日本大百科全書(ニッポニカ) 「贈与経済学」の意味・わかりやすい解説
贈与経済学
ぞうよけいざいがく
grants economics
アメリカの経済学者K・E・ボールディングが提唱した経済システム論。従来、経済学は交換(双方向的な財の移転)とそれに基づく市場機構を主として研究してきたが、経済社会の多様化につれて、一方向的な財の移転すなわち贈与の比重がしだいに大きくなってきた。この一方向的な移転には、愛に基づく慈善・援助・補助金などの贈り物と、強制ないし恐怖から生まれる貢ぎ物(租税など)との2種類があり、これらと交換行為とを統合した社会システムとして現代経済社会をとらえようというのが贈与経済学である。ボールディングによると、1970年のアメリカの国民総生産(GNP)に対するこれら一方向的移転の比率は43%であった。さらに1970年代以降、産業社会の物的成長の限界が意識されるようになり、環境問題、国際通貨危機、南北問題など、これまでの経済学では対応できない問題が生じてきているが、これらの解決を政治的手段による所得再分配・援助あるいは所有権・使用権の規制のように、交換と市場機構にかわる対立処理方式に求める傾向が増大しており、これこそ贈与経済学の対象であるといえよう。これらの研究は、アメリカ贈与経済学会を中心に展開されているが、現代経済学の傍流にとどまっている。
[一杉哲也]
『K・E・ボールディング著、公文俊平訳『愛と恐怖の経済――贈与の経済学序説』(1974・佑学社)』▽『K・E・ボールディング、M・パーフ著、関口末夫・勝村坦郎訳『所得分配の贈与経済学――富者と貧者への再分配』上下(1976、77・佑学社)』