証明(数学)(読み)しょうめい(英語表記)proof

翻訳|proof

日本大百科全書(ニッポニカ) 「証明(数学)」の意味・わかりやすい解説

証明(数学)
しょうめい
proof

ある命題に対し、その正当性を示すものを、その命題の証明という。数学理論における命題の証明とは、その理論の公理系からその命題に至る推論の列のことである。ある命題Pに対し、Pの証明が存在するとき、Pはその理論における「定理」とよばれる。命題Pの証明は、普通、すでに証明されている命題QからPに至る推論の列、という形をとる。QからPに至る推論の列が存在すれば、Qに対しては証明、すなわち、いくつかの公理からQに至る推論の列がすでに存在しているから、これとあわせれば、公理系からPに至る推論の列が得られるわけである。

 数学において、ある命題が「正しい」とは、その理論のなかでその命題が成立すること、すなわち、その命題の証明が存在することである。数学の証明における推論は演繹(えんえき)的推論、つまり、普遍的命題から特殊な命題を導く推論であって、つねに成立する推論のみが許される。したがって、数学で「正しい」とされる命題は、つねに成立する命題のみである。

 これに対して、自然科学などで用いられる推論には、帰納的推論、つまり、いくつかの特殊な命題から普遍的命題を導く推論が多い。したがって、「太陽は東から昇る」などの命題は、ほとんどおこりえないような確率では、成立しないかもしれないが、一般には「正しい」とされるのである。

 数学では、つねに成立する命題が「正しい」とされるのであるから、数学で「正しくない」とは、成立しない場合がありうる、という意味である。したがって、「正しくない」ことを証明するには、その命題が成立しない場合を指摘すれば十分である。この成立しない場合の例を反例とよぶ。たとえば、「nを2以上の自然数とするとき、2n-1の形の自然数は素数である」という命題は正しくないが、それを示すためには、「n=4のとき、2n-1は15であって素数でない」という反例があれば十分なのである。「正しい」とは証明が存在することであったから、「正しくない」とは証明が存在しないことを意味する。反例があれば証明は存在しない。証明が存在するとすれば、それは、反例の存在によって、矛盾するからである。

[廣瀬 健]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android