日本大百科全書(ニッポニカ) 「財政資金対民間収支」の意味・わかりやすい解説
財政資金対民間収支
ざいせいしきんたいみんかんしゅうし
国庫と一般国民との現金の受払いおよびその収支尻(じり)のこと。国の収入・支払いを取り扱う国庫は日本銀行に置かれており、日本銀行に預けてある国の手元資金が国庫金である。この国庫金の収支のうち日本銀行券の変動につながらないものを取り除いたのが、財政資金対民間収支である。国からみてこれが支払い超過になったときを散超(さんちょう)、受取り超過になったときを揚げ超(あげちょう)といい、前者は民間経済における日本銀行券の増大、後者は収縮をもたらす。
財政資金対民間収支は、このように通貨の増減に密接な関係をもっており、したがって金融情勢や景気の動向にも影響を与える。たとえばその散超は、市中銀行の日本銀行に対する預金を増やすから、市中銀行はそれを源泉として民間に対する貸付を増大させることができ、信用創造を通じて貨幣量(マネーサプライ)が増大し、金融市場が緩和される。逆に揚げ超は金融の引締めに通ずる。
財政資金対民間収支の散超・揚げ超は、三つの要因によって変動する。第一は季節変動であり、年度の第Ⅰ四半期は散超、第Ⅱ四半期は揚げ超、第Ⅲ四半期は大幅な散超(食糧管理特別会計による米の買上げ期)、第Ⅳ四半期は大幅な揚げ超(申告納税期)となる傾向が強い。第二は循環的要因による変動であり、好況期には税収増大による揚げ超、不況期には税収不振、資金の取崩しによる散超となりやすい。第三は財政政策的要因によるものであり、財政が積極的な財政政策を展開しようとするときには意図的な散超が現れ、逆に財政政策を緊縮しようとするときには揚げ超が現れる。
なお、統計上の財政資金対民間収支には、窓口収支と実質収支とがある。前者は財政の各会計と民間との直接の受払いを示したものであり、後者はそれに各会計間の振替収支を加えたものである。
[一杉哲也]