改訂新版 世界大百科事典 「足迹」の意味・わかりやすい解説
足迹 (あしあと)
徳田秋声の長編小説。1910年(明治43)《読売新聞》に発表。12年,新潮社から刊行。秋声の妻はまの彼と結婚するまでの前半生を素材とした作品で,《黴(かび)》の姉妹編。お庄の一家は,故郷の田畑・家屋敷を処分して得た金を元手に都会で一旗挙げるべく,家族こぞって上京するが,父親は事業に失敗し,一家離散の悲運が訪れる。両親のもとを離れたお庄は,浅草の小間物屋,湯島で下宿屋を営む伯母の手伝い,日本橋の商家の女中奉公というように,他人の家を転々とした後,郊外の料理屋の嫁となるが,夫に嫌気がさしてそこから逃げ出す。農村を離脱した中農の娘の眼に映じた都会の諸相が,冷徹なリアリズムの手法で的確に描き出されている。
執筆者:前田 愛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報