改訂新版 世界大百科事典 「藁しべ長者」の意味・わかりやすい解説
藁しべ長者 (わらしべちょうじゃ)
昔話。ある男が1本のわらしべを手にして旅をするうちに,次々と品物を交換し,ついに長者になると語る本格昔話。幸福な結婚を語る話型と長者譚の2種類に大別される。結婚を語る場合は,霊験譚を内容にとり入れた妻まぎの説話として流布する。これは《今昔物語集》《宇治拾遺物語》《雑談(ぞうだん)集》にも収められて,仏教色の濃い話になっている。同様のものは,御伽草子の〈大悦物語〉にあって文芸的手法のもとに定着している。この昔話は,1本のわらしべを順次大根,みそ,刀,馬などに換えていくところに興味の中心を置いている。源流をインド古代説話に求める説もある。しかしわらのもつ信仰や神秘性に基づいて成立した昔話で,それはきわめて日本的である。わらはもともと歳神の招代(おぎしろ)として用いられ,現に,年中行事などには呪物として機能している。ヨーロッパでは“有利な交易”が語られるが関連性は認め難い。朝鮮には日本と同話型が存在する。
執筆者:野村 敬子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報