1日の昼の長さ、あるいは夜の長さの変化に対応して示す生物の反応性をいう。また、そのような反応を光周性反応という。植物の花芽形成、多くの昆虫、魚、鳥における生殖活動、休眠などで光周性がみられる。
[勝見允行]
1920年、アメリカの育種学者ガーナーW. W. GarnerとアラードH. A. Allardによって発見された。彼らは、マリーランド・マンモスMaryland Mammothとよばれるタバコの1品種と、ビロキシBiloxiというダイズの1品種が、季節の変化に対して変わった開花様式を示すことから、これらの植物の開花を調節している原因を研究していた。すなわち、マリーランド・マンモスタバコは夏の間は盛んに栄養成長を続けて開花せず、冬に入って温室に移すと初めて開花結実する。ビロキシダイズは、春から夏にかけて10日ごとに種子を播(ま)いて育てても、すべて同じ時期に開花する。ガーナーとアラードは、栄養や温度の条件を変えて調べてみても、これらは調節原因ではなく、最後に、日長(昼の時間)の短い条件下で育てると開花が誘導されることを発見した。そこで多くの植物種について調べてみると、日長が短くなると開花するものと、日長が長くなると開花するものとがあり、前者を短日植物、後者を長日植物と名づけた。日長に関係なく開花する植物は中性植物という。
[勝見允行]
花芽形成における光周性反応の感度は植物の種類によって異なるが、多くの場合、かなりの精度で反応する。実験的に調べると、短日植物と長日植物は、それぞれ花芽形成の可能な最短の連続暗期(または最長の明期)と最長の連続暗期(または最短の明期)をもっており、これを限界暗期(または限界日長)という。敏感な植物では、15~20分の差で花芽形成が誘導されたり、されなかったりする。たとえば、オナモミの限界暗期は8時間15分である。イネのアケボノ品種の限界暗期は約10時間で、この光周条件では出穂までに56日かかるが、30分延長して10時間半の暗期にすると、出穂までの日数は34日、1時間延長して11時間にすると30日に短縮される。暗期はこれ以上延ばしてもほとんど影響はない。
光周性反応において明期として認識される照度も、植物によって異なる。イネは鈍感で、朝夕の照度約200ルクス以下は暗期と同じである。オナモミは敏感で10~50ルクスの照度でも明期とみなす。
一定期間、適切な光周条件下に植物を置き、そのあと不適切な光周条件下に置いても光周性反応が得られる場合、光周(性)誘導がなされたという。たとえば、短日植物のオナモミやアサガオは1回の光周性処理で、あとは長日条件に置いても光周誘導がおこり、花芽形成がある。しかし、同じ短日植物のキクは、8~30回の短日処理が必要である。
植物の光周性は花芽形成のほかにもみられる。キクイモなどの塊茎の形成、落葉などは短日条件で誘導され、イチゴの匍匐(ほふく)根やタマネギの鱗茎(りんけい)の形成は長日条件で誘導される。茎や樹芽の成長は短日条件で抑えられる。植物の光周性は、農業や園芸でいろいろと利用されている。
[勝見允行]
動物も植物同様に、季節の移り変わりによる温度や湿度の変化などの環境の変化にさらされている。そこで、生存にもっとも都合のよい時期に発生、成長、繁殖を行うために、季節の移り変わりを知る手段として光周性を用いている。たとえば北半球の高緯度地方では、春になると一斉に渡り鳥が渡来し、やがて繁殖を始める。これは1日の明期が、ある長さ(限界日長)より長くなるためである。このため、実験室内で人工的に照明時間を長くして冬の間に繁殖を行わせることができる。このような性質は、植物と同じく昆虫の休眠などでも知られている。動物の場合も、限界日長より長くなると反応することを長日性、その逆を短日性という。光周性反応がおこるということは、生物が時間を測定していることを意味する。現在では、生物は計時機構を生まれつきもっており、これを時間測定に利用していると考えられている。たとえば鳥における生殖腺(せん)刺激ホルモン分泌や、昆虫の休眠といった長日性の光周性反応は短日下ではおこらないが、ある特定な時間帯に光パルスを与えて暗期を中断すると、光周性反応が誘導される。しかもこの特定の時間帯(光感受相)は、暗期を延長しても24時間ごとに出現する。すなわち光周性反応とは、生物時計によって駆動される光感受性のリズムの頂点位相に光が当たった結果おこるものと考えられている。この考えに当てはまらず、二つの振動体の位相の一致、あるいは砂時計型の計時機構によって光周性反応がおこる例も知られている。
[和田 勝]
1日の明暗サイクルを光周期と呼び,生物が光周期の季節的な変化に反応して物質代謝・発育・生殖・行動などを調節する性質を光周性という。生物界に広く見られ,環境の季節的な変化にたいする重要な適応機構である。
昼夜の長短は,直接に動物の活動を阻害したり生存をおびやかしたりしない。しかしその規則正しい年周期は,動物たちにとって好適な季節から不適な季節への移変りを示す情報,いわばカレンダーとして用いられるのである。このカレンダーの指示によって発育・生殖・休眠・移動・換羽・毛変りなど,まもなくやってくる季節への準備をし,環境の変化に生活の営みを調和させていくのである。発情・生殖の周期が日長に左右されることは,ヒツジ,ハムスター,イタチ,ウズラ,スズメ,トカゲ類,メダカなど,哺乳類から魚類におよぶいろんな脊椎動物で知られている。昆虫,ハダニ類では,光周期に応じてどの時期に休眠するかがきめられる。夏に活動して冬に休眠する多くの種は日長が短いと休眠し,長いと発育を続けるので長日型と呼ぶ。夏に休眠する種には,しばしばこれとは逆の短日型の反応がある。ナミアゲハ(さなぎ),キタテハ(成虫),ベニシジミ(幼虫)などの休眠は長日型,ユウマダラエダシャク(さなぎ)やマツノキハバチ(前蛹(ぜんよう))の休眠は短日型の例。カイコ(卵)も短日型だが,これは夏の休眠ではなく,親世代の卵が光周期の影響を受けてから1世代後の卵が休眠するためである。光周期によって休眠からめざめる時期を調節する種もある。チョウの季節型,ウンカやコオロギの羽の多型現象なども光周期の支配を受ける。どのような光周反応でも,光周情報→測時機能→神経分泌機構→反応の表現,という経路があるはずで,それには1日の明暗の時間を測る時計機構の存在が前提となるはずである。そこで現在,生物時計との関連が追求されているが,脊椎動物でも昆虫でも,光周期を測る生物時計の実体はまだ完全には解明されていない。
執筆者:正木 進三
光周性に依存する植物の現象としては花芽形成,茎の伸長,休眠,落葉などが知られているが,とりわけ花芽形成についてよく研究されている。植物には日長が短くなると花芽形成をし,花成に至る短日植物,日長が長くなると花成する長日植物,日長とは無関係に花成する中性植物などがある。短日植物のオナモミでは8.5時間以上の連続した暗期が与えられたときに花成が誘導されるので,暗期中に花成促進物質ができると考えられている。葉をしゃ光したり除去すると短日処理は無効になることから,光受容器は葉であることがわかる。ヒヨスなどの長日植物では,連続した長い暗期さえ与えられなければ,明期が短くても花成はおこる。このように明期の長さにかかわらず暗期が一定時間(限界暗期)以上継続する場合にのみ,短日植物は花成し,長日植物は花成できない。このことから,暗期における生体内での反応が光周性にとって重要であるといえる。暗期中に短時間でも光照射があると暗期の効果が失われることは広く知られており,この現象は光中断light-breakと呼ばれる。光中断現象を説明するために,ビュニングE.Bünning(1936)は生体内に24時間周期のリズムが内在すると想定し,それは一定の位相をもって振動するとした。このリズムは親明相および親暗相という二つの相からなり,前者の時期に与えられた光は花成を促進し,後者に与えられた光は抑制すると考えられている。内在リズムの実体はまだわかっていないが,実際に存在することはダイズの例などで知られている。ダイズに8時間の明期と種々の長さの暗期を与えると,明暗周期が24時間の倍数であるときには花成されるが,36,60時間周期では花成はみられない。8時間の明期に続く64時間の暗期中のいろいろな時期に光中断を入れると,その効果は時期により異なり,親暗相に光照射された場合には花成が阻害される。この際,内在リズムの位相そのものも光中断によって変化すると考えられる。光中断に有効な光は赤色光であり,この効果は近赤外光の照射によって打ち消されることから,光中断に関与する物質はフィトクロムであると推定されている。フィトクロムは赤色光あるいは近赤外光の照射によって,
の可逆的変化を示すことがわかっているからである。暗所ではPfrからPrへの転換(暗反転)がおこるので,一定時間以上の暗期が継続した場合にPfrが限界濃度以下になって短日植物の花成を誘導すると解釈できる。しかし,Pfrの減少速度は温度に依存するのに対して光周性の限界暗期は温度に影響されないので,Pfrの減少のみで花成を説明することは困難である。また,光中断効果は近赤外光によって消去されない場合も多く,フィトクロム以外の色素も光周性反応に関与している可能性が強い。光周性は環境変化への適応形質の一つとして生物学的に重要であると同時に,この性質は農業・園芸上において花成の促進・抑制に広く利用されている。
執筆者:前田 靖男
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…1日の明暗サイクルを光周期と呼び,生物が光周期の季節的な変化に反応して物質代謝・発育・生殖・行動などを調節する性質を光周性という。生物界に広く見られ,環境の季節的な変化にたいする重要な適応機構である。…
※「光周性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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