肺挫傷(読み)はいざしょう(英語表記)Pulmonary contusion

六訂版 家庭医学大全科 「肺挫傷」の解説

肺挫傷
はいざしょう
Pulmonary contusion
(外傷)

どんな外傷か

 肺挫傷は、胸部鈍的(どんてき)外傷のなかで最も発生頻度が高いものです。肺組織に鈍的外力が直接作用し、または急激な肺胞(はいほう)内圧の上昇により、肺胞毛細血管が断裂して引き起こされます。

 通常は、外傷後数時間で症状が現れ、軽症のものでは3~5日で自然に治りますが、広範囲の肺挫傷では急性呼吸不全から死に至る場合もあります。

原因は何か

 ほかの胸部外傷同様、交通事故や高所からの墜落、胸部挟圧(きょうあつ)(はさまれる)、暴行などにより発生します。

症状の現れ方

 軽症の肺挫傷では無症状のことが多く、その存在に気づかないこともあります。一般的な症状は、胸部外傷に続発する呼吸困難、頻呼吸(ひんこきゅう)、血痰、チアノーゼ(皮膚などが紫色になる)などです。広範囲の肺挫傷では、低酸素血症(ていさんそけっしょう)に基づく意識障害や血圧低下を合併します。

検査と診断

 診断は、前述の症状に加え、胸部の聴診、動脈血ガス分析(低酸素血症)、胸部X線、胸部CTなどから容易です。

治療の方法

 治療の主なものは、安静臥床(がしょう)酸素吸入、肺理学療法です。吸入療法により気道内の血液気管支分泌物の喀出(かくしゅつ)(咳とともに体外へ排出すること)を促すことも効果的で、無気肺(むきはい)(肺のなかの空気が著しく減少することから起こる呼吸障害)の予防に役立ちます。

 酸素吸入を行っても低酸素血症が改善しない場合には、気管挿管(気管のなかへチューブを挿入して、気道を確保する方法)を行ったうえで人工呼吸管理が行われます。

応急処置はどうするか

 肺挫傷そのものに対する応急処置はとくにありません。呼吸困難を訴えていれば、負傷者自身にいちばん楽な体位をとらせ、そばに付き添って励まし、安心させることが大切です。肋骨(ろっこつ)骨折胸骨(きょうこつ)骨折を合併している場合には、その応急処置を行います。

益子 邦洋

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「肺挫傷」の解説

はいざしょう【肺挫傷 Lung Contusion】

[どんな病気か]
 胸を強く圧迫されたりして肺がつぶれ、肺の中に出血血腫(けっしゅ)(血液のかたまり)、液体がたまった状態です。
 肋骨骨折(ろっこつこっせつ)(「肋骨骨折」)、血胸(けっきょう)・気胸(ききょう)(「血胸/気胸/血気胸」)、周囲の臓器の損傷を合併していることが多いものです。
 血(けっ)たんと胸痛がおもな症状です。
[検査と診断]
 胸部X線検査を行なうと、粒状やまだら状の陰影が写るので診断がつきます。
 胸部CTを行なうと、より詳しい状態がわかります。
 胸痛などのために出入りする空気の量が低下し、血液検査で炭酸ガスが血液中にたまる高炭酸(こうたんさん)ガス血症(けっしょう)がみられることもあります。
 血液中の酸素濃度が薄くなる低酸素血症(ていさんそけっしょう)がみられるときは重症です。
[治療]
 臓器に損傷がなく、バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸など(コラム「バイタルサインとは」))に異常がなければ、止血剤を使用し、たんの排出をうながします。
 肺からもれる空気や血液の量が多い場合、または空気や血液のもれがいつまでも続くといった場合は、開胸して、肺の傷を縫合(ほうごう)する手術にふみきります。
 低酸素血症やフレイルチェスト(「フレイルチェスト(動揺胸郭/FC)」)を合併するときは、酸素吸入を行ないますが、人工呼吸が必要になることもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android