何らかの原因で免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患。20~40代の女性に多い。症状は関節痛や全身
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全身性エリテマトーデス(SLE)は、細胞の核成分に対する抗体を中心とした自己抗体(自分の体の成分と反応する抗体)が作られてしまうために、全身の諸臓器が侵されてしまう病気です。よくなったり悪くなったりを繰り返し、慢性に経過します。1万人に1人くらいが発病し、とくに20~30代の女性に多く、男女比は1対10です。
多くの臓器が侵されるため臨床所見も多彩で、関節症状、皮疹(
SLEは、抗体を作るはたらきをしているBリンパ球が異常に活性化し、それに伴い産生された自己抗体によって、特有の臓器病変が生じると考えられています。
SLEの原因はまだよくわかっていませんが、動物モデルにみられるように、複数の遺伝的要因が関与することは確実だと思われます。これは、ヒトでも一卵性双生児でのSLE発症の一致率が約70%と高いことからも裏づけられます。
こうした遺伝的素因に、何らかの外因(感染症や紫外線など)が加わって発症するものと考えられています。また、女性に圧倒的に多いことから女性ホルモンが関与している可能性も示唆されています。
全身の症状として、発熱、全身倦怠感、
●皮膚・粘膜の症状
蝶型紅斑(頬にできる赤い発疹で、蝶が羽を広げた形に似ている)が特徴的です。また、顔面、耳、首のまわりなどにできる円形の紅斑で、中心の色素が抜けてコインのようになるディスコイド疹もみられます。SLEでは日光過敏を認めることが多く、強い紫外線を受けたあとに、皮膚に発疹、水ぶくれができ、発熱を伴うこともあります。また、手のひら、手指、足の裏などにできるしもやけのような発疹も特有な症状です。その他、大量の脱毛や、口腔内や
●関節の症状
とくに、関節炎で発病する場合には、手指にはれや痛みがあるために関節リウマチと間違えられることもありますが、SLEでは関節リウマチと異なって骨の破壊を伴うことはほとんどありません。
●臓器の症状
腎症状としては、急性期に蛋白尿がみられ、尿
心臓や肺では、
腹痛や吐き気がみられる場合には、腸間膜の血管炎やループス
●中枢神経の症状
中枢神経症状(CNSループス)もループス腎炎と並んで、SLEの重篤な症状です。多彩な精神神経症状がみられますが、なかでも、うつ状態・
●その他
貧血、白血球減少、リンパ球減少、血小板減少などの血液の異常もよくみられます。また、抗リン脂質抗体という抗体がある場合は、習慣性流早産、血栓症、血小板減少に基づく出血症状などの症状を伴い、抗リン脂質抗体症候群と呼ばれています。
一般的な検査としては、
SLEそのものの診断は、1982年のアメリカリウマチ協会の「改訂基準」(1997年に改変)に照らして行われます。
SLEの活動性の指標としては、抗DNA抗体と補体が最も鋭敏で、活動性が高いと抗DNA抗体は上昇し、補体は低下します。一般的な炎症のマーカーである血清のC反応性蛋白は、SLEではあまり上昇しません。
治療の中心は、免疫のはたらきを抑えることと、炎症を止めることで、そのための第一選択薬は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)です。効果不十分の場合は、ステロイドのパルス療法や免疫抑制薬の併用が行われます。
こうした治療により、現在SLE全体としての5年生存率は90%を超えています。死因で多いのは、中枢神経障害、腎不全、感染症です。
治療に際しては、一人ひとりの重症度、疾患活動性を十分に吟味したうえで、薬の種類や量を決定します。一般的にステロイドは、重症の場合はプレドニゾロンを1日60㎎、中等症~軽症の場合は1日20~40㎎から開始します。
ステロイドによって症状が軽快し、検査データも改善したら減量を開始しますが、急激な減量は再燃を招く危険があるため、慎重にゆっくりと行います。目安としては、2~4週間ごとに投与量の10%を超えない範囲で減量します。最終的には、プレドニゾロン1日5~10㎎を長期間にわたって使用し続ける必要があります。
初回投与量で効果不十分の場合、または減量中に再燃した場合はステロイドを増量します。これでも不十分な場合は、ステロイドのパルス療法や免疫抑制薬(シクロホスファミド1日50~100㎎、アザチオプリン1日50~100㎎)を併用します。とくに、WHO分類のⅣ型のループス腎炎に対しては、シクロホスファミドの点滴静注(シクロホスファミドパルス療法)が長期予後の面からも有用性が高いことが証明されていますが、副作用として無月経(生殖器障害)があるので、慎重に適応を考える必要があります。
ステロイドの副作用には、満月様
日光
また、感染症を起こした場合でも、決してステロイドを中止してはいけません。これは、長期間にわたるステロイドの内服のために副腎皮質のストレス反応が十分に起きにくくなっているため、中止すると副腎不全を起こしてショック状態になる危険があるからです。
プレドニゾロンを1日20㎎以下でSLEの疾患活動性がコントロールされていれば、妊娠・出産が可能です。しかし、分娩後に増悪することが多いので、分娩時よりステロイドを一時的に増量します。手術が必要な場合も、分娩と同様にステロイドを一時的に増量します。
病気の悪化を招いたり、ショックになることがあるので、ステロイドは決して勝手に減らしたりやめたりしてはいけません。
緊急の災害時にはステロイドを一緒にもって避難できるように、普段から少し余分に持っておいたほうがいいでしょう。
廣畑 俊成
自分自身の体の組織に障害を与える抗体(自己抗体)ができ、さまざまな臓器で炎症を引き起こす病気です。よくなったり(
根本的な原因は不明ですが、次のようなことが発病に関係すると考えられています。
①遺伝因子
白血球の血液型(HLA)には、この病気になりやすい型があることがわかってきています。
また、若い女性に発症しやすく、双子で同じように発症することがあります。
②環境因子
外からのさまざまな要因が、不適切な免疫反応を引き起こすと考えられています。発症や増悪のきっかけになるものとして、①ウイルス感染、②紫外線、③薬剤(抗けいれん薬、抗甲状腺薬、避妊薬など)、④妊娠や出産、⑤ストレスが知られています。
自己抗体は全身のさまざまな臓器を攻撃するため、症状は多様です。
①全身症状:発熱、だるい、疲れやすい
②皮膚:日光過敏、両方の頬に赤あざのような斑点が出る(
③関節:関節炎によるはれ、痛み
④腎:慢性腎炎によるむくみ、高血圧
⑤神経:抑うつ、けいれん、頭痛、無意識に勝手に手足が動く(不随意(ふずいい)運動)
⑦肺:胸膜炎による呼吸困難、胸痛
⑧消化器:腸炎、肝炎、腹膜炎による腹痛、嘔吐、下痢。口内炎ができやすい
⑨眼症状:視力低下、眼球乾燥
⑩血液異常、免疫異常:病原体に感染しやすく、重症化しやすい
①抗体検査:さまざまな自己抗体、とくに抗核抗体、抗DNA抗体が高率で検出されます。
②血液一般検査:貧血、白血球減少、血小板減少を来します。
③血液生化学検査:肝臓、腎臓の障害などで異常値が認められます。炎症反応は陽性になることが多いです。
④尿検査:腎炎を合併すると血尿や蛋白尿がみられます。
そのほか、⑤心臓の検査(心電図、超音波検査)、⑥神経系の検査(脳波、CT、MRI)、⑦腎臓の検査(腎機能検査、腎生検)など、症状に合わせて精密検査が必要になります。
*小児では約8割に腎障害が起こります。また、腎障害の程度で治療が決まることが多く、腎臓の組織を調べる腎生検が必要です。
治療の目的は急性期の炎症をすみやかに鎮静化させ、臓器の機能を長期にわたり維持することです。治療の基本はステロイド薬です。
①非ステロイド性消炎鎮痛薬:発熱、関節炎などの軽減に用いられます。非常に軽症の例では、この薬のみで治療することもあります。
②ステロイド療法:経口のステロイド薬を最初は多めに使い、症状をみながら減量して、その後一定量を維持していきます。重症の場合にはステロイドパルス療法という、大量のステロイド薬を点滴する方法を行うこともあります。
*ステロイド薬はこの病気の治療に不可欠です。ステロイド薬は副作用を伴いますが、自己判断で中止しないでください。ステロイド薬の副作用としては免疫低下、高血圧、糖尿病、胃潰瘍、大腿骨の
③免疫抑制薬:ステロイド薬の副作用が強かったり、ステロイド薬だけでは治療の効果があがらない場合に併用することがあります。内服、点滴などの方法がとられます。
④
微熱が続く、疲れやすい、関節が痛い、顔が赤くなるなどの症状が続く場合、早めに小児科を受診することが必要です。治療や管理は長期にわたるので、医師の指導のもと、日常生活の過度の制限を避け、なるべく普通の生活を送るよう心がけてください。
感染、紫外線、精神的・肉体的ストレスは再発の原因になります。バランスのとれた食事と適度な運動を励行し、感染予防、日焼け止めに留意します。
いわゆる難病のひとつですが、現在では治療の進歩で5年以上生存できる人が95%以上と非常に改善されています。
樋浦 誠
ループスエリテマトーデス(LE)とは、頬などの露出部に特徴的な赤い斑点(
LEの語源はループス=狼に咬まれた傷(
SLEの発症には遺伝因子と環境因子が関係します。遺伝因子が発症に関係することは一卵性双生児での高い発症頻度(24~69%)、家族内発症が多いこと(一般集団の約10倍)などが根拠ですが、発症に関わる遺伝子は特定されていません。一卵性双生児でももう一人が発症しない不一致率が31~76%であることは、後天的な環境因子の関わりが遺伝因子より大きいことを示しています。
病気の成り立ちには自己免疫という免疫異常が深く関わっています。自己免疫に関わる要因として、ウイルス感染、性ホルモン、環境因子などが想定されていますが、真の原因は不明です。
発熱、関節痛と皮膚症状で発症することが多い病気です。またSLEの特徴のひとつに日光過敏症があります。最も有名な皮膚症状は、日光に当たったあと、鼻を中心に蝶が羽を広げたように両頬に広がる
このほか四肢先端の血のめぐりが悪くなった末梢循環障害が関係する皮膚症状が多くみられます。レイノー症状は寒冷やストレスにより指の動脈がれん縮して指が真っ白になる症状です。手足が赤紫にはれるアクロチアノーゼ、しもやけ様の
多くの症状がある病気なので診断基準(表3)を参考にして判断します。
診断に重要な検査項目は、抗核抗体、抗DNA抗体、抗Sm抗体、血中免疫複合体の検出、
ステロイド薬の内服がスタンダードな治療法です。効果が不十分な場合には免疫抑制薬を併用します。ステロイド薬を中心とした治療の進歩により、SLEの予後は劇的に改善しました。今では90%以上の人が、通院だけで普通の暮らしができるようになりました。
日常生活で大切なことは直射日光を避けることです。光線過敏性がはっきりしない人でも、紫外線のUVA/UVB両領域をブロックするサンスクリーン(SPF30、PA+++以上)をしっかり用いてください。
すみやかに専門医のいる病院にかかってください。関節症状や全身のむくみや
日光に加えて、寒冷、感染症、手術、外傷、薬剤、妊娠、分娩、ストレス、過労などがSLEの発症の引き金や増悪因子となるので注意してください。
衛藤 光
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
エリテマトーデスは紅斑性狼瘡(こうはんせいろうそう)ともよばれ、いろいろな臓器が冒される全身性エリテマトーデス(略称SLE)と、おもに皮膚に病変がみられる円板状エリテマトーデス(DLE)に分けられ、両者間にはさまざまな移行型がある。SLEは特定疾患(難病)に指定されている。
SLEは女性に多い(男性の約10倍)病気であり、とくに妊娠可能な若い年齢に目だつ。原因は不明であるが、免疫異常によることは確かで、感染症、紫外線(日光)、心身のストレス、妊娠・出産、ある種の薬剤(ヒドララジンなどの降圧剤やプロカインアミドなどの抗不整脈剤など)が誘因となる。患者の家族には、このほかの膠原(こうげん)病や自己免疫疾患にかかっている人があり、体質の遺伝も考えられている。
症状は多種多様で、初発症状としては関節や筋肉の痛みがもっとも多く、発熱を伴い、顔面の蝶(ちょう)形紅斑などの皮膚症状やタンパク尿などの腎(じん)症状もみられる。このほか、胸膜炎や肺炎などの呼吸器症状、心膜炎や心筋炎などの心症状、てんかん様のけいれん発作や多発神経炎などの神経障害などもみられる。
診断上もっとも重要なことは抗核抗体の証明である。これは自己免疫疾患にみられる血中自己抗体の一種で、細胞核の成分に対する抗体をいい、蛍光抗体法による検査でほとんど100%陽性を示す。この抗体は強皮症やリウマチ様関節炎などでも陽性を示すので、診断は臨床症状とともに総合的な判断を行う必要がある。
治療には副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や免疫抑制剤などが使われる。また、誘因を避けることも必要である。寛解と増悪を繰り返し、慢性に経過するものが多く、以前ほど予後は悪くないが、強い腎障害、神経障害、心筋障害がある場合はとくに注意を要する。
[高橋昭三]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…症状として特徴的紅斑が皮膚表面に出るために,エリテマトーデス(紅斑症,紅斑性狼瘡(ろうそう))といわれている。全身的に多臓器の病変を示す全身性エリテマトーデスsystemic lupus erythematodes(SLEと略される)と,病変が皮膚に限られる円板状エリテマトーデスdiscoid lupus erythematodes(DLEと略される)との二つが区別されている。DLEからSLEに移行することも多く,両者は本質的に同じ疾患と考えられる。…
…1941年にクレンペラーP.Klempererが提唱した疾患。病理学的に結合組織にフィブリノイドfibrinoid変性がみられる疾患という定義がなされ,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,皮膚筋炎または多発筋炎,強皮症(全身性進行性硬化症),結節性動脈周囲炎,リウマチ熱の6疾患が代表的な膠原病とされた。その後,病理学的にもフィブリノイド変性という概念がきわめてあいまいなものであり,膠原繊維にのみ変化がおこるものではないところから,結合織疾患connective tissue diseaseとよぶほうが正しいとされ,国際的にはそのようによばれることが多い。…
※「全身性エリテマトーデス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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