日本大百科全書(ニッポニカ) 「本格昔話」の意味・わかりやすい解説
本格昔話
ほんかくむかしばなし
昔話分類上の用語。昔話のなかでももっとも本格的な内容をもつ昔話という意味である。具体的には、動物を主人公とした話や笑話を除いたもので、人間の言動を中心に基本的にはその一生を語る内容のものをいう。1910年にフィンランドの昔話研究者アールネが名づけた。アールネは昔話を、動物昔話、笑話、本格昔話の三つに分類、整理した。本格昔話の内容をさらに、奇跡譚(たん)、宗教譚、現実譚、愚かな化物譚の四つに分けて示した。わが国の昔話の分類は、柳田国男(やなぎたくにお)が『日本昔話名彙(めいい)』に示した。柳田は昔話の変化に重点を置いて、完形昔話、派生昔話とに二分した。先のアールネの本格昔話は、柳田の分類の完形昔話に相当する。しかしその分類の発想と意義は違っている。柳田は、本来が英雄の出現、行動を物語る完形昔話から、単一形式でそれが目的的に派生して語られるようになったのが派生昔話であると説いた。それに対して関敬吾(せきけいご)はのちに『日本昔話集成』で、アールネの分類案と同様に動物昔話、本格昔話、笑話に分けた。そのうち本格昔話をさらに、〔1〕「婚姻・美女と野獣」(たとえば蛇聟入(むこいり)など)、〔2〕「婚姻・異類女房」(狐(きつね)女房など)、〔3〕「婚姻・難題聟」(絵姿女房など)、〔4〕「誕生」(一寸法師など)、〔5〕「致富」(炭焼長者など)、〔6〕「呪宝(じゅほう)」(聴耳など)、〔7〕「兄弟」(奈良梨(なし)取りなど)、〔8〕「隣の爺(じい)」(鼠(ねずみ)浄土など)、〔9〕「大歳(おおとし)の客」(大歳の客など)、〔10〕「継子(ままこ)」(米福糠福(こめふくぬかふく))、〔11〕「異郷」(竜宮童子など)、〔12〕「動物報恩」(猫檀家(だんか)など)、〔13〕「逃竄(とうざん)」(食わず女房など)、〔14〕「愚かな動物」(鍛冶屋(かじや)の婆(ばば)など)、〔15〕「人と狐」(山伏狐など)の15項目に分類した。ここには、結婚から始まり、誕生、富の獲得、そして動物との交渉という人間の全生活が収められている。そして関は本格昔話の内容を「婚姻を目的とした彼岸(ひがん)の世界への旅行である」と説いた。なお本格昔話は、叙述において善と悪、美と醜、長者と貧乏人などの二元的対立や、発端、展開、結末の三段階の構成をとるごとき一定の法則を伴うものである。
[野村純一]