財政権の主体としての国家をさす名称として用いられる場合と、国に属する現金や有価証券などを経理する国庫(金)制度をさす場合とがあるが、現在では、後者の意味に用いられることが多い。
国庫(金)制度は、経済社会や行財政制度などの歴史的経過に応じて国ごとに異なっているが、大きく金庫制度と預金制度とに分けることができる。金庫制度は、国庫金を他の資金とはまったく切り離して管理するもので、国が直接出納業務を行う国庫金庫制度と、これを中央銀行またはその他の金融機関に委託する委託金庫制度とがある。これに対して預金制度は、国庫金は預金として銀行に預けられ、他の一般資金とともに経理され、国は返還請求権のみをもつものである。これは、中央銀行預託に限るものと、市中銀行預託を併用するものとに分けられる。金庫制度に比して預金制度のもとでは、巨額に上る国家資金と民間資金との調整が容易となり、通貨政策も実施しやすくなるので、現代国家では、金融制度の整備とともに預金制度に移行するのが一般的である。
わが国では、明治新政府成立後、政府部内に出納機関を設けて国有金庫制度をとっていたが、この制度のもとでも、国庫金の取扱いそのものは、初めは民間の金融機関に、日本銀行が創設(1883)されてからは同行に委託していた。1890年(明治23)に会計法が施行されると、国庫金の出納業務まで含めて全面的に日本銀行に委託する委託金庫制度となり、さらに1921年(大正10)に会計法が改正されると、金庫制度が廃止され、預金制度に移行して今日に至っている。現行の預金制度のもとにおいては、国庫金は原則として日本銀行に預けられ、支払いが必要なときには日本銀行あての政府小切手を振り出すという形をとっており、日本銀行が統一的にその出納保管にあたっている。日本銀行に対する国の預金は政府預金とよばれ、ほとんどは当座預金であるが、ほかにも別口預金とか指定預金の形でも預金されている。国庫金には、一般会計や特別会計の手許(てもと)金のほかに、公社・公庫の預託金などが含まれる。
[林 正寿]
国庫金の残高は、国庫金を構成する諸会計の収入と支出により増減するが、この国庫収支は受払いの相手方によって次の3種類に区分されている。
(1)国庫内振替収支 国庫金を構成する各種会計間の振替えに伴う受払いをいう。この収支は、個々の会計の残高には増減を生じるが、国庫金額の総額は変わらない。
(2)国庫対日銀収支 国庫と日本銀行との間の受払いをいう。国と日本銀行との間で金が動くだけであるから、民間部門との間の資金の動きには関係がない。日本銀行が国に対して法人税や納付金を払ったりすれば国庫金は増えるし、逆に国庫を構成する資金運用部特別会計などが日本銀行保有の債券を買ったりすれば国庫金は減少する。
(3)国庫対民間収支 国庫と民間との間の収支を示し、経済に対して大きな影響を与えるからきわめて重要である。国は民間から租税の徴収をしたり公債という形で借り入れることにより民間資金を吸い上げるが、他方においては財・サービスの購入や移転支出をすることにより国から民間への資金の流れが生ずる。さらに、通貨供給への効果も加わって、金融市場へ強い影響を与える。なお、統計では国庫対民間収支よりも、これにいくつかの調整を加えた財政資金対民間収支のほうが多く用いられている。
[林 正寿]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
国家の活動を,行政,司法などの機能の主体とは区別して,国家を財政活動の主体あるいは財産権の主体としてみた場合に,国庫と呼ぶ。ドイツの国庫理論によれば,公権力の主体としての国家と別に国庫の概念が形成されたのは,財産権の主体としての国家に一般私人と同様に,民事裁判所の裁判権を適用することが必要であると考えられたためである。
国庫には現金,有価証券,不動産,物品などが属する。このうち,国民経済,国内金融に大きな影響をもたらす現金を国庫金と称する。国庫金は,国が現金を受け入れれば増加し,逆に支払うと減少する。なお国庫金は財政資金よりも狭義の概念であり,地方財政および一部の政府機関を除いたすべての中央政府の現金をいう。日本の国庫金は,おおむね次の4種に区分され,それぞれの変動は日本銀行にある政府預金の増減を生ずる。(1)一般会計および各特別会計の手許金,(2)各種政府預金の残高,(3)公社・公庫の預託金,(4)その他,である。すなわち国鉄などは別個の法人を形成しているが,その保有する現金は国庫で統一的に経理される。この国庫金を経理する制度を国庫金制度という。
執筆者:富田 俊基
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