胆道運動異常症

内科学 第10版 「胆道運動異常症」の解説

胆道運動異常症(胆道ジスキネジー)(肝・胆道の疾患)

概念
 胆道とは肝臓でつくられた胆汁十二指腸に流出するまでの通路を総称する用語であるが,胆汁の流量の調節は自律神経,ホルモンにより制御されている.生理的環境下では胆囊が収縮して胆汁を総胆管に送り込むと同時に十二指腸乳頭括約筋が弛緩して胆汁の十二指腸への流出を促進するという協調運動が存在する.胆道運動異常症とはその機能が障害され胆汁流出障害をきたし,そのために胆道痛などを生じる病態である.その名称として乳頭部狭窄症,Oddi括約筋狭窄が用いられることがある.したがって,本症の診断には器質的疾患除外が欠かせない.
分類
 臨床的には機能異常を生じる部位により胆囊運動機能異常症と乳頭括約筋機能異常症に分けて考えると理解しやすい. 歴史的にはSchondubeによる胆囊の収縮動態に基づく分類が一般的で,①緊張亢進性,②運動亢進性,③緊張低下性の3群に分けられ,緊張亢進性は部位によりさらに胆囊頸部・胆囊管型と乳頭括約筋型に分けられている.
1)緊張亢進性:
a)胆囊頸部・胆囊管型:胆囊頸部および胆囊管が強い緊張を呈し,胆囊内圧が上昇して胆道痛を生じる. b)乳頭括約筋型:乳頭括約筋の過緊張により胆管内圧が上昇し,疼痛を生じる.乳頭括約筋機能異常(sphincter of Oddi dysfunction:SOD)の疾患概念に相当し,胆道運動異常症の多くがこの範疇に入ると考えられている.一般的にみられる乳頭括約筋機能異常症は胆囊摘出術後に認められる.これは胆管内圧上昇を緩衝する役目をもつ胆囊を胆囊摘出で失うことによって胆管内圧が上昇し胆道痛を生じるようになると説明されている.
 最近提唱されたMilwaukee分類(表9-22-1)では,臨床症状,血液生化学所見,画像所見によりタイプⅠ,Ⅱ,Ⅲに細分化される.ただし,純粋な機能障害(ジスキネジー)と器質的障害(乳頭狭窄)を臨床的に鑑別することは困難であり,両者を機能異常(dysfunction)として同じカテゴリーに含めて扱っている.特に,胆汁うっ滞の強いタイプⅠには器質的な乳頭狭窄が混在すると考えられる.
2)運動亢進性:
胆囊の強い収縮により大量の胆汁が急速に胆管内に排出され胆管内圧上昇による疼痛を生じる.
3)緊張低下性:
胆囊の緊張低下により胆汁が胆囊内にうっ滞し,鈍い疼痛を生じる.
臨床症状
 食後に上腹部や右季肋部に疼痛を生じる.症状は胆石症と類似しているが,症状出現頻度は不定であり,必ずしも脂肪に富んだ食事が誘因になるわけではない.ほかにもさまざまな腹部不定愁訴がみられ,心身症や過敏性腸症候群として取り扱われていることもしばしばあり,系統的な自律神経機能障害あるいは消化管機能異常の部分的な現れであることも少なくない.
胆道機能検査
 かつては十二指腸ゾンデ法と排泄性胆道造影が機能検査の基本とされていたが,画像診断の進歩によりほとんど行われなくなっている.
1)十二指腸ゾンデ法:
ゾンデを十二指腸下行部まで挿入し,胆囊収縮薬投与によりB胆汁(胆囊胆汁)の排出状態をみる検査法である(ほとんど行われていない).
2)排泄性胆道造影:
 a)経口法:テレパーク,ビロプチンなどは腸管から吸収後,肝細胞に摂取されて胆汁に排泄される.その後,総肝管,胆囊管を経て胆囊に入る(ほとんど行われていない).
 b)点滴静注法:造影剤を点滴で静注しながら胆囊と胆管を描出する(腹部CTと併用することで行われることがある).
3)コレシストキニン(cholecystokinin:CCK)
誘発試験:
コレシストキニンは胆囊を収縮し乳頭部括約筋を弛緩させ,胆汁排泄を促進する働きをもつのでコレシストキニンを投与し胆道痛の誘発をみる検査である.
4)胆道シンチグラフィ:
99mTcを用いた胆道シンチグラフィは胆汁の生理的な流れをみる非侵襲的な検査法である.肝機能障害など胆汁排泄経路以外の諸因子の影響を受けやすいため,苦痛の少ないスクリーニング検査と位置づけられる.
5)内視鏡的胆道内圧測定法:
ERCPの手技を応用し,経乳頭的に胆管内に挿入したカテーテルで経時的に圧を測定する方法である.乳頭括約筋機能異常症の診断において直接内圧を測定することができるので,確定診断には重要な検査法である.しかし,本法は,偶発症として急性膵炎を発症する頻度が高いこともあって,一般には普及していない.
6)EOB-MRI:
MRIを用いてEOB(EOB・プリモビスト)を投与することによって,胆道の排泄機能をみることができる.
診断
 胆石症類似の腹痛を訴える胆石非保有者がすべて胆道運動異常症というわけではない.本症の診断ではまず胆道系以外の腹痛をきたす疾患を除外する必要がある.必要に応じて上下部内視鏡,腹部超音波および腹部CTなどを施行する.次に胆道系の器質的疾患の除外診断を行う.胆囊摘出後の胆道痛は乳頭括約筋機能障害の存在が疑われるが,その多くが胆管胆石の遺残や再発に起因することに留意すべきである.このことを念頭におき,外来で施行可能な腹部超音波検査,MRCP,超音波内視鏡を施行する.
 さらに精査を進める場合には,ERCPを行う必要がある.ERCPはほかの画像検査に比較すると侵襲的であるが,十二指腸乳頭部の形態異常(乳頭部腫瘍など)や胆管造影時の括約筋の動きなどを観察することができる.胆道内圧をモニターすることもできる.また,膵管像を得ることで慢性膵炎などの疾患を除外することができる.ERCPで胆管拡張や造影剤の排泄遅延を認めた場合には括約筋機能異常のことが多い.
 一般的に本症では背景に心身症的要素をもつ患者が多く,精神安定薬の投与が奏効する場合もある.胆囊の運動異常症に対する薬物療法では,緊張および運動亢進性に対して鎮痙薬の投与,緊張低下性に対して消化管機能改善薬などが用いられるが,長期間にわたって有効とするデータはない. 乳頭括約筋機能異常症に対しても鎮痙薬やCa拮抗薬,亜硝酸剤の経口投与が行われるが,長期的な有効性は明らかにされていない.薬物療法が無効な場合,乳頭基礎圧の上昇例に対する内視鏡的乳頭括約筋切開術は手術治療と同等の臨床効果があり,手術よりも非侵襲的であることから欧米では標準的な治療法となっている.Milwaukee分類のタイプⅠには器質的変化である乳頭狭窄も含まれていると考えられ,内視鏡的乳頭括約筋切開術が著効を示す.タイプⅡでは内圧測定で基礎圧の上昇がみられない場合には内視鏡的乳頭切開術の効果がないことがあり,適応の有無をみるため内圧測定が推奨されている.タイプⅢは血液検査や画像診断上まったく異常がなく,消化管機能異常症の部分的症状としての胆道痛を訴えている可能性があり,内視鏡的乳頭括約筋切開術を施行しても効果が得られないことが多い(峯,2003).このため,内圧測定で異常がないかぎり内視鏡的乳頭切開術の適応とはならない.[峯 徹哉]
■文献
Hogan WJ, Geenen JE: Biliary dyskinesia. Endoscopy, 20 (Supple 1) : 179-183, 1988.
峯 徹哉:胆・膵の内視鏡治療. Annual Review消化器2004 (戸田剛太郎,税所宏光,他編),pp166-169,中外医学社,東京,2003
.Schondube W: Biliary dyskinesia and pancreopathy; a contribution to their relationship. Munch Med Wochenshr, 13: 911-913, 1954.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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