精選版 日本国語大辞典 「賤しい」の意味・読み・例文・類語
いやし・い【賤・卑・鄙】
- 〘 形容詞口語形活用 〙
[ 文語形 ]いやし 〘 形容詞シク活用 〙 - ① 身分や地位が低い。⇔貴(あて)。
- [初出の実例]「是を以て、賤(イヤシキ)賊(あた)の陋(いや)しき口を以て尊号(みな)を奉らむ」(出典:日本書紀(720)景行二七年一二月(北野本訓))
- 「身はいやしながら、母なむ宮なりける」(出典:伊勢物語(10C前)八四)
- ② 貧しい。みすぼらしい。
- [初出の実例]「葎はふ伊也之伎(イヤシキ)屋戸も大君の座(ま)さむと知らば玉敷かましを」(出典:万葉集(8C後)一九・四二七〇)
- 「朝夕の饗(もふけ)とていやしき麦の飯などに暮す」(出典:浮世草子・近代艷隠者(1686)四)
- ③ 蔑視、卑下すべきである。とるに足りない。
- [初出の実例]「朕は惟虚薄(イヤシ)。何を以てか斯を享けむ」(出典:日本書紀(720)白雉元年二月(北野本訓))
- 「大伴のくろぬしは、そのさまいやし」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
- ④ 下品である。劣っている。
- [初出の実例]「ただ文字一つにあやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらん」(出典:枕草子(10C終)一九五)
- ⑤ 吝嗇(りんしょく)である。けちである。
- [初出の実例]「いかにいやしくもの惜しみせさせ給ふ宮とて」(出典:枕草子(10C終)二七八)
- ⑥ 特に飲食物や金銭などに対して、人前でも欲望を隠そうとせず、慎みがない。意地きたない。
- ⑦ 無教養である。無学である。
- [初出の実例]「又其人人の生れにして、いやしくて事の弁(わきま)へもなきにこそ有らめ」(出典:談義本・労四狂(1747)上)
賤しいの語誌
本来、身分的・経済的な低さを表わし、人格とはかかわらない。上代では「あて」と対義語の関係にあると考えられ、「あて」が「中心」の価値を示すのに対して、「いやし」は「周縁」の価値を示すものと位置づけられる。やがて貴賤とは直接かかわらない、人格や美意識面での価値をも表わすようになる。
賤しいの派生語
いやし‐が・る- 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙
賤しいの派生語
いやし‐げ- 〘 形容動詞ナリ活用 〙
賤しいの派生語
いやし‐さ- 〘 名詞 〙