電波天文学(読み)デンパテンモンガク(その他表記)radio astronomy

翻訳|radio astronomy

デジタル大辞泉 「電波天文学」の意味・読み・例文・類語

でんぱ‐てんもんがく【電波天文学】

天体から来る電波を受信して、天体の性質、銀河系や宇宙の構造などを研究する天文学の一分野。

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精選版 日本国語大辞典 「電波天文学」の意味・読み・例文・類語

でんぱ‐てんもんがく【電波天文学】

  1. 〘 名詞 〙 天体から放射される電波やレーダーによる電波の反射を測定して、天体の性質や宇宙の構造を研究する学問。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電波天文学」の意味・わかりやすい解説

電波天文学
でんぱてんもんがく
radio astronomy

電波によって天体・宇宙を観測し研究する、天文学の一分野。1931年にジャンスキーによって発見された宇宙からの電波は、その後の観測の発展につれて、宇宙像を大きく塗り替える役割を果たした。それまでの光学観測では見ることができなかった新しい天体や新しい現象が電波望遠鏡によって次々と発見されたからである。基本的には、可視光では数千度以上の比較的高温の宇宙が見えるのに対し、電波では低温の宇宙が観察できる。この両者の総合によって、宇宙における物質の運動・循環を全体的に把握することが可能になった。

 宇宙から地球に降り注ぐ各種の電磁波のうち、電波は可視光と同様、地球大気を通り抜けて地上に達することができる。そのため地上に置かれた観測装置によって宇宙を観測することが可能な「宇宙への窓」として、巨大で複雑な電波望遠鏡システムが発達した。現在、電波天文学は、可視光天文学と並んで宇宙研究を支える主柱となっている。

 地上からの電波観測は、およそ波長30メートルから0.3ミリメートルのサブミリ波まで、広い範囲にわたって行われている。これよりも長波長側の電波は大気上層部の電離層に跳ね返されるため、その波長域で宇宙を見ることはできない。一方、1センチメートルよりも短波長のミリ波では、大気中の分子、おもに水蒸気のために吸収が強まる。波長1ミリメートルよりもさらに短波長側の電磁波をサブミリ波とよぶことが多いが、ミリ波・サブミリ波の観測では、水蒸気を避けて乾燥高地での観測が志向されている。

[海部宣男 2017年7月19日]

電波天文学の歴史

電波天文学の発達の歴史は、ほぼ電波工学の発達の歴史に重ね合わせてみることができる。アメリカのベル研究所の技師ジャンスキーが宇宙電波を偶然に発見(1931)したのは、電波通信の妨害となる雷の電波を研究していたときだった。ジャンスキーと、独学で宇宙電波の観測を進めた工学者リーバーGrote Reber(1911―2002)によって、電波は天の川に沿って強く、かつ長波長ほど強放射されているという事実がつきとめられた。これは当時の天文学および物理学の知識からは説明がつかず、1950年代になってから、ソ連のギンツブルクらによって、宇宙の高エネルギー粒子(宇宙線)と磁場との作用によるシンクロトロン放射(非熱的放射)とよばれる現象であることが明らかにされた。

 シンクロトロン放射は、高エネルギー粒子を生み出す宇宙の爆発的現象の存在を物語る。その研究は、超新星爆発、電波銀河クエーサーといった莫大(ばくだい)なエネルギーを解放する宇宙現象の発見や解明へとつながっていった。またシンクロトロン放射は一般に長波長ほど強いので、短波長の扱いが技術的に困難であった初期の電波天文学には好適な観測対象だった。長波長の電波は波長に比べて目の小さな金網や針金を張った反射鏡で集光ができるため、精度上の困難が少なく、電波の検出器も長波長では容易である。一方、長波長ほど対象の構造を見分ける能力(分解能)が下がる問題は、オーストラリアのボルトンJohn Gatenby Bolton(1922―1993)やイギリスのライルらによる電波干渉計の発明によって、解決に向かった。

 1951年にアメリカのパーセルとユーインHarold Irving Ewen(1922―2015)によって、水素原子ガス雲からの波長21センチメートルの電波(いわゆる21センチ波)が発見された。これはオランダのファン・デ・フルストが1944年に予言したものである。宇宙電波として最初に発見された線スペクトルで、かつ宇宙の基本的構成要素としての水素原子の観測を可能にした点で画期的な発見であった。21センチ波の大々的な観測・研究によって、銀河系の渦の大きさ、銀河系外におけるさまざまな銀河やその間の相互作用のようすなど、重要な知見がもたらされた。

 電波工学、機械工学の発達とともに、観測は短い波長帯域へと広がっていった。1960年代にはイギリス・ジョドレルバンクの76メートル、オーストラリア・パークスの64メートルなど、直径数十メートルのパラボロイド型電波望遠鏡が数多く建設され、電波による発見の黄金時代となった。電波銀河の発見(1960)、クエーサーの発見(1963)、3K宇宙黒体放射(宇宙背景放射)の発見(1965)、パルサーの発見(1967)、多彩な星間分子の発見(1968~ )などである。ことに星間分子の線スペクトルが波長1センチメートル~1ミリメートルのミリ波領域で多数発見されたことは、電波の最短波長であるミリ波での観測の発展を大きく促した。暗黒星雲や星の外層大気に広く分布する星間分子をその電波スペクトル線で研究することによって、星の形成とその一生、銀河系の構造など多岐にわたる研究領域での新たな発展が広がっていったからである。

 1980年代に入ると、半導体工学、精密工学、大型コンピュータなど現代の第一線の技術の投入によって、ミリ波観測のための巨大で精密な単一パラボロイド望遠鏡や干渉計が、日本(国立天文台野辺山(のべやま)の45メートルミリ波望遠鏡とミリ波干渉計)、アメリカ(カリフォルニア工科大学のミリ波干渉計)、ヨーロッパ(ドイツのマックス・プランク研究所100メートル望遠鏡、ミリ波天文学研究所のミリ波干渉計と30メートルミリ波望遠鏡など)で実現し、その成果が競われた。また電波干渉計は、高速コンピュータの登場によって天体の電波画像を高分解能で描き出す電波写真儀(開口合成干渉計とよばれる)へと発展した。開口合成干渉計は、初期にはおもに長波長側で威力を発揮し、遠方の銀河中心核が放出する宇宙ジェット(ジェット状の電波源)など、高エネルギー現象の解明を進めた。その後の技術的な進歩により、短波長のミリ波・サブミリ波でも本格的な開口合成干渉計が活動している。

[海部宣男 2017年7月19日]

電波天文学の現状

電波天文学の研究分野は、現在およそ以下のように大別できよう。

(1)高エネルギー電波天文学 おもにシンクロトロン放射による連続波電波により、宇宙における高エネルギー放出現象を研究する。超新星、パルサー、銀河磁場、銀河中心核と電波銀河、クエーサーおよび宇宙ジェットなどである。ことに宇宙ジェットは、巨大ブラック・ホール周辺から放たれるものと考えられ、きわめて興味深い現象である。

(2)宇宙電波分光学 星間分子や原子の電波スペクトル線により、おもに低温の星雲やその中での恒星や惑星系の形成、星の一生、銀河系の構造・運動、遠方の系外銀河や宇宙初期の星形成などを研究する。スペクトル線特有の豊富な情報量によって、ほとんどすべての宇宙現象に関連して多岐にわたる研究分野が開けている。とくに星の形成過程は銀河系およびさまざまな銀河の歴史の解明につながる基本的要素であり、非常な遠方の銀河にまで観測が進められている。望遠鏡の高性能化とともに、恒星の形成とそれに伴う惑星系の形成過程の研究も目覚ましい。

(3)太陽電波天文学 太陽は地球にきわめて近いため観測される電波強度が強く、また黒点爆発に伴う電波通信への影響などもあって、早くから研究が進んだ。黒点が関与する太陽面爆発(フレア)の機構の解明がその中心課題である。粒子の加速、磁場の働きなど宇宙における高エネルギー現象と共通する部分も多いので、高エネルギー現象の基礎的理解にも重要である。太陽電波観測には専用の観測装置(おもに干渉計方式)が用いられる。日本では国立天文台が野辺山に建設した太陽電波干渉計(電波ヘリオグラフ)が、2015年から名古屋大学地球環境研究所によって国際運用されている。

(4)レーダー天文学 大型反射鏡を用いて強力な電波ビームを近くの天体に向けて放射し、反射してくるエコーをとらえて研究する。太陽系内の天体のみが対象で、水星から土星までがこの方法で調べられ、金星の表面地形や自転速度などが測られた。金星では、金星周回軌道に投入した探査機を用いたレーダー観測により、さらに詳しい地形図がつくられている。

(5)VLBI天文学 地球上各地の大型電波望遠鏡を高性能の原子時計と記録装置(テープレコーダー、ディスクなど)やマイクロ波などで結んだ電波干渉計が、VLBI(very long baseline interferometer=超長基線電波干渉計)である。電波干渉計の発展型ではあるが、遠く離れたアンテナ間をケーブルなしで結ぶことで地球全体を望遠鏡とし、角度で1秒の1000分の1以下という飛躍的な超高分解能を達成した。宇宙ジェットの中心部、星の形成の核などの微細構造の観測に威力を発揮し、全世界を包むVLBIネットワークがアメリカ、ヨーロッパ、日本を中心に活動している。日本は宇宙に打ち上げたパラボロイド鏡「はるか」と地上の電波望遠鏡とを結ぶ宇宙VLBIを世界で初めて実現し、また日本全土を結んで高精度化したVLBI網で遠方の恒星までの距離を三角測量して銀河系の地図をつくるVERA(ベラ)プロジェクトが活動するとともに、韓国のミリ波VLBI網KVN(Korean VLBI Network)などと結んで、東アジアVLBIネットワークを形成している。

(6)ミリ波サブミリ波天文学 各種の星間分子のスペクトル線、および固体微粒子(ダスト)によるミリ波・サブミリ波熱放射を中心とする観測で、高精度技術を要するミリ波天文学が発展した。日本は、アメリカ、ヨーロッパとともにその中心的存在である。現在注目の分野は、ミリ波より波長が短いサブミリ波(波長0.3~1ミリメートル)の観測で、可視光と電波の間のギャップを埋める領域である。地上では困難ながら乾燥高地において一部の波長で観測可能であり、高度な半導体・電子技術を要する受信装置の開発が世界的に競われている。日本、アメリカ、ヨーロッパ合同でチリの高地にALMA(アルマ。アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)が建設され、2013年から観測が開始されて目覚ましい成果をあげている。サブミリ波では、星間分子だけでなく、原子のスペクトル線や固体微粒子の観測が可能になることは重要で、太陽系外惑星の形成や初期銀河形成などの研究が進むであろう。

[海部宣男 2017年7月19日]

『海部宣男著『銀河から宇宙へ』(1972・新日本出版社)』『海部宣男著『電波望遠鏡をつくる』(1986・大月書店)』『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』『中井直正他編『宇宙の観測2 電波天文学』シリーズ現代の天文学16(2009・日本評論社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「電波天文学」の意味・わかりやすい解説

電波天文学 (でんぱてんもんがく)
radio astronomy

宇宙からやってくる電波を受信して天体の性質を調べる学問。宇宙からの電波は,高温プラズマからの電波,分子の回転による電波,中性水素から出される電波,惑星からの電波や宇宙背景放射などに大別される。

高温ガスからできた星雲などでは,原子が電離して電子が空間をとび回っている。これらの電子が進路をじゃまされると加速によって電波を放射する。放射にはおおまかにいって2種類ある。第1は,熱運動をしている電子がイオンと遭遇する場合で,電子とイオンの電荷の間の力で加速度が発生し電波が放出される。電子に高エネルギーを要せず,電子の熱運動だけで十分なことから熱的電波と呼ばれる。生まれたばかりの星のまわりでガスが熱せられて輝く輝線星雲HⅡ領域ともいう)がこの種の電波源となる。この種の電波源は高い周波数でも電波が強く,銀河面に沿って分布するなどの特徴を有し,星の誕生する領域を示す指標として使われている。

 第2は,高エネルギーの電子の運動が磁場のために曲げられて発生する加速度によって放射される電波で,粒子加速器で起こる同じ原理による発光にちなんでシンクロトロン放射,あるいは熱運動をする電子からはほとんど放射されないことから非熱的電波と呼ばれる。

 非熱的電波源としては次のようなものがある。(1)電波銀河やクエーサー 一般的には低い周波数で強いが,高い周波数で強いものもあり多種のスペクトルを呈する。天球上ほぼ一様に分布するなどの特徴をもち,銀河の中心核の爆発と考えられている。100億光年近くの距離まで観測される。(2)超新星の残骸 低い周波数で強い,銀河面に沿って分布する,多くは球殻のような形状であるなどの特徴をもち,数万年前に爆発した超新星によって生じた高エネルギー電子によるものである。(3)パルサー 規則正しい間隔でパルス状の電波を出し,低い周波数で強く,銀河面に沿って分布する。恒星進化の末期に爆発した超新星の一部で中性子星を残したものの一部がパルサーとなる。中性子星の強力な磁力線が中性子星の回転によってまわりのプラズマを切って加速が起こる。(4)太陽やフレア星のバースト 太陽フレアなどによって加速された電子が発生する電波。フレアの機構,惑星間空間のじょう乱などの研究に重要である。(5)木星の放射線帯 衛星イオの火山ガスプラズマによるじょう乱によるもの,太陽風粒子などが木星磁場で加速されるものなどがある。(6)その他 X線星などの高密度天体に落ち込むガス,近接連星,大きな大気をもつ星などからも非熱的電波が観測されている例がある。

 なお,(3)以下にはシンクロトロン放射でない例もある。

分子はその構造上,正負の電荷が分極しているので回転すると電波が放射される。回転数は角運動量の量子化によって何種類かにきまっているので,その回転数と同じ周波数の電波を放出する。分子の数が多いほど,分極の量が多いほど電波は強いが,後者に関しては分極の大きい分子をいつも回転させるためにはエネルギーが衝突によって供給されなければならないので,むしろまわりにどれだけの分子が存在するか,つまりガス密度できまるといってよい。

 ある分子のスペクトルの観測からその分子の存在,ドップラー効果からガス運動の速度,回転の状態や電波の強度などからその分子の量,ガスの温度・密度などを求めることができる。このように,分子のスペクトル観測は,従来の電波観測で得られなかった多様な情報を,他の方法では観測できなかった低温の星間ガスに対して与える。

 分子の電波で観測される天体は主として星間雲で,この中での星の生成過程,星間物質の組成などが調べられる。

中性の水素原子は波長21cmの弱い電波を放射する。原子1個当りでは非常に弱いが水素は星間物質の主成分なので分子と比べて多量に存在し,全体としてはかなり強い電波になる。電波で初めて見つかったスペクトル線である。この電波からは星間ガスの比較的希薄な部分について,全体としての姿が見える。これによってわれわれの銀河系の渦巻構造が初めて明らかになった。また,銀河系の外の銀河に対しても水素ガス含有量,ガスのその銀河の中での分布などが観測されている。

惑星などの表面はほぼ電波の完全吸収体であるので,表面温度に相当する黒体放射が観測され表面温度が求められる。自転の有無,大気の有無と表面の熱的特性によって表面温度のきまり方が違うのでこのような研究のために観測が行われる。また,よく調べられた金星,火星,木星,土星の電波は電波望遠鏡の較正に用いられることが多い。

 また,宇宙初期の黒体放射が現在まで残っていてアンテナを何もない天空に向けても3Kの宇宙背景放射が受信される。宇宙初期に高温高密度の状態(火の玉)があった証明として宇宙論の研究を大きく進めることになった。

宇宙からの電波が初めて見つかったのは1931年である。遠距離通信のじゃまになる自然の雑音を研究中だったジャンスキーK.G.Janskyが,いて座の方向からの電波に気づき銀河系の中心が電波を出していると解釈した。

 この大発見は当時はあまりかえりみられなかったが,第2次世界大戦後,多くの国で観測が行われるようになった。当初は軍用レーダー用アンテナなどのありあわせの装置で観測が行われ,銀河電波,電波星などが発見され,太陽電波の観測などが行われた。50年代に入って,電波干渉計,パラボラ型の電波望遠鏡などが作られ,電波源の位置の精度のよい測定が可能になり,現在電波銀河として知られている特異な銀河や超新星の残骸などが発見された。また,中性水素の21cm電波が発見され銀河系の構造が明らかにされたのもこの時期である。58年,イギリスのジョドレルバンクに直径76mの電波望遠鏡が完成,続いてオーストラリア,アメリカなどでも大型電波望遠鏡が作られた。これによって弱い電波源まで組織的に観測が進みクエーサーなどが発見される。電波の偏波が見つかって銀河系の磁場が見つかった。干渉計の技術は開口合成法によって長足の進歩をとげた。それによって多くの電波源の形状がはっきりととらえられ,電波銀河の爆発のようすがわかってきた。

 低雑音受信機や電波スペクトル計などの技術によって弱い電波まで観測できるようになり,弱い電波源の分布から宇宙初期の宇宙と銀河の進化が明らかになり,宇宙背景やパルサーが発見された。また63年に最初の星間分子として水酸基OHが発見され,1960年代末からいろいろな分子の発見が始まった。

 超長基線干渉計(VLBI)による観測が成功したのも60年代末である。このように,電波天文は60年代には技術,観測成果とも飛躍的に発展した。

 70年代はミリ波星間分子の観測,大型干渉計やVLBIによる電波銀河の高エネルギージェットの解明があり,装置はますます大型化して80年代に入った。今後の発展の方向としては,大型干渉計やミリ波よりさらに短波長のサブミリ波による星間分子の観測,大規模なVLBI専用の望遠鏡,あるいは衛星上のアンテナと組み合わせたVLBI観測が行われるようになるだろう。

 日本では1940年代末,太陽電波の観測で研究が始まったが,宇宙電波の分野では大きく遅れており,野辺山宇宙電波観測所の45m望遠鏡などの建設により遅れを取り戻す努力が続けられている。

電波で天体を観測するといっても初めての人にはあまりぴんとこない。〈光で観測する〉というのは見る,写真をとる,光度をはかる,スペクトルをとるなど,望遠鏡を天体に向けて光を分析するということでわかりやすいが,電波観測も目に見えない波長の電磁波を対象とするという点以外は同じである。

 まずアンテナに低雑音増幅器,電波を分析する装置をつなぐ。電波望遠鏡には電波を,(1)受ける,(2)増幅する,(3)人間にわかる情報に変換するの三つの機能が必要で,それぞれが観測目的に応じて複雑あるいは大規模になっている。このようにして作った電波望遠鏡を天体の各部分,あるいはいろいろな天体に次々と向けていくのが電波天文学の観測である。

図1-bは木星の電波を波長3mmと7mmで同時に受けたものである。アンテナは,木星をまともに追尾しないで,縦,横に五つの点と離れた1点に順次向けられる。アンテナポインティングに誤差がなければ左右対称の凸字型のレコードがあらわれる。この図はこの操作を何回も繰り返したものでアンテナポインティング誤差,風などによる乱れ,電波強度などを同時に調べるのに便利な方法である。

 凸型のレコードは図1-aのように同じ高さで並ぶべきだが,それが全体として斜めになっているのは,空気の電波放射が迎角,天気などで変化しているためである。この影響はデータを直接コンピューターにとり入れて計算している。

 ちなみに,木星の電波は,波長数十mでは衛星イオの火山噴火ガスが木星の放射線帯を刺激して発生する強いパルス状の電波,メートル波から数cmまでは放射線帯の電子のシンクロトロン放射,波長数cm以下では濃い大気からの熱放射からできている。

 図2は,オリオン星雲にある原始星のまわりのガスから出される電波スペクトルの例である。横軸が周波数,縦軸が電波強度である。グラフに見えているたくさんのピークは,それぞれ分子のスペクトルに相当し,図中に分子式が示してある。ギ酸メチルHCOOCH3,ジメチルエーテル(CH32Oといった有機物,一酸化硫黄SOなどの無機物など,いろいろな分子が存在することが理解される。これらの分子スペクトルの強度,周波数のずれなどを調べてこのガスの性質を調べていく。

 表1,表2に,電波で観測されるおもな星間分子と各種電波源の例を種類ごとに示した。電波銀河,クエーサーは銀河系外の銀河で,その中心核で爆発が起こり高エネルギーの粒子がシンクロトロン放射をしている。超新星残骸は名の示すとおり超新星爆発の際に放出されたガスのシンクロトロン放射,パルサーはそのような爆発のあとに残された星の芯の部分が中性子星となり,これが非常に強力な磁場をもって高速回転し,まわりのプラズマ中の電子を加速するために起こる電波である。パルサーはその名のとおり断続的なパルス状の電波を出す。以上が非熱的電波であるが,HⅡ領域は,生まれたばかりの高温度星をとりまくガスで,温度約1万Kに熱せられ水素が電離していることからその名がある。電子が水素イオンと衝突することによって発する熱的電波である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電波天文学」の意味・わかりやすい解説

電波天文学
でんぱてんもんがく
radio astronomy

地球外からやってくる電波を研究する天文学の一分野。太陽,惑星,恒星,星間ガス,銀河など宇宙全体からくる波長 1mmから 20mの範囲の電波を電波望遠鏡によって検出する。ほかに,レーダによって流星の飛路,月,惑星などをとらえる技術もある。20世紀の後半には電波天文学の発展によって,天文学のまったく新しい局面が切り開かれた。可視光線によって見える天体は恒星が主で,可視光は星間空間中に広がる塵粒子に散乱され,遠方を見通せないが,電波はほとんど吸収を受けず,可視光よりも遠方を見ることができる。電波によって星間ガス,パルサークエーサーなどの存在が明らかになった。1931年カール・ジャンスキーが初めて宇宙からの電波をとらえ,天の川つまり銀河系が電波を出すことが明らかになった。1950年代,電波源はくちょう座Aが電波銀河であること,おうし座Aがかに星雲と一致することが明らかになった。また,水素原子の出す 21cmの線スペクトルが検出され,銀河系内の渦巻構造が解明された。1960年代になり,電波源のいくつかが非常に遠方にある特異な銀河,つまりクエーサーであることがわかった。また 1965年,アノー・ペンジアスとロバート・ウィルソンは 3K宇宙背景放射を発見,膨張宇宙論(ビッグバン説)の正しさを裏づけた。1967年にはアントニー・ヒューウィッシュがパルサーを発見,中性子星の存在が明らかになった。1960年代以後,水酸基,水,アンモニア,一酸化炭素,エチルアルコールなどの線スペクトルが見つかり,低温のガス雲の研究が飛躍的に発展し,星間物理学,星形成の理解が深まった。

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百科事典マイペディア 「電波天文学」の意味・わかりやすい解説

電波天文学【でんぱてんもんがく】

宇宙からの電波を受信して天体を研究する天文学の一部門。1931年K.G.ジャンスキーの銀河電波の発見に始まり,第2次大戦後電波望遠鏡の発達とともに急速に発展。太陽電波,月・木星・金星・すい星等の電波,宇宙電波,銀河電波,電波星などが対象。水素の発する21cm波の検出は銀河系の構造の研究に手がかりを与え,また恒星状天体(クエーサー)の発見は宇宙の構造と進化を解く重要な鍵とみなされている。
→関連項目電波望遠鏡

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