自動車交通(読み)じどうしゃこうつう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動車交通」の意味・わかりやすい解説

自動車交通
じどうしゃこうつう

自動車による人や貨物の移動をいう。

特質

今日、国際的に自動車交通の発達が著しいが、その要因は次のような自動車交通の特質による。すなわち、自動車交通は、交通施設としての軌道を利用する鉄道と異なり、道路を通路として利用するため、目的地、出発地、経路が固定されず、面的交通としての性格をもっている。そのため「戸口から戸口(ドア・ツー・ドア)」への一貫した交通、すなわち、一つの閉じた交通システムを構成することができる。したがってまた、自動車はきわめて汎用(はんよう)性の高い交通機関である。このことが、自動車交通の発達をもたらした大きな要因である。そのほか自動車交通の特性として、(1)比較的小単位の独立した交通が可能であること、(2)運転操作が容易であること、(3)個人所有が可能であること、(4)利用について随意性が高く、自由度が大きいこと(時刻表やルートに束縛されない)などがあげられる。こうした特質に加えて、道路投資、国民所得の上昇などによって、営業用、自家用のトラック輸送の発達だけでなく、自家用乗用車の普及が著しくなったのである。

[木谷直俊]

自動車保有状況および輸送分担率

日本の自動車保有台数(トラック、バス、乗用車、その他を含む)は、1963年(昭和38)に500万台、1967年に1000万台を超え、日本の車社会は高度成長の波に乗り、急激にモータリゼーションが進展した。その後、ほぼ10年間で3000万台となった。以後、1990年(平成2)6000万台、1995年には7000万台、さらに2011年(平成23)には7850万台になっている。このように自動車保有台数は年々増加している。

 そのため、鉄道と自動車の旅客の輸送分担率(人キロ)をみると、1965年に鉄道66.8%、自動車31.6%であったものが、2009年には鉄道28.7%、自動車65.6%となっている。しかし、自動車のなかでもバスの輸送分担率は低下し、21.2%から5.2%まで低下している。貨物の鉄道等と自動車の輸送分担率(トンキロ)をみても、1965年に鉄道30.7%、自動車26.0%、内航海運43.3%、航空0%であったのに対して、2009年には鉄道3.9%、自動車63.8%、内航海運32.2%、航空0.2%と自動車輸送の比率が圧倒的に高くなっている。

[木谷直俊]

日本の自動車交通

(1)トラック運送 日本のトラック輸送は高度成長過程を通じて著しく増大し、2009年度(平成21)の輸送トン数は44億5400万トンである。自家用、営業用の比率は営業用60%、自家用40%となっている。国内貨物輸送量のなかでトラック輸送の占める分担率は、トン数で92%という高いシェアを示している(トンキロでは63.8%)。これは、トラックそのものの機動性、利便性や高速道路の整備の進捗(しんちょく)、製品輸送の多品種・多頻度化という要因に加えて、宅配便などの荷主ニーズの多様化に応じた輸送機関として広く利用されているためである。

 トラック運送は従来参入規制によって競争が制限されていたが、貨物自動車運送事業法(平成1年法律第83号)によって、経済的規制の緩和および手続の簡素化を図る一方、過労運転過積載など社会的な問題となっている輸送の安全の確保および輸送秩序の維持については、その実行を期するように社会的規制を強化した。おもな規制緩和は次のとおりである。

(a)新規参入については需給調整規制(新しく事業に参入したいというものに対して、一定の資格をチェックするほか、すでに市場において事業者の数が多く、十分なサービスが提供されているため、これ以上増やす必要がないというときには新規参入を認めないというもの)を廃止したことにより、従来の免許制から許可制に改めた。また、車両数の増減にかかわる事業計画変更についても許可制から事前届出制に改めた。

(b)従来の路線事業と区域事業の事業区分を一体化し、貸切り運送しかできなかった旧区域事業者も積合せ運送ができることになった。

(c)運賃・料金に関する規定も認可制から事前届出制へと緩和された。さらに2003年4月からは事後届出制となった。

 なお、旧路線事業者のなかには、不特定多数の顧客から集荷した貨物を営業所(ターミナル)で仕分けし、貨物を積み合せて他のターミナルへ輸送し、配送に必要な仕分けを行い、営業所(ターミナル)間の積合せ運送を定期的に行うものがある。これを特別積合せ貨物運送という。いいかえると、トラックの定期便のことである。この特別積合せ運行を行うトラック事業者は2010年3月末時点で全国に291社しかないが、一般になじみの深い宅配便は、この特別積合せトラック業者が、宅配便運賃を別途設定して独自の輸送商品として販売しているものである。

 しかし、2010年度末の日本のトラック運送事業者(約6万3000)のうち、中小企業(資本金3億円以下または従業員300人以下)は99.9%を占め、経営基盤の強化が重要な課題となっている。また、産業構造の変化に伴う輸送ニーズの高度化・多様化に対して的確な対応を行うことが要請されている。

(2)バス輸送 過疎地のバス輸送が衰退するなか、都市部を運行するバスも慢性化する道路交通の混雑により、定時運行の確保がむずかしくなっている。また、マイカー地下鉄との激しい競争下にあるために厳しい経営状況が続いている。しかし、バス輸送サービスの向上によりバスの利用促進、ひいてはマイカー利用からの誘導を図ることは、自動車事故の防止、環境保全省エネルギー、道路交通の円滑化、高齢者などの移動制約者の交通の確保を推進する観点からきわめて重要であり、バスの魅力を回復することが重要な政策課題となっている。そのため、乗合バスについては2000年(平成12)5月に「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」が公布、2002年2月から施行されることで、需給調整規制が廃止され、事業者間の競争を促進することになった。また運賃は認可制から上限認可の下での事前届出制となった。しかし、同時に、オムニバスタウン(乗合バスの利用を促進する町づくり構想)やバス利用促進のための交通システムの整備などに対する支援、バス専用レーンや都市新バスシステムをはじめバスの走行環境を改善するための施策が重要である。現実には高齢化社会のなかで都市郊外のバス路線の撤退が進んでいる。そのため、公共交通機関のない団地などが多く発生するようになっており、新たな対策が望まれる。なお、2003年度の乗合バスの許可路線キロは34万0898キロメートル、走行キロ30億0900万キロメートル、輸送人員44億4800万人であったが、2009年度になると許可路線キロ41万7394キロメートルに対して走行キロ30億4300万キロメートル、輸送人員は41億7800万人と、年々走行キロ、輸送人員の減少が進んでいる。

 貸切バスについては、2009年度の事業者数は4392事業者、車両数4万6676台、走行キロ16億7700万キロメートル、輸送人員2億9900万人である。貸切バスの利用形態でもっとも多いのは観光用であるため、経済情勢などに左右されやすく、輸送人員も流動的である。

(3)ハイヤー・タクシー輸送 タクシー事業は鉄道、バスといった大量輸送機関と相まって面的、個人的な輸送を担うとともに、時間帯や地域によっては鉄道、バスの代替的な、また、都市部では自家用車に比べて空間利用面で効率性が高く、地域住民の日常生活にとって重要な役割を果たしている。しかし、タクシー利用者の数は近年減少傾向にあり、多様化する利用者ニーズに即したサービスの提供など需要喚起の対策が必要となっている。そのため、タクシーに対しても2002年(平成14)2月に需給調整が廃止され、事業者ごとの許可制となった。運賃については許可制がとられ、同一地域同一運賃であったが、1993年(平成5)に廃止された。1997年からゾーン運賃制(上限価格から10%の幅のなかで事業者が自由に料金を決定できる制度)や初乗り短縮運賃が導入された。2002年2月からは自動認可方式がとられ、規制された上限運賃以下で事前に届出する制度となった。これにより、事業者間の競争が活発化し、利用者ニーズに合致した新しいサービスの登場、サービス内容に応じた多様な運賃の設定が可能となり、利用者がタクシーを選択する時代になると期待されてきた。しかし、事業者数、車両数は増大しているのに対して、輸送人員は減少している。また、タクシー事業は原価の約80%を人件費が占める労働集約的産業であり、他の産業に比べて劣悪な労働条件におかれている。タクシー事業のあり方の見直しとともに、労働条件の改善を図っていくことが重要である。そこで、供給過剰の進行等の問題が発生している地域として国土交通大臣が指定する特定地域において、地域の多様な関係者が組織する協議会で、タクシーの需要拡大やタクシー労働者の労働条件の改善等の、タクシー事業の適正化および活性化にかかわる地域の関係者の取り組みを推進すること、事前届出制となっている増車にかかわる事業計画の変更等を定めた「タクシー適正化・活性化法」が、2009年10月に施行された。なお、2002年度のハイヤー・タクシーの事業者数は5万3705事業者、車両数26万3392台、輸送人員23億6600万人であったが、2009年度の事業者数は5万7013事業者、車両数26万5430台、輸送人員19億4800万人となっている。

 個人タクシー制度は、1959年(昭和34)に発足したものであるが、2011年度末の事業者の数は4万1900事業者で、タクシー車両全体の約17.3%を占めている。個人タクシーは車両を自分で保有し、その営業のすべての責任を負うものであるために、免許にあたっては年齢、運転経歴、法令遵守状況、事業計画、健康状態、道路運送法その他関連法令および関係地域の地理について、必要な知識を有しているかどうかなどを重点に審査が行われている。

[木谷直俊]

都市と自動車

すでに述べたように、自動車利用はその特性によって国際的に著しく増大した。しかしその反面、交通事故、大気汚染、公共輸送機関の経営難、交通弱者の発生など多くの問題をもたらした。そこで、世界各地で自動車交通を抑制する方法が採用されるようになった。自動車交通を抑制する方法としては、保有抑制(保管場所の確保など)、使用抑制(バスレーン設置、時差通勤など)、流入抑制(都心部乗入れ規制、バイパス建設など)がある。

 また、自動車の新しい使い方も開発されつつある。これは、バスなどの公共輸送機関としての自動車の新しい利用方法と、乗用車の新しい使い方に区分できる。前者には、バス・ロケーション・システム(BLS)、デマンド運行方式、交通規制などによるバス優先策などがある。後者には、カープールcar pool(自家用乗用車の相乗り)、バンプールvan pool(企業が社員の通勤のためにキャラバン形のミニバスを提供する方式)、ダイアル・ア・ライドdial-a-ride(無線タクシーのように電話で申し込み、ドアからドアまでのサービスを行うが、これを何名かの同じ方向の需要をあわせてサービスする点でデマンドバスに近い性格をもつ)、相乗りタクシー、ジットニーjitney(一定の運行経路を走り、中途で乗降客があれば、どこでも乗り降りさせ、場合によっては多少の経路変更もする)などがある。このような乗用車からミニバス程度の自動車の新しい使い方を総称してパラトランジット(準公共輸送機関)という。または、スペシャル・トランスポート・サービス(STS)とよぶこともある。しかし、自動車交通のコントロールは容易でなく、国際的に重要な課題となっている。日本でも、過疎地のみならず都市部郊外の住宅団地の住民の高齢化等によって、新しい良質な公共交通の必要性が指摘されている。

[木谷直俊]

『J・プーカー、C・ルフェーブル著、木谷直俊他訳『都市交通の危機』(1999・白桃書房)』『総務庁編『規制緩和白書』2000年版(大蔵省印刷局)』『国土交通省総合政策局監修『交通経済統計要覧』各年版(運輸政策研究機構)』『国土交通省編『国土交通白書』各年版(ぎょうせい。平成12年度版までは運輸省編『運輸白書』)』『交通協力会編・刊『交通年鑑』各年版』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自動車交通」の意味・わかりやすい解説

自動車交通
じどうしゃこうつう
motor transportation

自動車によって行われる道路交通の形態。現在は自動車が最も有力な路上交通機関であるため,しばしば道路交通と同義語としても用いられる。 19世紀末以降,自動車自体の発達と道路の整備によって急速に発展した。自動車は一般に鉄道や水上交通機関と比較して小単位輸送であるが,一定水準以上の道路さえあればどこででも活用でき,戸口間連続輸送のできるすぐれた機動性をもつ。このため,陸上交通では鉄道交通と対立する競争交通機関となる反面,補完的な交通機関として培養交通の機能を果してきた。事故率は比較的高く,また自動車の激増によって路上の交通渋滞や騒音,排気ガスによる公害も大きな社会問題となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の自動車交通の言及

【自動車】より

…これらは力学的な検討,評価もさることながら,最終的には運転者である人の評価によって決まる性質のものであるため,人‐自動車システムの観点から検討が行われる。
[安全性]
 自動車交通の安全は,対策技術engineering,有効な教育education,そして規制enforcementの三つからなり,これを3Eと呼んでいる。安全対策技術には,事故を未然に防ぐための予防安全(第一次安全対策),事故が起こったときにその被害を最小限にとどめる事故時安全(第二次安全対策),そして衝突や転覆した後の火災防止や脱出,救出を容易にする事後安全(第三次安全対策)からなる(図8)。…

※「自動車交通」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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