改訂新版 世界大百科事典 「花芽形成」の意味・わかりやすい解説
花芽形成 (かがけいせい)
flower-bud formation
顕花植物の茎頂では,栄養生長の期間中は芽や葉が次々と生産されているが,日長の変化に応じて栄養生長から生殖生長,つまり芽の形成から花芽の形成への分化転換がおこる。日長が短くなると花芽形成がおこる短日植物(イネ,キク,オナモミ,アサガオなど),日長が長くならなければ花芽形成がおこらない長日植物(コムギ,オオムギ,ホウレンソウ,ダイコンなど),日長とは無関係に花芽形成をおこす中日植物(トマト,ソバ,キュウリ,インゲンマメなど)の三つのタイプがある。葉だけに適当な光照射を行うと花芽の分化がおこることから,光周期を感受する部位は葉であるといえる。ところが花芽の形成は芽でおこるので,葉で受けた刺激を芽に伝える物質の存在が推定され,葉でつくられて茎頂に運ばれる花成ホルモンが想定されるに至ったが,いまだに物質としては抽出されていない。
栄養生長から生殖生長に移行すると,茎頂分裂組織は著しく変化する。栄養生長期にはほとんど分裂しなかった中央帯の細胞は花芽形成に際して盛んに分裂するため,茎頂全体が活発に分裂する一様な細胞群でおおわれる。このことから,一部の人々は将来花になるべき細胞は最初から決まっていて栄養生長期には休止状態にあると考え,これを待機分裂組織とみなした。しかし,中央帯の細胞は栄養生長期間中でもある程度分裂しており,茎頂全体の細胞が花芽形成に関与しているようなので,上記の考えは影をひそめつつある。分裂組織の構造変化に伴って花弁,萼,おしべ,心皮などが分化して茎頂分裂組織は使い果たされ,生命は種子の形で次の世代へ受け継がれることになる。
→光周性
執筆者:前田 靖男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報