接辞のうち、語基の前に添加されるもの。通常「接頭語」とよばれるが、これは独立の語ではないので、厳密には「接頭辞」とよぶほうがよい。このように定義しても、「うち明ける」「さし出す」の下線部のように、接頭語と認めるべきか否か、判然としない場合がおこりうる。日本語では、種類、量ともあまり多くはなく、接頭語の造語力は乏しいということができる。日本語、英語を通して、接頭語は一般に意味を添えるだけで、文法上の性質を変えることは少ないが、英語の enlarge, encourage, discourageの下線部は、品詞を変えている例である。日本語では、和語系の接頭語は、奈良時代や平安時代には造語力が高かったが、現代では、「お―」「おお―」などを除けば、生産力が強いとはいえない。それに比べて、漢語系のものは種類が多い。国立国語研究所の調査では、接頭語的に用いられた一字漢語は250種類もあるという。とくに、否定を表す「無―」「不―」「非―」「未―」などは、造語力が高い点で注目される。最近では、「アンチ―」「ウルトラ―」「スーパー―」「ノー―」「ノン―」などの外来系の接頭語も無視することはできない。英語では、ゲルマン系(たとえば、awake, forget)、ラテン系(ultra-violet, prologue)、ギリシア系(autobiography, syntax)を含めて、学者により若干の異なりがあるが、約70種類の接頭語があるとされている。このうち、今日でも高い造語力を備えているものは約25種類である。
[杉浦茂夫]
単語の構成要素の一つ。それ自身は単独に用いられず,つねに他の単語の前に結合してこれをいろいろに限定する。接頭語をつけると,もとの単語は独立性を失い,連声(れんじよう)が行われることもあり,アクセントが変わることが多い。結合してできた語形,派生語は,まったく1個の単語として働き,その品詞性はもとの単語に従う。接頭語には,カ細(ぼそ)い,ヒ弱い(カタカナで示される部分が接頭語。以下同様)などのように今日では限られた結合しかない,したがって意味の明確に取り出しにくいものから,マッさお,スッぱだか,コざっぱりなど比較的結合の自由なものまであり,さらにミ仏,オ車,ゴ成功などの敬語の1類はよほど自由な結合をして,ふつうに連濁を起こさない。テ痛い,トリ調べ,サシ上げる,ヒッかく,カッ払うなどは本来は自立する単語であることが明らかであるが,固有の具体的意味が薄れて単なる強調を示すものとなっている点で接頭語的である。また漢語起原のものとして敬語のゴ以外にも,不,無,未,亜,次,過などがある。しかし第,非,本,毎の類は形式的な意味限定ながらアクセントの点で独立性があり,翌,約,故などとともに連体詞とみられる。その他,新,低,広,軽など多くの漢語要素は接頭語的にしきりに用いられるが,限定のしかたが内容的で,和語のほのぼの,ういういしいなどと同様,単語の中心要素として扱うべきかと思われる。接頭語の範囲はこのように問題があるが,語形としては単音節的であることが一般に特徴といえよう。
執筆者:林 大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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