植物が光周期に反応して花をつける場合,そのしくみは,葉が光周刺激を受け取り,葉である種の物質が合成され,これが頂芽へ運ばれ頂芽の未分化な細胞を花の原基へと変換させることによって花芽が形成される(花成)と考えられている。1937年,ソ連のチャイラヒヤンM.H.Chailakhyanは,この仮想の物質を花成ホルモンであると考えフロリゲンflorigenと名付けた。葉と芽の間の茎を熱で殺したり,環状剝皮すると光周誘導を行っても花芽は形成されないことから,花成ホルモンは師部を通って移動するものと考えられる。
オナモミは短日植物であるが,これに短日処理を施し花成誘導したもの(A)を長日条件におかれていたもの(B)に接木して引き続き長日条件においてもBは花をつけることから,花成ホルモンはAからBへ移動したと考えられる。また,オナモミとルドベキア(長日植物)という異種の植物を接木した場合,これを短日,長日どちらの条件においても両植物とも花をつけることから,花成ホルモンは植物の種類にかかわらず共通のものと考えられる。チャイラヒヤンの命名以来今日まで半世紀近くの間,このホルモンを単離,同定しようとする試みが数多くなされたが,まだ成功していない。ステロイド生合成の阻害剤を葉に与えると花成が阻害されることから,一時はステロイドの一種ではないかと考えられたが決着をみていない。もしかすると単一の物質ではなく,いく種類かの物質がある適切な比率で存在している状態なのかもしれない。チャイラヒヤン自身ものちに,フロリゲンはジベレリンとアンテシンanthesin(仮想的な物質)の二つの物質から成るという仮説を提出し,長日植物,短日植物はそれぞれの非誘導条件ではどちらか一方が欠けているため花がつかないと説明した。実際,ジベレリンが非誘導条件下の長日植物の花成を促進する例が数多く知られている。この仮説に従えば,長日植物と短日植物を接木しどちらの花成にも不適当な光周条件においた場合,両植物とも花がつくはずである。しかし,この実験は試みられたが成功していない。この魅惑的なホルモンに関しては現在なお多くの未解決の問題が残されている。
→花芽形成 →光周性
執筆者:辻 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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