電波の二地点への到達時間差を高精度で決定できる新方式の干渉計。VLBI(very long baseline interferometerの略称)ともいう。電波星あるいは人工衛星からの微弱な電波を二地点で同時に受信し、安定な原子時計を基準にして受信波形と時間信号を磁気テープに記録し、これらをきわめて精密に相関的に処理する方法をとる。従来の電波干渉計のように二つのアンテナをケーブルで結ぶ必要がないので、二地点間の距離を数千キロメートル以上にまで伸ばせるのもこの干渉計の特徴である。
この干渉計の基本的概念は古くからあったが、最近の宇宙電波観測技術、高速磁気記録装置やコンピュータによる情報の大量処理技術、きわめて安定な原子時計が実現するような精密計測技術などの急速な発展に伴って、その測定精度は飛躍的に上昇した。現在では、時間差の決定精度は約100億分の1秒に達しており、大陸間の距離を数センチメートル以下の誤差で測定したり、電波星の位置を1万分の数秒角で測ることができるようになった。その結果、この干渉計による技術は非常に多くの分野で利用されている。たとえば電波天文学では、電波星の構造をより精密に調べるために用いられ、測地の分野では、地殻の運動を測って地震を予知するのに役だち、地球物理学の分野では、地球回転や極運動の測定に利用されている。そのほか、国際的な原子時計の比較、人工衛星の軌道決定などにも、もっとも高精度な新しい手段の一つとして、利用の道が開かれている。
1984年(昭和59)初頭から始まった日米VLBI共同実験で、郵政省電波研究所(現、通信総合研究所)の鹿島VLBI局(かしまぶいえるびーあいきょく)は、日本とアメリカ大陸間の距離を約3センチメートルの精度で測定することに成功した。地殻プレートの運動を実証するための実験は、ヨーロッパのVLBI局の参加を得てその後も続けられ、ハワイ諸島などがのる太平洋プレートが、日本がのるアジアプレートの方向に、年間約5センチメートルの速さで近づいていることが実証された。
[若井 登]
(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2007年)
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ある規則に従って配列した複数個のアンテナで天体の電波を受け,それぞれのアンテナ出力を互いに干渉させることによって,電波源の位置,形状を測定する電波望遠鏡の一種。 天体の電波観測に干渉計を用いる理由は,分解能(解像力)をよくするためである。電波は光に比べると波長が103~108倍長いので,単独のアンテナでは十分よい分解能を得ることはできない。アンテナの口径をD,波長をλとすると,分解能はλ/D(rad)である。…
※「超長基線電波干渉計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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