翻訳|crust
固体地球の最外層。卵に地球を例えれば,殻の部分に相当する。地球構成物質のうち比較的軽く,融点の低い物質よりなる。人間の生活圏は,地殻と大気,あるいは水と接する部分にあり,その地学的環境は地学現象によってたえまなく変化している。地球の内部構造はおもに地震波の伝わり方から推定されている。地球は層構造をもち,地震波速度の違いによって,外側から順に,地殻,マントル,核に分けられるが,地殻の厚さはたかだか60km程度で,地球の半径6371kmの1000分の1以下にすぎない。地殻とマントルとの境界はモホロビチッチ不連続面(略してモホ面)と呼ばれ,モホ面直下のマントルと地殻底部とでは縦波であるP波の速度が1km/s近く異なる。
地殻の厚さや構造は地域により大きな差があるが,特に大陸の地殻と海洋の地殻とは本質的に異なる。大陸地殻の厚さは,地域により異なるが,平均約30~40kmで,大陸地殻は上層部と下層部に分けられる。上層と下層との境界をコンラッド不連続面と呼ぶことがある。P波の速度は上部地殻で約6km/s,下部地殻で約7km/s,マントル上部で約8km/sである。一方,海洋地殻の厚さは比較的一様で,7km程度である。海洋地殻の主要部のP波速度は約7km/sで,大陸地殻の下部に相当し,大陸地殻の上部に対応する層は存在しない。岩石中を伝わる地震波速度との比較から,大陸地殻上部は,花コウ岩的な酸性岩よりなると考えられ,花コウ岩質層と呼ばれる。一方,大陸地殻下部や海洋地殻は,斑レイ岩(玄武岩質の深成岩)的な塩基性岩よりなると考えられ,玄武岩質層と呼ばれる。海洋地殻については,蛇紋岩よりなるとの考えもある。大陸地殻はアルプス,ヒマラヤ,アンデスなどの山岳部では厚く,下へ突き出た形をしており,モホ面の深さは50~70kmに達する。地殻の密度(上部で2.67g/cm3,下部で3.0g/cm3)はモホ面直下のマントルの密度(3.3g/cm3)より小さく,山岳部の重量は,地殻底部のマントルへ突き出た部分の浮力に支えられている。これは,海に浮かぶ氷山が,水中に沈んでいる部分の浮力によって支えられているのと同じ原理による。このような地殻とマントルの力の均衡状態をアイソスタシーと呼ぶ。
大陸地殻で今までに知られている最古の岩石の年齢は38億年である。地球の年齢は45.5億年であるが,ほぼ40億年前には大陸地殻ができていたのではないかと考えられている。現在の大陸は,最も古い部分が中心部にあり,これを次々に新しい地殻が取り囲んで,年輪状となっている。岩石に含まれるストロンチウム同位体の研究から,大陸地殻は地球の全歴史を通じ連続的に形成されたものと考えられている。大陸地殻の構造は地域により著しく異なり,その厚さはおよそ20~65kmの範囲にある。表層部にはP波速度の遅い薄い層(堆積層など)がある場合が多い。単純な2層あるいは3層構造だけでなく,地域によっては地殻中部に低速度層をもつモデルも提唱されている。反射法地震探査による大陸地殻調査では,地殻下部に至るまで,数kmから数十kmのスケールで大陸地殻が不均質であることが示されている。
海洋地殻の年齢は最も古くても2億年程度で,大陸地殻に比べてはるかに若い。海洋地殻は中央海嶺(海嶺)で生成されるが,海溝で上部マントル中に沈み込んで消滅するため,古い年齢の地殻がないのだと考えられている。海洋地殻は通常3層に分けられる。第1層は堆積層に相当し,P波速度は約2km/sで,厚さは地域によって異なる。第2層は基盤層と呼ばれ,P波速度は4.0~6.0km/sで玄武岩よりなるが,上部には枕状溶岩やその破砕物からなるやや速度の遅い層がある。深海掘削計画により,第2層上部の物質は手にとって調べられるようになった。第3層の平均の厚さは5km近くあり,斑レイ岩あるいは蛇紋岩よりなる。P波速度は6.8km/s程度であるが,下部にP波速度が7km/sを超える層があるらしい。海洋地殻がつくられる中央海嶺直下には,海底下1~2km以深に低速度層があり,マグマ溜りの存在を示している。海洋地殻は,海嶺直下から地殻の年齢が1000万~1500万年の層の間でつくられると推定されている。
活動的大陸縁辺部の島弧は大陸の地殻構造をもち,縁海盆の地殻構造は標準的な海洋底の地殻構造に近い。島弧の火山活動は,海溝から沈み込む海洋地殻によって上部マントル中に運ばれる水に起因するのではないかと考えられている。非活動的大陸縁辺部には,しばしば10km以上に達する厚い堆積物が大陸縁に平行に堆積している。地殻は,大陸が分裂して地溝が広がっていくときに引き伸ばされたため薄くなっているのであろう。厚い堆積物は,海嶺から遠ざかるにつれ冷却し地殻が沈降した結果生じたものと考えられている。
モホロビチッチA.Mohorovičićは,1909年に起きたクロアチアの地震の走時曲線から,震央距離200km付近以遠でP波の伝わる速度が速くなることを見いだした。そしてこの事実を,P波速度が深さ50kmで不連続的に増加する地下構造により説明した。これがモホ面の発見である。1925年コンラッドV.Conradは,走時曲線が三つの直線部分に分かれることから,大陸地殻が2層よりなることを明らかにした。1920年代から地中での火薬爆発による人工地震波を利用した大陸地殻構造の研究が,30年代からは海中での爆発を利用した海洋地殻構造の研究が進められている。アイソスタシーの考えから海洋地殻が薄いことが推定されていたが,人工地震の観測により確かめられたのは50年ころである。60年代末から発展したプレートテクトニクスにより,海洋地殻等に関する理解が著しく進んだ。60年代末に始まった深海掘削や70年代末からの大陸地殻反射法探査により,海洋および大陸地殻についての調査が進められている。
執筆者:島崎 邦彦
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地球のもっとも表面を構成する層。もともと、地球内部が溶融状態にあると考えられていた時代に、その表面の固化した薄皮をさしたものであるが、現在では、モホロビチッチ不連続面より上の部分と定義するのが普通である。地殻の構造は、地震波の伝わり方や重力異常などにより研究されており、著しい地域差のあることが知られている。たとえば、大陸地域における地殻の厚さは普通30キロメートル以上あるが、海洋地域では、海水層を除けば、10キロメートルを超すことはまれである。大陸地域でも、アンデスやチベットなどの大山脈や高原ではさらに厚く、60キロメートル以上もある。こうした地殻の厚さの地域差は、アイソスタシーの考えなどにより古くから予測されていたが、第二次世界大戦後盛んになった大規模な人工地震の実験により確かめられた。大陸地域の地殻の表面は堆積(たいせき)層で覆われているが、その下は、地震波のP波速度が6キロメートル毎秒程度の花崗岩質層(かこうがんしつそう)と、7キロメートル毎秒程度の玄武岩質層とに分けて考えられることが多い。これらの層は、それぞれシアルおよびシマとよばれることもある。しかし、最近の詳しい人工地震の解析では、非常に複雑でもはや二層には単純化できないような地殻構造もしばしば報告されている。海洋地域における地殻には、地域差が少なくきわめて一様であるという著しい特徴がある。海嶺(かいれい)や海山など特別な地域を別にすれば、海水層を取り除いた地殻の厚さは、6~7キロメートル程度であり、内部構造にも地域差が少ない。海洋地殻は、堆積層である第一層、P波速度5キロメートル毎秒程度の第二層、7キロメートル毎秒程度の第三層という三層構造に単純化されることが多い。このうち、第二層は主として枕状溶岩(まくらじょうようがん)でできていることが深海ボーリングにより確かめられている。プレートテクトニクスによれば、海洋地殻は海洋プレートの最上部として中央海嶺において形成されるものであり、構造の一様さはその形成過程に関係があると考えられる。海洋地殻は海洋プレートの動きによってつねに更新されているために、もっとも古い年代の地域でも2億年程度である。これに対して、大陸地殻の大部分は地球が生まれてまもなく形成されたものであると考えられており、海洋地殻に比べて一桁(けた)以上長い歴史をもつ。
[吉井敏尅]
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…解剖学的には表皮の角質層。(7)痂皮crust 鱗屑に滲出液が混じりあった黄色調のいわゆる〈かさぶた〉。(8)胼胝(べんち)callus角 質層が限局性に厚くなったもの。…
…海水の量がどのように増加してきたかについては,地球の誕生後約5億年でほとんどが形成されたとする説と徐々に増加してきたとする説があるが,前者の説を支持する人が多い。
[海洋の地殻と大陸の地殻]
地球のいちばん外側の殻,地殻は,大陸では軽い花コウ岩質層とその下の玄武岩質層からなり,厚さ20~70km,平均33kmであり,大洋底では玄武岩質層からなり厚さ7kmと薄く,両者はまったく異なる構造をもつ。前述のごとく大陸からは堆積作用のあったことを示す38億年前の岩石が見つかっているのに,海洋底の岩石は最も古いもので2億年前のものである。…
…チャンドラー運動はおもに四季の気圧配置や海流の変化による。このほか南極の氷床の消長,大地震,地殻変動,地球の核とマントルとの間の電磁気的カップリングによっても自転速度に変化が生じる。海水と海底との間に生じる潮汐摩擦によって自転にブレーキがかかり,しだいに自転速度が減る現象を永年減速といい,1日の長さが100年間に約0.014秒ずつ長くなる。…
※「地殻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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