地下に敷設された都市高速電気鉄道。地下鉄道の略称。ほかの交通機関や道路との交差がないので列車運転速度を高められ、市街地景観の維持ができること、騒音の発生が少ないことから、大都市公共交通機関の主流となっている。通勤・通学などの便を図るため、路線は都心から周辺郊外地区に向けて放射状に配置される場合が多いが、ロンドン、パリ、モスクワ、東京のように環状線を設けて放射状路線の相互を連絡している都市もある。同じ路線が郊外に出ると高架や地平になる場合でも、運営主体が地下鉄道運営事業者であれば地下鉄とよぶ。
[大塚和之]
1863年1月、イギリスのロンドンに開設されたのが最初である。当初は蒸気機関車牽引(けんいん)で、ビショップス・ロード―ファーリンドン・ストリート間約6キロメートルの営業を始めた。排煙のために駅には天井を設けず、燃料には煤煙(ばいえん)の少ないコークスを使用した。1890年にはロンドンのチューブ式地下鉄道が誕生し、電気機関車によって列車牽引した。1896年にはハンガリーのブダペストに地下鉄ができて電車が使用されるようになった。地下鉄は引き続き、イギリスのグラスゴー(1897)、アメリカのボストン(1898)、フランスのパリ(1900)、ドイツのベルリン(1902)、アメリカのニューヨーク(1904)、アルゼンチンのブエノス・アイレス(1913)、ロシアのモスクワ(1935)などに普及していった。さらに第二次世界大戦後、ストックホルム(1950)、ローマ(1955)、メキシコシティ(1969)、北京(ペキン)(1969)、ピョンヤン(1973)、ソウル(1974)、リオ・デ・ジャネイロ(1979)、釜山(ふざん/プサン)(1985)、シンガポール(1987)、カイロ(1987)、上海(シャンハイ)(1993)、ワルシャワ(1995)、台北(たいほく/タイペイ)(1996)、ブルガリアのソフィア(1998)、韓国の仁川(じんせん/インチョン)(1999)、テヘラン(2000)などを加え、2001年現在、世界120都市以上に普及している。
[大塚和之]
東京の地下鉄計画は、東京市内外交通調査委員会が1919年(大正8)発表した調査書によって始まった。この計画はその後関東大震災があったため修正されて、1925年、東京特別都市計画の一部として決定、告示された。同年、東京地下鉄道会社によって着工された上野―浅草間の2.2キロメートルが1927年(昭和2)に開通し、ついで1935年東京高速鉄道会社によって完成された渋谷―新橋間との直通運転が、1939年に開始された。この両社の路線は1941年に設立された帝都高速度交通営団に引き継がれ、営団地下鉄銀座線となった。なお、帝都高速度交通営団は2004年(平成16)4月に民営化されて東京地下鉄株式会社となり、通称も営団地下鉄から東京メトロに変わっている。
大阪では、1924年に大阪市高速鉄道路線網の調査報告書が完成し、市議会の議決を経て、1933年梅田(仮駅)―心斎橋間3.1キロメートルが開通した。第二次世界大戦終了時までに完成していた日本の地下鉄は前記2路線だけで、名古屋などの計画はあったものの戦争の激化によって実現されなかった。
[大塚和之]
戦後の地下鉄計画は、1946年1月戦災復興院による帝都復興計画要綱案に取り上げられた。このなかで、ターミナル駅での郊外電車との直結と、半地下開放路線の建設が提案された。ほかの主要都市でも輸送需要が急増し、大阪は1950年に地下鉄工事を再開し、1951年には天王寺―昭和町間の1.8キロメートル、1952年に昭和町―西田辺(にしたなべ)間1.3キロメートルが開通した。東京でも1951年、池袋―御茶ノ水(おちゃのみず)間6.6キロメートルの工事に着工、1954年1月運転を開始した。続いて1956年に大阪の花園町―岸里(きしのさと)間1.1キロメートル、1957年には名古屋の名古屋―栄町間2.4キロメートルも営業を始め、地下鉄建設は本格化した。その後札幌(1971)、横浜(1972)、神戸(1977)、京都(1981)、福岡(1981)、仙台(1987)、広島(1994)、さいたま・川口・鳩ヶ谷(現、川口市)の埼玉県3市(2001)の各市で開業。2001年(平成13)現在の営業キロ数は672.9キロメートルに達している。
[大塚和之]
地下鉄と郊外電鉄線の直通運転はすでに1946年の要綱案にも提示されていたが、1956年の都市交通審議会答申に基づく運輸省(現、国土交通省)の指示に従って実現した。最初の相互直通運転は1960年12月、東京都営地下鉄浅草線の押上(おしあげ)―浅草橋間3.1キロメートル開通の際に京成電鉄との間で開始された。その後、各地で相互乗入れが行われ、2001年現在では東京および首都圏、名古屋、大阪、神戸、福岡、京都の各都市で実施され、ターミナル駅での混雑および乗り換えの煩わしさの解消に役だっている。実施にあたっては、電気方式、軌間、車両の寸法・性能、饋電(きでん)(給電)の方法、接続駅で乗務員が乗り継ぐか相手線内に乗り入れるかなどの点について協議を行う。運賃は併算式が普通だが、割引制度を併用している例もある。海外でも、パリ、韓国のソウルなどで地下鉄と国有鉄道の相互直通運転を行っている。
[大塚和之]
地下鉄は地下に建設、運行されるので、特殊性を有する。地上鉄道と比較して、工事費は必然的に高額となる。経済的にするためにはトンネル断面を小さくしたほうがよいが、車両は乗客収容力の大きいものが望ましい。建築限界と車両限界の差、つまり線路の外側の構造物と車両の大きさの差を地上鉄道では片側40センチメートル以上とするのに対し、地下鉄では20センチメートル以上という規定にしている。また輸送量の少ない路線では、トンネル断面が小さいミニ地下鉄も注目されている。これは、通常直径5メートル前後のトンネルの断面を3.5メートル程度にすることにより、断面積は半分程度になるので掘削排土量も半減し、工事費がほぼ比例して減少できる。
地下鉄の建設工法には、大きく分類すると開削工法、潜函(せんかん)工法、沈埋(ちんまい)工法、シールド工法、山岳トンネル工法などがある。
(1)開削工法 オープンカット工法ともいう。もっとも一般的な工法といえる。主として道路の下に地下鉄を建設する場合に用いる。土留(どど)めを行ったあと地表から掘り下げ、道路面を覆工板などの構造物で覆って掘削する。交通量が少ない道路や迂回(うかい)路が確保できる場合は覆いする必要はなく、建設コストが安く、工事も簡単なので、ロンドンやニューヨークの地下鉄で初期にもっぱら採用された工法である。完成したら埋めもどして地上をもとの状態にもどす。
(2)潜函工法 ケーソン工法ともいう。地上でケーソンとよぶコンクリート製の箱形の構造物をつくり、この下の土を掘り出してケーソンを地中に沈降させ、所定の深さに達してから、つないでトンネルにする。水底や軟弱な地盤に用いられ、最初の施工は、1900年のパリ万国博覧会開催のときに建設された、パリ地下鉄のセーヌ川底横断区間である。
(3)沈埋工法 浚渫(しゅんせつ)機で掘った穴にトンネルを沈めて埋める工法。河川や港などで用いられる。横断しようとする河や湾口の付近で区分したトンネルの外郭をつくり、水上を曳航(えいこう)して掘りくぼめたトンネル埋設予定地に沈め、埋め戻す工法である。1970年(昭和45)の大阪市営地下鉄(現、大阪市高速電気軌道)堺筋(さかいすじ)線の堂島川、道頓堀(どうとんぼり)川の川底区間、1972年アメリカ、サンフランシスコの湾岸高速鉄道(BART)のオークランド湾海底、1979年香港(ホンコン)地下鉄の九竜(きゅうりゅう/チウロン)と香港島を結ぶ区間などの例がある。
(4)シールド工法 トンネルと同じ太さの鋼鉄製の円筒の前面に動力で回転するカッター付き円盤を装備した大型掘削機で、土の中を横に掘り進む工法である。掘り進んだ直後にセグメントリングで内壁を組み立て、土の崩れを防ぎながらトンネルを構築していく。建物などの密集地帯や河川の下など、上から開削できない場所または地下深い所での工事に用いられる。1825年に始まったロンドンのテムズ川底路線に採用され、1887年からの深部地下鉄建設にも用いられた(これがロンドン地下鉄のチューブと称される小断面方式である)。現在では地下鉄路線が増えたため地表から深い所での交差が多いので、各都市で広く採用されている。その場合でも、駅部は開削工法によることが多い。
(5)山岳トンネル工法 地上の鉄道のトンネルと同じに掘削する工法で、岩盤や硬い地盤の地域で使われる。スウェーデンのストックホルム地下鉄の一部では岩盤を山岳トンネル工法で掘削し、区間によっては岩肌をそのままにして使用している。日本でも神戸、福岡、横浜、仙台などの硬い地盤地帯に用いられ、コンクリートによる内巻きを施してある。
(6)ナトム工法(NATM工法) ロックボルトと吹付けコンクリートを主部材としてトンネルを掘り進めるトンネル工法。地質の変化に対応しやすい。
なお、以上のほかに河川や湾口を路線が通過する際に、トンネルによらず、いったん地上に出て橋梁(きょうりょう)によって横断する場合もある。ニューヨークやフィラデルフィアでは、吊橋(つりばし)上に地下鉄が運行されている。
[大塚和之]
従来はトンネル断面積を小さくするために、第三軌条方式が多く採用されてきた。ロンドン地下鉄などのように、第三軌条のほかに帰線電流用の第四軌条を設け、インピーダンス・ボンドの省略と饋電(きでん)回路の接地事故の回避、電蝕(でんしょく)防止を図っている例もある。日本では郊外電鉄線との相互直通運転をするため、地上鉄道の方式にあわせて架空電車線方式を採用しているものが多くなった。しかし、トンネル断面積の増大と架空電車線の断線事故を防ぐため、電車線に張力のかからない剛体電車線を用いる例が多い。円形断面トンネルでは、保守用側道の設置などの関係から、架空電車線方式のほうが安全かつ効率的である場合もある。
第三軌条電圧は、600~750ボルトが用いられるが、825ボルト(モスクワ)、1000ボルト(サンフランシスコ)、1500ボルト(バルセロナ)などもある。架空電車線方式では直流1500ボルトが多い。
[大塚和之]
都市内を走行する条件から駅間距離が短いため、高加速・高減速の車両性能が要求される。従来の直流方式の電車は抵抗制御であったが、とくに地下鉄はトンネル内の熱放散を防ぐためにサイリスタ・チョッパー制御による方式が地上式鉄道よりも早期に採用された。やがて車両技術の進歩に伴って、サイリスタ・インバーターにより直流を三相交流に変換して交流籠形誘導電動機を駆動するVVVF(Variable Voltage Variable Frequency可変電圧・可変周波数)インバーター制御式電車が実現して、粘着特性の向上と車両保守費の軽減が可能となった。チョッパー制御もVVVFコンバーター制御も高速域から低速域まで広い範囲に電力回生ブレーキを使用できるので、アルミ合金車体の採用などの車両軽量化とあわせて、40%程度のエネルギー節減が達成される。車両の出入口は、大量の乗客を短時間にさばくために幅が広く、開閉時間の短い両引き扉が多く使われている。座席は乗客収容力のあるサイドシートが日本ではほとんどであるが、ストックホルム、パリ、ロンドン、北京、バンクーバーなど諸外国都市ではクロスシートを主にしてロングシートを一部併用している。
日本の地下鉄の車両は、防災上国土交通省A‐A構造基準に基づいて不燃構造化されている。車体に用いる材料はすべて所定の規格に従うほか、乗客が他の車両に移動できる貫通通路、車内放送装置、乗客から乗務員への通報装置、消火器などが設置されている。
空気ゴムタイヤ車両が、日本では札幌、海外ではパリ、モントリオール、メキシコシティなどで使用されている。タイヤは粘着力が大きく、騒音が少ないという特長があるが、鋼鉄車輪に比較してタイヤの寿命が短く、また走行抵抗が大きい。分岐器構造が複雑という短所もある。
[大塚和之]
地下鉄の運行システムでは、運転指令所に全線の列車位置表示装置、無線、指令電話などを設け集中的な運行管理をしている。指令所から遠隔操作で各所の転轍(てんてつ)機や信号機を取り扱うCTC装置(列車集中制御装置)、CTCとコンピュータを組み合わせてプログラム制御を行うPTC装置(プログラム運行制御装置)、さらに各駅の案内などもプログラムにより自動的に放送するトータル制御を行うTTC装置(列車運行管理システム)を採用している。運行状況、取扱い変更なども自動的に記録される。また、自動券売機の売上集計、乗客の乗降統計も集中的に行うシステムもできてきた。
電力指令所には各変電所の制御スイッチ類と計測装置が集中配置され、送電、受電、系統切換えが遠隔操作できる。消費電力量などもコンピュータで自動的に記録される。列車や駅のプラットホームには非常発報装置が設備され、電車線電流の緊急停電が必要な場合にはただちに電力指令所に信号が送られ電車線への送電を停止し、事故の拡大を阻止する態勢がとられる。
[大塚和之]
1927年に開通した上野―浅草間にも当初から打ち子式の自動列車停止装置(ATS装置)と自動閉塞(へいそく)信号機が採用され、地上鉄道より保安設備は先行していた。1961年、東京の営団地下鉄(現、東京地下鉄)日比谷(ひびや)線の一部開通からは、日本最初の高周波連続誘導式による自動列車制御装置(ATC装置)が実用化された。1965年、名古屋市名城線の開通から、列車運転室の車内信号機とATCの組合せによる保安システムが採用された。転轍機と信号機を連動して操作することも地下鉄では早くから行われ、連動装置を全線にわたって集中制御するCTC装置も採用されている。また、ATC装置の信号に従い一連の運転制御を自動的に行うATO装置(自動列車運転装置)も用いられている。2000年(平成12)に全線開通した東京の都営大江戸線では、車内の機器を連動させ安全運行に必要な諸機能(異常発生検知、主要機器の自動検査、操作制御、放送・表示などのサービスなど)を備えるATI装置(光ファイバー伝送による総合情報処理システム)も合わせて装備されている。
サンクト・ペテルブルグ、シンガポール、営団地下鉄(現、東京地下鉄)南北線などでは、早くからプラットホーム・ドア(スクリーン)が用いられた。
運転操作の個人差をなくすことによる運転能率向上、定位置停止装置による過走防止などを意図した無人運転の採用も増加している。1962年に初めてニューヨーク地下鉄のグランド・セントラル―タイムズ・スクエア間で無人運転による営業が行われた。サンフランシスコのBARTでは中央指令所のコンピュータに運転計画を記憶させ、時刻ごとの発車指示や調整、実際の運行時刻との照合、停車場でのドアの開閉、経済運転指示などを総合的に行っている。フィラデルフィアのPATCOリンデンウッド線も自動運転をサンフランシスコに先駆けて実施した。フランスのリール、ドイツのベルリン、都心部が地下鉄となるカナダのバンクーバーのスカイトレーン(ALRT)などですでに完全無人運転が実施されている。
[大塚和之]
地下鉄に特有の設備としては次のようなものがある。
(1)排水 トンネル内は排水のために水平の線路に対して2‰(パーミル)程度の勾配(こうばい)をつける。線路に沿った排水溝の水はいったん溜枡(ためます)に集め、ポンプで地表に吸い上げて下水に流す。ポンプ故障によるトンネルの浸水事故を防ぐため、予備のポンプ、別回路の予備電源なども準備してある。
(2)換気 浅いトンネルの場合には、トンネル内を通る列車がピストン作用をして、通風口から吸排気をする。深いトンネルでは、駅部や駅間に換気塔を設けて送風機による換気を行う。夏季は気温とともに湿度が高くなり、とくに地下鉄のトンネル内は、大量の乗客、列車の電気装置やブレーキ、照明などから発生する熱エネルギーが換気や地下水の冷却効果を超えて、温度が年ごとに蓄積される傾向がある。しかし車両の冷房は、その排熱がトンネル内の温度をさらに高めるので、車両冷房を主体とするか、車両は冷房しないで駅部やトンネル内の一部を冷房するかの選択が行われている。
(3)案内標識 路線ネットワークが増加して乗換えが多くなると、窓外の景色で識別できない地下鉄では、駅名などの標識の重要度も増す。
(4)ユニバーサル・デザイン 路線が交差して地表よりかなり深層階の駅が増えたため、エスカレーターの設置は一般的である。また、バリアフリーの観点から、エレベーターをはじめ触知案内版、音声表示、路面ブロック表示、スロープ、車椅子対応の改札・トイレ、ベビーシート設置のトイレ、2段手すりなどユニバーサル・デザイン(すべての人のためのデザイン)に基づく施設を備える駅が増えている。なお、2000年に交通バリアフリー法(正称は「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が制定されている。
[大塚和之]
地下鉄は施設、車両が地下にあるために、災害発生時の心理的な要因によるパニックはより大きくなりやすく、混乱や二次災害の可能性も高い。平常時から情報伝達、表示、誘導などのための設備・機材を整備し、万一に備えて準備と訓練が必要とされている。また地下鉄の駅は、災害時の防災活動拠点としての機能も期待される。災害の検知および対処にあたる防災設備の設置はもちろん、防災室さらに主要駅には防災センターを置いて食糧や医薬品などの備蓄を行う。
(1)火災 駅事務所やプラットホームの建築資材や備品は完全に不燃化され、火災報知装置、消火栓、各種排煙装置、乗降客の多い駅では構内看視用テレビも設備されている。照明や排水ポンプの電源も、配電線を2系統の切換え可能としており、さらに、非常電源用の蓄電池やディーゼル発電機も準備してある。
(2)浸水 豪雨などの対策として、地上の出入口の床面を道路面より高くする、出入口に浸水予防板を常備する、とくに水位の高くなりそうな出入口には防水遮断扉を設けておく、などの対策を講じている。トンネル内にも浸水が広範囲に及ばないように止水扉を設けてある線もある。通風口にも必要によりシャッターをつけ、遠隔操作により閉鎖・開放する構造としているものもある。
(3)暴風 地上部分については他の鉄道と同じく風速による列車運転規制を設けている。
(4)地震 地下鉄のトンネルは対震構造で、また地震の揺れも地上より少ないこともあり、安全度が高いといえる。1985年のメキシコシティの大地震でも地下鉄のトンネルには被害はなかった。しかし、列車運転の安全のため、沿線に地震計を配置し、運転指令所と技術区に指示値が表示され、それに基づいて運転規制など適切な処置をとる態勢が整備されている。
[大塚和之]
自動車が生活必需品にまで普及しているアメリカでも、地下鉄が都市内交通の基幹として運行され、いまもなお新しい路線が次々と計画されている。1986年刊の資料(Chris Jackson“Railway Gazette International”)によれば、当時世界中で1000キロメートルを超える地下鉄路線が建設中で、さらに1770キロメートルが計画段階にあった。2001年現在の時点でも世界中で1000キロメートルを超える新たな路線が計画・建設中である。一方、建設費が安価なLRT(Light Rail Transitの略、軽快電車、次世代路面電車ともいう)システムの進出も著しく、ヨーロッパでの計画は従来の地下鉄のような大型通勤電車システムとLRTの比率が2対1、アジア、オーストラリアでは3対1であることも報告されている。大量高速輸送が必要な大都市では将来も地下鉄を中心とする大型レール輸送機関が必要とされ、小都市ではLRTが選択されるであろう。また、環境問題などの観点からも、LRTを含めた新交通システムの占める割合が増加しつつあるのは世界的な傾向といえよう。
日本では主要都市の地下鉄網がほぼ完成に近づき、今後は中小都市にも経済的なミニ地下鉄の誕生が待望されている。とくに、雪国の冬季における市民の足を確保する役目としての地下鉄化は、札幌の地下鉄建設後の効果にみられるように高く評価されている。
今後、エレクトロニクス技術による自動化装置がいっそう多く採用され、またリニアモーターを用いた地下鉄も、東京、大阪で実現されている。地下鉄は21世紀にも、大都市交通の主役を担っていくものと思われる。
[大塚和之]
地下鉄は都心部で路面交通の混雑に妨げられることなく大量・高速の輸送ができ、騒音防止や都市美観など環境保全にも役だつため、他の路面電車や高架鉄道よりも建設費が高いにもかかわらず、世界各都市で積極的に建設されてきた。地下鉄事業の経営は地方公共団体の直営、公共企業体、特殊会社あるいは民間会社などによるが、日本では東京都(東京地下鉄と都営)、広島市(広島高速交通=公的資金を受けている第三セクター)、埼玉3市(埼玉高速鉄道=公的資金を受けている第三セクター)のほかはすべて市営である。
2001年(平成13)時点で、広島、埼玉3市を除く地下鉄事業を経営する9都市では、個々に事情は大きく異なるものの、全体として都市鉄道輸送人員のおよそ35%を地下鉄が占めている。膨大な設備の投資を必要とする地下鉄事業は、いずれも企業債発行や借入金で巨額の資金を自己調達して建設を急いできたため、経営収支では全事業とも採算がとれずに深刻な赤字経営が続いている。地下鉄建設は都市構造施設の改善の一環でもあるため、1962年(昭和37)から建設費補助制度が実施され、1978年以降は補助対象建設費の70%を国と地方公共団体とで10年間に分割補助するようになった。欧米諸国では建設費全額のほか、営業損失の一部まで公費負担とする例も少なくない。
[辻 和夫]
『朝日新聞東京本社社会部編『地下鉄物語』(1983・朝日新聞社)』▽『中川浩一著『地下鉄の文化史』(1984・筑摩書房)』▽『大坂健著『地方公営企業の独立採算制』(1992・昭和堂)』▽『平井都士夫・柴田悦子編著『現代の交通政策を問う』(1993・法律文化社)』▽『廣岡治哉編『都市と交通』(1998・成山堂書店)』▽『日本地下鉄協会編『世界の地下鉄』(2000・山海堂)』▽『国土交通省総合政策局監修『地域交通年報』『都市交通年報』各年版(運輸政策研究機構)』▽『総務省編『地方公営企業年鑑』各年版(地方財務協会)』▽『国土交通省鉄道局監修『数字でみる鉄道』各年版(運輸政策研究機構)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…単に地下鉄と略すことが多い。狭義には全線地下に建設された鉄道をいうが,一般には,人口稠密な地域において,主として通勤・通学などを目的とする旅客の大量迅速な輸送を使命とし,その大半の路線を地上に比較して地下に設けることが適当とされ建設された都市高速鉄道をいう。…
※「地下鉄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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