改訂新版 世界大百科事典 「謎帯一寸徳兵衛」の意味・わかりやすい解説
謎帯一寸徳兵衛 (なぞのおびちょっととくべえ)
歌舞伎狂言。3幕6場。1811年(文化8)7月《玉藻前尾花錦繡(たまものまえおばなのにしきえ)》の二番目世話狂言として江戸市村座で初演。4世鶴屋南北と福森久助の合作。大島団七を5世松本幸四郎,一寸(いつすん)徳兵衛を3世坂東三津五郎,お辰・お梶を5世岩井半四郎ほか。当時実際にあった入谷田圃での女殺しと,飯田橋近辺での蚊帳にからまる猟奇事件とに取材したもの。代表的な義太夫狂言の一つ《夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)》の筋になぞらえて脚色がなされている。浪人の悪者大島団七は,射術の師玉島兵太夫を殺し,犯人を知らぬ兵太夫の娘お梶をだまし敵討の助太刀を餌に夫婦となるが,病の末に顔に傷までうけたお梶を入谷田圃で返り討にする。その上,お梶の姉お辰に横恋慕し,ついにはお辰の夫一寸徳兵衛に討たれるという筋。初演は不評に終わったが,主として南北が担当した前半の骨組みが《東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)》に流用された。埋もれていた台本を1921年に坪内逍遥と渥美清太郎が《歌舞伎脚本傑作集》で紹介するや,その緻密な構成と的確な風俗描写が注目され,翌年明治座で2世市川左団次が復活上演をした。
執筆者:古井戸 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報