日本大百科全書(ニッポニカ) 「良弁杉」の意味・わかりやすい解説
良弁杉
ろうべんすぎ
高僧の幼時にまつわる伝説。東大寺建立に力のあった僧良弁が、幼いころ鷲(わし)に連れ去られ杉の木に置かれた話。『元亨釈書(げんこうしゃくしょ)』によれば、良弁は近江(おうみ)国(一説に相模(さがみ)国)の生まれという。2歳のとき、母が桑を摘むため木陰に置いたところ、突然舞い下りてきた大鷲につかみ去られ、春日(かすが)神社まで運ばれる。たまたま通りかかった義淵(ぎえん)僧正に救われ育てられる。修行を重ねた良弁は名僧となり、のちに、母の刻んだ観世音菩薩(ぼさつ)像の縁(えにし)によって母子は再会を果たし、良弁は孝行を尽くしたという。『東大寺要録』では根本僧正の話として伝えている。鷲が子をさらう話は古く『日本霊異記』『今昔物語集』などに収載されているが、ここでは親子の奇跡的な再会と縁の不思議が強調され、高僧の逸話としては語られていない。民間では「鷲の育て児」譚(たん)として各地に分布しており、東大寺二月堂の杉の由来を説くほかに、さまざまの変化型が認められる。明治にできた浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節に『二月堂良弁杉の由来』があり、今日でもよく上演される。
[野村純一]