日本大百科全書(ニッポニカ) 「貿易乗数」の意味・わかりやすい解説
貿易乗数
ぼうえきじょうすう
foreign trade multiplier
外国貿易を含む開放体系に乗数分析を適用し、輸出と国民所得の増加関係をとらえたもの。輸出の増加は、投資の増加と同じように、有効需要の面からその何倍かの国民所得の増加を誘発する。すなわち、輸出が増加すると、輸出財を生産している産業やその産業に原材料を供給している関連産業の生産が増加し、それらの生産に従事している労働者などの所得が増加する。それらの人々の所得の増加に伴ってその消費需要が増加し、消費財産業やその産業に原材料を供給している関連産業の生産が増加して、その生産に従事している人々の所得も増加する。こうして輸出の増加は、国内の各産業への需要の波及を通じて、それぞれの生産段階で所得の増加を誘発する。しかし、増加した所得の一部は輸入財の購入や貯蓄にも向けられ、国内の消費需要への波及から漏出するため、波及は無限に所得を増加し続けるのではなく、最終的な所得増加はある一定の水準に収束する。このとき、最初の輸出額の増加が何倍の国民所得の増加を誘発したかという倍率(最終的な国民所得の増加を最初の輸出額の増加で割った比)を貿易乗数というのである。貿易乗数の大きさは、租税への漏出を無視すれば、限界貯蓄性向と限界輸入性向の和の逆数に等しくなる。
[志田 明]