家庭医学館 「術後性上顎嚢胞」の解説
じゅつごせいじょうがくのうほう【術後性上顎嚢胞 Post-operative Maxillary Cyst】
口の中を切開(せっかい)し、上顎洞(じょうがくどう)の粘膜(ねんまく)をすべて除去する上顎洞根治手術(じょうがくどうこんちしゅじゅつ)(経上顎洞的副鼻腔手術(けいじょうがくどうてきふくびくうしゅじゅつ)(コラム「経上顎洞的副鼻腔手術の後遺症」)など)後、上顎洞内に袋状の嚢胞(のうほう)が発生する病気です。嚢胞に細菌などが感染し、膿(うみ)がたまるために頬(ほお)の腫(は)れや痛みなどが現われます。
術後性嚢胞は、手術の後、早ければ数年、ふつうは術後10~20年してから症状が出現するのが特徴です。なかには40年近く経過した後に、初めて症状の出るケースもあります。
袋が1つの単胞性(たんほうせい)の場合も、2つ以上の多胞性(たほうせい)の場合もあります。
[症状]
頬部(きょうぶ)の不快感、痛み、歯痛(しつう)が持続し、頬部腫脹(きょうぶしゅちょう)をきたすようになり、再発をくり返すごとに症状がひどくなります。ときに炎症が加わると、頬の痛みが激しくなります。
上顎洞の上方にできた嚢胞が大きくなると、眼底を破壊し、眼球を圧迫するため眼球突出(がんきゅうとっしゅつ)、複視(ふくし)が、下方にできた嚢胞が大きくなると口蓋(こうがい)の腫れがおこります。
多くの場合は、鼻閉(びへい)(鼻づまり)、鼻汁過多(びじゅうかた)などのいわゆる副鼻腔炎(ふくびくうえん)の症状は少なく、鼻内所見も軽いものです。
[原因]
手術のきずの肉芽(にくげ)が不規則に増殖(ぞうしょく)し、部分的に遺残粘膜(いざんねんまく)が肉芽の中に取り込まれ、閉鎖腔(へいさくう)を形成すると嚢胞が発生するとも考えられています。また、手術のきずが治っていく過程で鼻腔(びくう)との交通が遮断(しゃだん)されると、上顎洞内に閉鎖(へいさ)空間が形成され、その中に分泌物(ぶんぴつぶつ)がたまって嚢胞ができるとされています。
[検査と診断]
上顎洞手術の既往(きおう)のあることや症状などから診断は容易ですが、X線検査を行なって確定診断します。CTによって上顎洞に一致した部位に嚢胞が映ります。
[治療]
頬の腫れが少なく、痛みも軽く違和感程度ならば、抗生物質の内服で軽快します。腫れのあるときは嚢胞内の膿(うみ)を抜く必要があります。手術法は、大別すると2つあります。
1つは、口の中(上くちびるの裏)を切開(せっかい)してアプローチする経上顎洞的(けいじょうがくどうてき)な嚢胞の摘出(てきしゅつ)や開放(かいほう)です。
もう1つは、鼻の孔(あな)のほうから嚢胞の壁を取り除き、嚢胞を開放して、膿がたまらないようにする方法です。内視鏡(ないしきょう)を鼻の孔から入れ、下鼻道側壁(かびどうそくへき)に大きく穴をあける方法で、術後に頬の腫れや歯牙(しが)の損傷(そんしょう)をおこすことがなく、眼窩下神経(がんかかしんけい)を損傷しないために、しびれ感や神経痛(しんけいつう)などもおこさないなど、利点の多い、優れた方法です。
この手術は、ふつう単房性の嚢胞に適しますが、嚢胞の位置や大きさによって二房性や多房性でも可能なことがあります。80~90%の嚢胞は、鼻内的な手術が可能と考えられます。