主としてガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関が、運転中に大気中に排出する気体のこと。最近では、ことばの重複を避けて、排出ガスあるいは排ガスとよぶことが多い。われわれのもっとも身近でもっとも多量に排出され、しかも比較的有害なところから、大気汚染の元凶とされているのは、自動車用ガソリンエンジンの排出ガスである。一般にガソリンエンジンの排出ガスのうち、80%以上は無害の窒素と水蒸気であるが、残りの20%弱はCO2,CO,HC,NOxなどによって占められている。このうちCO2を除く3成分が人体に対して有害である。
CO(一酸化炭素)は血液中のヘモグロビンと結合してCO‐Hb(一酸化炭素ヘモグロビン)となり、その全血液中の濃度が20%になると頭痛やめまいをおこし、60%以上で意識を失い、放置すれば死亡する。HC(炭化水素)は粘膜を刺激し、組織を破壊する。またCOのなかでもオレフィン系、芳香族系の活性炭化水素とNOxとが太陽光線のエネルギーで反応すると、オキシダントという複雑な化合物を生成する。これが視程障害を引き起こす、いわゆる光化学スモッグである。NOxは窒素酸化物の総称で、一般に99%のNO(一酸化窒素)と1%のNO2(二酸化窒素)からなる。NOはヘモグロビンと結合しやすく、酸素欠乏症や中枢神経機能の減退をもたらし、量が増えれば死に至る。またNOが空気中の酸素と結合してできるNO2も、鼻、のどなどの粘膜を刺激し、空気中の濃度が高くなると死亡する。
なぜこれらの有害成分が排出ガス中に含まれるのかといえば、HCは、本来ガソリン中のエネルギー成分であるHCが、シリンダー中で燃焼(酸化)されないまま排気管から出てしまうのである(このほかシリンダーとピストンの間を通り抜けてしまったブローバイや、燃料タンクや気化器の液面からの蒸発などでも出るが、これは一般的に排出ガスとは区別されている)。次にCOは、シリンダー内でHCが完全に燃焼してCO2(炭酸ガス)になるべきなのに、酸素不足や燃焼効果の低さのゆえにCOにとどまったまま排出されるのである。NOxは、ガソリン中の窒素(N2)の一部と酸素(O2)が、燃焼による高温で反応して生じる。
これらの有害成分の発生を抑える方法としては、混合気を理論空燃比まで薄くする反面、層状吸気や空気噴射を行ったり、点火時期を精密に調節して燃焼効率を高める、不活性ガスとして排気の一部をシリンダーに循環させて燃焼温度を下げる、などがある。一方、どんなに手を尽くしても有害成分の発生をゼロにすることは不可能なので、排出ガスを貴金属の三元触媒コンバーターの中を通して酸化、還元させる方法も併用されている。
[高島鎮雄]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
工場の排煙とともに大都市の大気汚染の主原因となっている.排気ガスの成分は二酸化炭素や水蒸気のほか,一酸化炭素,炭化水素,窒素酸化物(NOx),硫黄酸化物,アルデヒド,および粒子状物質(PM)などである.とくに窒素酸化物や硫黄酸化物が,オキシダントや酸性雨など大気汚染の原因とされ問題になっている.ガソリンエンジンでは,エンジンの改良とともにRd,Rh,Ptを用いた三元触媒の開発などにより,一酸化炭素,窒素酸化物の排出量が規制前の数% レベルまで削減されている.また,アンチノック剤としてガソリンにアルキル鉛(四エチル鉛など)が添加されていたが,その毒性により,わが国では1983年に添加が禁止されている.ディーゼルエンジンでは,ガソリンエンジンに比べて一酸化炭素,炭化水素の排出割合は少ないが,粒子状物質の排出が健康上大きな問題となっている.こうした排気ガス問題を解決するために,水素ガスや天然ガスなどの燃料電池方式による,次世代自動車の開発も進められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…シリンダー配列は,直列4気筒形式がもっとも一般的であるが,中・大型乗用車には高出力化や静粛性を追求した直列6気筒形式,V型6気筒やV型8気筒形式なども採用されている。また高性能車や高級車を志向するものでは,排気ガスの残存速度エネルギーでタービンを回転させ,同軸のコンプレッサーで圧縮した空気をシリンダーに導くターボ過給方式も採用されている(過給機)。 ガソリンエンジンの効率は,単体の場合は25~35%程度であるが,自動車に搭載した場合,渋滞した道路を含めた日常的な走行では15%程度にとどまることになり,これが実用の燃費となって現れる。…
※「排気ガス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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