日本大百科全書(ニッポニカ)「日本銀行」の解説
日本銀行
にっぽんぎんこう
Bank of Japan
日本の中央銀行。略称、日銀。1882年(明治15)日本銀行条例によって設立。1942年(昭和17)に戦時立法として制定された日本銀行法(旧日本銀行法)によって改組、1949年(昭和24)に同法の一部改正によって政策委員会が設置された。1997年(平成9)に、改正日本銀行法(新日本銀行法)が制定(1998年施行)され、旧日本銀行法は全面的に改正された。
[白井さゆり 2016年12月12日]
資本金および出資
日本銀行は、日本銀行法により設立された認可法人である。日本銀行法第9条に基づき出資証券を発行しているが、これは日本銀行に対する出資の持分を表す有価証券をさしている。資本金は1億円で、55%を政府が、45%を民間が出資している。出資者の権利は、会社法の株式会社における株主の権利と異なり、株主総会に相当する出資者総会は存在しておらず、出資者に議決権の行使が認められていない。また、出資者に対する配当率の決定には財務大臣の認可が必要なほか、配当率は年100分の5を超えることはできない。出資証券は、東京証券取引所が運営するJASDAQ(ジャスダック)市場への上場銘柄として売買されている。本店所在地は東京都中央区日本橋本石(ほんごく)町。
[白井さゆり 2016年12月12日]
政策委員会と金融政策決定会合
日本銀行法では、政策委員会を最高意思決定機関と明確に位置づけている。政策委員会の会合には、金融政策に関する事項を決定する「金融政策決定会合」と、その他の事項の決定などを議事とする「通常会合」がある。メンバーは9名(総裁、副総裁2名、審議委員6名)で構成され、いずれも衆議院と参議院の同意を得て、内閣が任命している(第23条1項・2項)。任期は5年で再任もできる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
金融政策運営の独立性と透明性
新日本銀行法では、近年、世界の中央銀行が重視する「独立性」と「透明性」の理念のもとに、旧日本銀行法を大幅に改定している。独立性については、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」(第5条2項)と定められている。各国の歴史をみると、中央銀行に金融緩和を求める圧力がかかりやすく、物価の安定が損なわれて経済が機能不全に陥ったといった教訓から、それを回避するために中央銀行の独立性が重視されるようになっている。ただし、日本の場合、金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(第4条)とも定められており、金融政策決定会合に政府代表者が出席して見解の表明や、議案の提出、議決の次回会合までの延期の要請などができる(第19条1項・2項)。
透明性については、金融政策が日本の金融・経済情勢に大きな影響を与えることから、「日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない」(第3条2項)と明記されている。政策内容などをわかりやすく説明して透明性を高めることは、政策の意図についての市場や国民の理解を促進し、金融政策の効果を高めることにもつながると考えられている。具体的には、金融政策決定会合直後に経済物価情勢や金融市場調節方針などを示した「公表文」の発表、総裁による記者会見、金融政策決定会合での議論に関する「主な意見」の発表、議事要旨の発表、10年経過後の議事録の公表などが定められている。また、金融政策に関する報告書(通貨及び金融の調節に関する報告書)をおおむね6か月に1回国会に提出し、国会での説明責任を果たしている。また、業務概況書を年1回作成し、財務諸表・決算報告書とともに公表している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
日本銀行の目的
日本銀行の目的として「物価の安定」(第2条)と「金融システムの安定」(第1条2項)が定められている。このうち、物価の安定は経済の安定的かつ持続的な成長に不可欠な基盤であり、日銀は物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に寄与する役割を担っている。
2013年(平成25)1月に物価安定を実現するための目標として、消費者物価指数(CPI)の対前年比2%上昇を掲げている。金融システムの安定(信用秩序の維持)については、決済システムの円滑で安定的な運行を通じて貢献しており、金融機関に対して決済サービスの提供や最後の貸し手としての機能を果たしている。
[白井さゆり 2016年12月12日]
日本銀行の業務
日本銀行のおもな業務には、(1)銀行券(お札)の発行・流通・管理、(2)決済サービスの提供、(3)金融政策の運営、(4)金融システムの安定、(5)国の事務と対政府取引、(6)国際業務、がある。
[白井さゆり 2016年12月12日]
銀行券の発行・流通・管理
日本で唯一の「発券銀行」として、銀行券を発行。金融機関との間で銀行券の受け・払いを通じて銀行券の安定供給を実施し、受け入れた銀行券の鑑査(枚数の計査、真偽の鑑定、再利用可能性の判別)によって銀行券の品質・信認を確保している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
決済サービスの提供
金融機関から当座預金(日本銀行当座預金)を受け入れ、当座預金の振替によって金融機関の間の資金決済を行うシステムや、国債振替決済制度など国債の決済システムも提供しており、国債取引に伴う受渡しを帳簿上の口座振替などによって処理している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
金融政策の運営
物価の安定を目的として金融政策を運営。金融政策決定会合(2016年以降、年8回)において、金融経済情勢についての検討とともに、次回決定会合までの金融市場調節方針を決定する。同方針に沿って、日本銀行は市場に対して、資金供給と資金吸収オペレーション(公開市場操作)を日々実施している。各国の主要中央銀行は、金融市場調節方針として短期金融市場の金利を誘導目標として選択することが多く、その金利に働きかけている。この金利は「政策金利」ともよばれている。景気後退局面(景気過熱局面)では、短期金利を引き下げる(引き上げる)ことで、満期がより長い市場金利や金融機関の貸出金利への下押し圧力(上昇圧力)を高めて、企業・家計の投資・消費など総需要を拡大(抑制)し、物価の押し上げ(抑制)に努めている。日本銀行では、2013年4月に誘導目標を量的・質的金融緩和によるマネタリーベースの年間増加ペースへと変更したが、その直前には、誘導目標として無担保コールレート(オーバーナイト物)を採用していた。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)はフェデラル・ファンド金利とよばれる翌日物の無担保金利を採用している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
金融システムの安定
金融システムは、お金の受け払いや貸し借りを行う仕組みであるが、このシステムのもとで、企業や個人などが金融機関と安心して取引できる状態を確保するために、金融機関の業務運営の実態や各種リスクの管理状況、自己資本や収益力についての実態を把握し、経営の健全性の維持・向上を促している。また、個別の金融機関の健全性が維持されていても、金融システム全体としてのシステミックリスク(たとえば、不動産バブル、信用貸出の急増、金融機関や企業のレバレッジの拡大など)が高まっている場合もあることから、金融システム全体とマクロ経済との連関といった観点からの分析・評価も行っている。さらに、一つの金融機関の破綻(はたん)などが原因で、他の金融機関に波及して金融システムの機能低下をもたらす恐れがある場合、必要に応じて、一時的に資金が不足した金融機関に対して「最後の貸し手」として資金供給を実施している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
国の事務と対政府取引
国の事務として、政府預金として預かっている国庫金の出納・計理、政府預金の管理と政府有価証券の受払・保管などの事務(国庫金に関する業務)、国債の発行や振替決済および元利金支払いに関する事務(国債に関する業務)がある。また、政府を相手方とした国債の売買などの取引(対政府取引に関する業務)を実施している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
国際業務
外国為替(かわせ)の売買、外国中央銀行や国際機関などによる円貨資産の調達・運用への協力などを実施。中央銀行が参加する国際会議などで、金融市場安定化のための取組みやグローバルな金融経済情勢の議論、市場環境整備などの作業にも参画している。また、外為法の届出書・報告書などの取扱いや、財務大臣の指示に基づいて遂行する為替介入(外国為替平衡操作)の実務など、国際金融に関連した国の事務も行っている。
国際業務で注目されるのは、11か国・地域の中央銀行・通貨当局(オーストラリア、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ)から構成されている東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP(エミアップ))のもとで、2003年にアジア債券基金(ABF:Asian Bond Fund)が設立されたことである。この背景には、1997年のアジア通貨危機の原因の一つが、銀行中心の金融システムにあったこと、そしてその銀行が、外貨建て資金を短期で調達し、それを自国通貨に転換して中・長期の貸出を拡大したことで深刻な銀行危機が発生し、それによって景気後退が深刻化したとの認識がある。そこで、自国通貨建ての債券市場の育成によって、資金調達手段の多様化と金融システムの安定化を目ざして、アジアの国債や政府系機関債に投資する債券ファンドが組成された。ABFは、ABF1(ドル建て資産に投資するファンド)とABF2(現地通貨建て資産に投資するファンド)がある。当初(2003年)はABF1から着手し、2004年にはABF2も開始した。すでに債券市場が発達している日本、オーストラリア、ニュージーランドを除くアジアの加盟国・地域の資産に投資している。その後、アジア地域の自国通貨建て債券市場は大きく発展しており、ABF1が所期の目的を達成したと判断して、2016年4月に、ABF1を償還し、その償還金をABF2に再投資することで合意した。
[白井さゆり 2016年12月12日]