赤い花(読み)あかいはな(その他表記)Красный цветок/Krasnïy tsvetok

日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤い花」の意味・わかりやすい解説

赤い花
あかいはな
Красный цветок/Krasnïy tsvetok

ロシア作家ガルシン短編小説。1883年発表。精神科病院の入院患者が主人公で、彼は病院で真紅ケシの花をみつけ、それが地上の悪の象徴のように思われてむしり取り、自らも翌日死んでしまう。これは、作者ガルシンの再度にわたる入院体験をもとにして、社会悪と戦って自ら犠牲として滅びてゆく知識人の悲劇を象徴したもので、後のチェーホフの『六号室』の先駆をなすものである。殉教的な香りの高い異色ある作品といえる。

中村 融]

『神西清訳『あかい花』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

関連語 岩波文庫

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「赤い花」の意味・わかりやすい解説

赤い花
あかいはな
Krasnyi tsvetok

ロシアの作家 V.ガルシンの短編小説。 1883年発表。精神病院の庭に咲く3本の赤いケシの花を,社会悪の化身と考えた狂気の主人公が,人類をこの悪から永久に解放しようとしてその花をもぎ取り,悪をわが身ひとつに受止めながら,みずからもその毒気に打たれて死んでいく,という狂気と幻想の内面世界をみごとに浮彫りにした作品。作者がハリコフの精神病院に入院したときの体験をもとに,当時のナロードニキ自己犠牲の精神を象徴的に描いている。

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世界大百科事典(旧版)内の赤い花の言及

【ガルシン】より

…残された作品は短編ばかりで,20編ほど。精神病院の庭に咲いている赤い罌粟(けし)の花をこの世の悪の源と思いこんで,その花を次々ともぎとって押しつぶし,憔悴(しようすい)しきって,しかし晴れやかな顔をして死んでいく精神病患者の話《赤い花》(1883),2人の線路番の犠牲的精神と悔い改めを描く《信号》(1887)などがある。その間に徐々に心の病におかされ,発作の際に4階の階段から身を投げ,若くして自らの生命を絶った。…

※「赤い花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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