)。…
…私の目が星になり,私の血が虹になったときには,お前たちの妻も娘も血を出すだろう〉と予言した。首が月になって以来,月経が始まり,女は妊娠するようになった。死と月が人間の生殖力の前提となっているという観念がここにある。…
…妊娠している婦人を妊婦といい,はじめて妊娠した人を初妊婦,2度目以後の妊娠をしている人を経妊婦,妊娠第24週以上での分娩をはじめて経験する人を初産婦,2度目以後の分娩を経験する人を経産婦という。
[妊娠持続日数]
妊娠持続日数を正確に知ることは困難であることが多いので,臨床上は最終月経の第1日から分娩に至る日数を妊娠持続日数と規定している。この日数は統計によると280±17日(平均280日,40週)である。…
※「月経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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